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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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ブログ・掲示板等ネット上で公開した文章や電子メールの著作権問題

ある個人が記載した文章には、「著作権」が発生します。そして、他人が記載した、つまりその人に著作権がある文章を無断転載すると、著作権侵害の問題が発生します。その意味で、文章を書いた人は、その文章に関する公開の権利を「独占」することができる訳です。

ただこれは裏を返せば、ある文章を誰かが書いた場合、他の人は同じ文章を書くことが許されなくなる、という意味です。例えば、単なる事実、「令和●年●月●日の天気は晴れで、気温は23.4度、湿度は50%だった」という文章について著作権が発生してしまうと、それと同じ文章を他人が書くことは許されなくなってしまう、ということです。これは明らかに不都合であると言えるでしょう。

著作権は、あらゆる種類の文章について認められる訳ではありません。法律用語で「著作物性」といいます。ある文章(など)に著作権が認められるための条件は、その文章に「著作物性」が認められること、と言われるのです。

サイト等で見られる様々な文章の著作物性は、どの程度の範囲まで認められるのでしょうか。本記事では、裁判傍聴記、ネット掲示板への匿名投稿、転職情報、電子メールについて、著作物性が問題とされた事案を紹介します。

裁判傍聴記の場合

原告が、裁判傍聴記をネットで公開したところ、これを元にした記事がブログに無断で複製掲載されたため、傍聴記に対する著作権を侵害されたと主張して、「Yahoo!ブログ」に発信者情報開示と記事削除を求めた事例があります。

原告は、東京地方裁判所で開かれたライブドア事件の裁判で、被告人堀江貴文に対する証券取引法違反被告事件の第4回公判期日において行われた証人尋問を傍聴した結果をまとめ、傍聴記としてネットで公開したのですが、これを、第三者が「Yahoo!ブログ」のうちの「Yahoo!ブログ・ライブドア被害者日記」と題するブログに原告に無断で転載したのです。

1審は、原告傍聴記は著作権法2条1項1号の「著作物」に該当しないとの理由により請求を棄却したので、原告は控訴しましたが、控訴審において裁判所は、著作権法10条2項2の「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。」を参照しつつ、

言語表現による記述等における表現の内容が、専ら「事実」(この場合における「事実」とは、特定の状況、態様ないし存否等を指すものであって、例えば「誰がいつどこでどのようなことをいった」、「ある物が存在する」、「ある物の態様がどのようなものである」ということを指す。)を、格別の評価、意見を入れることなく、そのまま叙述する場合は、記述者の「思想又は感情」を表現したことにならないというべきである。   

知的財産高等裁判所2008年12月11日

とし、その上で原告作成の裁判傍聴記(原告傍聴記)の個々の記述について創作性を詳細に検討し、その著作物性を否定して、情報開示と記事削除の請求を棄却しました。著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項)であり、その要件として創作性が必要となるわけですが、裁判傍聴記一般について著作物性を否定したものではないということには、注意しておいていいでしょう。

ネット掲示板への投稿文章の場合

ホームページ上の掲示板に文章を書き込んだ原告らが、同文章の一部を複製(転載)して書籍を作成し、これを出版した被告らに対し原告らの有する著作権が侵害されたとして、書籍出版の差止め及び損害賠償金の支払等を求めた事例があります。情報産業に関連するインフォメーションサービス、出版事業等を営む株式会社が、その事業の一つとして、ホテル愛好者の親睦と情報交換のための会員制組織を運営し、ホームページ上に掲示板を設け、会員たちはハンドルネームを用いて文章を投稿し、情報交換をしていました。このうちの10人が、著作権が侵害されたとして提訴したのです。

裁判所はまず、匿名による著作物の公表であっても、著作物性を肯定する妨げにならないことは著作権法上明らかであるとした上で、

著作権法による保護の対象となる著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものである」ことが必要である。
「思想又は感情を表現した」とは、単なる事実をそのまま記述したような場合はこれに当たらないが、事実を素材にした場合であっても、筆者の事実に対する何らかの評価、意見等が表現されていれば足りる。また、「創作的に表現したもの」というためには、筆者の何らかの個性が発揮されていれば足りるのであって、厳密な意味で、独創性が発揮されたものであることまでは必要ない。他方、言語からなる作品において、ごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が現れていないものとして、創作的な表現であると解することはできない。

東京地方裁判所2002年4月15日判決

とし、その観点から原告各記述部分の著作物性について判断し、原告各記述部分のうちの一部は筆者の個性が発揮されたものとして、「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえるとし、著作物性を認め、被告らに著作権侵害による損害金の支払いと書籍の廃棄、出版禁止を命じました。

被告記述の一例をあげると、

夏に最長9日間予定でアジアリゾート行きを計画しています。第一希望はウブドです。しかし、同行人がウブドに9日間なんて絶対に飽きるから嫌だといいます。

であり、これに対応する転載文は、

夏に最長九日間の予定でアジアリゾート行きを計画しています。第一希望はウプドゥですが、同行人がウブドゥに九日間なんて絶対に飽きるから嫌だといいます。

でした。本判決は、ホームページ上の文章の著作物性を認めた初めての判決なのですが、著作物性の有無の判断においてホームページ上の文章と一般の文章とを区別して考える理由がないとして判断しました。

転職情報の場合

原告会社が創作しそのウェブサイトに掲載した転職情報の文章を、被告会社が開設するウェブサイトに無断で複製ないし翻案して転載したとして、著作権(複製権、翻案権、送信可能化権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害されたと主張して、原告会社が掲載行為の差止め及び損害賠償等を求めた事例があります。ネット上に開設するウェブサイト等を利用して会社の転職情報を提供する原告会社が、転職情報の掲載を希望する事業者(シャンテリー)から依頼を受けて取材を行い、文章を作成して転職情報として掲載したところ、被告会社も同じ事業者から転職情報に関する広告の作成及びウェブサイトへの掲載について注文を受け、原告会社の転職情報の文章を複製ないし翻案して転載したのです。

裁判所は、

シャンテリーの転職情報広告を作成するに当たり、同社の特徴として、受注業務の内容、エンジニアが設立したという由来などを、募集要項として、職種、仕事内容、仕事のやり甲斐、仕事の厳しさ、必要な資格、雇用形態などを、それぞれ摘示し、また、具体的な例をあげたり、文体を変えたり、「あくまでエンジニア第一主義」、「入社2年目のエンジニアより」などの特徴的な表題を示したりして、読者の興味を惹くような表現上の工夫が凝らされていることが認められる。

東京地方裁判所2003年10月22日判決

とし、「読者の興味を惹くような疑問文を用いたり、文章末尾に余韻を残して文章を終了するなど表現方法にも創意工夫が凝らされているといえるので、著者の個性が発揮されたもの」であるとして、著作物性を肯定し、著作権の行使につき受けるべき金銭の額として15万円、弁護士費用50万円、合計65万円の支払いを命じました。

被告会社は、転職情報は事業者に対するインタビューに基づき作成されたものであるから、著作者は事業者であり原告ではないし、仮に原告が著作者であるとしても共同著作者にすぎないと主張したのですが、裁判所は現実に当該著作物の創作活動に携わった者が著作者となるのであって、作成に当たり単にアイデアや素材を提供した者は著作者ではないとしています。

なお、原告転職情報の一例は、

その案件は、エンジニアにとってスキルの向上につながるか…
キャリアアップに役立つ業務知識やノウハウが得られるか…
開発環境や条件は希望を満たしているか…
ひとつのプロジェクトが完了したとき、関わったエンジニア自身があらゆる面から深い満足を得られるような仕事であること。
それが、シャンテリーが案件を選択するときの基準です。 

であり、これを複製したとされる被告転職情報は、

その案件は、エンジニアにとってスキルの向上につながるか…
キャリアアップに役立つ業務知識やノウハウが得られるか…
開発環境や条件は希望を満たしているか…
一つのプロジェクトが完了したとき、関わったエンジニア自身があらゆる面から深い満足を得られるような仕事であること。
それが、シャンテリーが案件を選択するときの基準。 

でした。

電子メールの場合

三島由紀夫と同性愛関係にあった著者が、三島との関係を叙述した自伝的告白小説を出版しましたが、その中に未公表の三島の手紙・葉書15通(本件各手紙)が掲載されていたことから、三島の子である原告らが著作権法116条の遺族(著作者の死後における人格的利益の保護者)となっているところ、三島の公表権の侵害となるべき行為(著作権法60条)であるとして、出版・頒布等の差止め、書籍の廃棄、複製権侵害による損害賠償を求めた事例があります。

この裁判で、裁判所は、折々の心情・人生観・世界観等が、文芸作品とは異なり飾らない言葉を用いて述べられており、本件各手紙は、いずれも、三島由紀夫の思想又は感情を個性的に表現したものであることは明らかであるとして、手紙の著作物性を肯定しています(東京高等裁判所2000年5月23日判決)。では、電子メールは、著作物として認められる可能性があるのでしょうか。

宗教団体〇〇の幹部会員である原告が、ネット上のウェブサイト 「〇〇の実態」中の「脅しや強制はあるのか」と題するページ上に、自己が〇〇会の親睦団体会員らに送信したメールが転載され、著作権及び著作者人格権が侵害されたとして、経由プロバイダに発信者情報開示を求めた事例があります。

被告プロバイダは、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法10条2項)に過ぎず、本件メールの表現は平凡かつありふれたものであって、記述者の個性が発揮されているとはいえないとして、著作物には当たらないと主張したのですが、裁判所は、

  • 「人形形代」を書きまくりましょう!
  • やっと「人形ムード」になった方も多いのではないでしょうか?
  • B先生が「伊勢神業」のお取次をしてくださるまでの貴重なこの時間は、私たちに「人形形代」をもっともっと書かせて頂くための時間ではないでしょうか?

などの個性的な表現を含むとし、

十数文からなる文章であって、誰が作成しても同様の表現になるものとはいえないから、本件メールは、言語の著作物に該当すると認められる。
被告は、本件メールの表現内容は、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道に当たると主張するが、本件メールは、個性的な表現を含むのであって、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道に当たるということはできない。

と著作物であると認め、「本件記事には本件メールの表現上の本質的な特徴の同一性が維持され、本件記事に接した者は本件メールの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、本件記事は、本件メールを有形的に再製したものと認められる」として、原告が著作権等侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する意向を示していることから、発信者の情報開示を命じました。

手紙に関する一般的な理解を前提とする限り、本件メールは単に「事実」のみを伝えるものとは言い難いので、被告の主張が退けられたのは当然とは言えますが、「思想又は感情」が表現されているとしても、それが創作的なものでなければ著作物とは認められません。判決ではこの点については踏み込んでいませんが、「誰が作成しても同様の表現になるものとはいえない」という判断を理由として、著作物性を肯定しています。

まとめ

ネット上の様々な文章の著作物性は、どの程度の範囲まで認められるのかという問題は、非常に難しい問題です。引用について正確な知識を持ち、正しい手続きで引用するのなら問題はあまりありませんが、他人のブログの文章、サイトの記事、他者からのメールなどを安易に複製して、自己のブログやSNSに転載したりすることは非常に危険です。うっかり他人の著作権を侵害していることに気づいたり、逆に侵害されているかもしれないと判断したら、経験豊かな弁護士にご相談ください。速やかに対応することが必要です。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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