法律事務所・弁護士によるエスクロー・エージェントとしての業務
エスクローとは、取引の際に、売主と買主の間に第三者が入って、取引の安全を担保する仕組みです。つまり例えば
- 買主が売主に代金を送金する
- 売主が買主に商品を発送する
という順序だと、買主は、代金を送金したのに商品の発送を得られないリスクがあります。間にエスクロー・エージェントを挟んで
- 買主がエスクロー・エージェントに代金を送金する
- 売主はエスクロー・エージェントから代金受領の連絡を受けて商品を発送する
- 買主が商品を確認しエスクロー・エージェントに受領の連絡を行う
- エスクロー・エージェントが売主に代金を送金する
という仕組みを採れば、買主は上記のリスクを回避することができます。
こうしたエスクロー・エージェントは、信託銀行などが務めるケースが一般的ですが、弁護士や法律事務所がこの機能を果たすことも、一定の条件等の下では、可能です。
エスクローの概要と日本の法制度における位置付け
エスクローは、20世紀中盤にアメリカで不動産取引の決裁保全制度として誕生したシステムだと言われています。
日本では、「エスクロー業務」それ自体を規律する法律はなく、既存の法制度を利活用して、上記のエスクローエージェントとしての機能や信頼性担保の実現を目指す、ということになります。そして、最も一般的に用いられているのが、信託の仕組みを使うエスクローサービスであり、信託会社や信託銀行等が、こうしたエスクローサービスを提供しています。
日本国内でエスクローサービスを提供しようとする際には、以下のような法律が問題となります。
- 出資法:他の法律で特別に許諾されている者以外は、「業として預り金を行うこと」が原則的に禁止
- 銀行法:銀行業以外が為替取引業務(いわゆる送金業務)を行うことは禁止
- 資金決済法:銀行業以外のものでも、1回100万円以下の送金であれば、登録を受けることで為替取引業務を行うことが可能
以上の法規制より、上述のように、信託会社や信託銀行等による、信託を用いたスキームが一般的になっている訳です。
なお、ヤフオクやメルカリなど、一般ユーザー同士の売買の媒介を行うプラットフォームは、資金決済法の仕組みを用いて、上記の「1回100万円以下」のエスクロー業務を行っているケースが多いと言えます。
法律事務所・弁護士によるエスクロー業務
ただ、信託会社や信託銀行等のアカウント開設を待てない高額取引などの場面で、信頼性のある弁護士や法律事務所にエスクローとしての機能を果たすことを期待したい、というニーズも、あります。弁護士は預り金口座という特有の銀行口座を保有しており、クライアントの金員を当該口座に預かり、クライアントの指示で送金する事ができるからです。
そして、弁護士は、依頼を受けた「職務」について金員を預かることが可能です。したがって
- 不動産の売買に関する契約締結交渉といった「職務」を買主から依頼される
- その「職務」のために金員を預かる
- 職務遂行の過程で、契約締結交渉の後といったタイミングで、その金員を依頼者の指示に従って送金する
という業務を行うことが可能です。純粋なエスクローエージェントのように、送金部分だけの依頼を受けることはできませんが、
- 弁護士としての業務(不動産の売買に関する契約締結交渉など)の依頼を受け
- その「弁護士としての業務」の一環として、送金「も」行って
- 「弁護士としての業務」についての報酬を頂く
という形です。
- 弁護士は業法上「預り金口座」の開設を許可されている(というより、開設しなければならない)ため、出資法の規定との関係で適法
- 弁護士による送金行為は代理人としての送金であり、為替取引ではないので、銀行法や資金決済法との関係で適法
となり、法律事務所や弁護士は、上記のような形であれば、適法に「エスクロー・エージェント(に近い)業務」を行うことができます。
当事務所による業務のご案内
法律事務所や弁護士によるエスクロー業務は、上述のように、契約締結交渉などの弁護士業務の一環としてのみ、提供可能なものです。当事務所は、様々なビジネスに関連する契約書の作成やチェック、契約締結交渉業務を広範に取り扱っております。
モノリス法律事務所の取扱分野:契約書作成・レビュー等
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: IT・ベンチャー:契約書