広告取引基本契約書でトラブルを避けるための要チェックポイント
インターネットの登場で広告の手法が多様化し、広告取引に関する契約の内容も「雑誌広告」「ネット広告」「TV広告」とそれぞれのメディアの特性に合わせて作成しなければならなくなっています。
しかし、業務を依頼された者が広告業務を行い、依頼主がそれに対し報酬を支払うという請負契約の1つであることには変わりありません。
継続的に業務の依頼を行う場合には、基本的な取引条件を定めた基本契約と個別の取引の内容を定めた個別契約の2段階の契約によって行われることが一般的ですが、基本契約に漏れがあったり不完全であるとトラブルの原因となります。
そこで今回は、継続的な広告取引の際に最も重要となる「広告取引基本契約書」に関して、無用なトラブルを回避するための重要ポイントについて詳しく説明します。
この記事の目次
基本契約の役割
基本契約は、特定の相手との間で将来にわたり同様の取引が繰り返される場合に、全ての取引に共通する「契約の範囲」「支払条件」「損害賠償」などの基本事項についてあらかじめ協議し締結する契約です。
個々の取引の際には基本契約で定められていない、それぞれの取引に関する「業務の内容」「補報酬」「納期」などを定めた簡易な個別契約を締結します。
基本契約で定めておくことにより、個別の取引を行う際には業務に関するやりとりだけで済むため、基本契約があると個々の取引をスムーズに進めることができるメリットがあるのです。
それでは、次項から広告取引基本契約書の重要なチェックポイントについて、一般的な条文を用いて説明します。
依頼業務に関する条項
第◯条 (定義)
本契約において、広告宣伝取引とは、甲が乙に対し甲の商品およびサービスの宣伝広告に関し、次の各号のいずれかに定める業務(以下、「本件業務」という)を依頼し、その対価を乙に支払うことをいう。
1. 広告宣伝方法の企画・立案
2. 広告媒体の選定(インターネット広告、及びその他の電子メディア等)
3. 広告の出稿管理
4. 前各号に付帯関連して甲が乙に発注する一切の業務
ここでは、基本契約の前提となる「広告宣伝取引」の内容を定義しています。
ただし、4に定める付帯業務の中に「デザイン」や「制作」などが含まれる場合には、本件業務に「広告のデザイン及び制作」と分けて記載する必要があります。
その理由は、制作物にはいろいろな権利が発生することが多々あり、制作の過程で生み出された「成果物」の扱いとともに、特許権・意匠権・著作権などの「知的財産権」の帰属に関する条項が必要となるからです。
同時に、制作物の「検収」に関する条項も別途必要となります。
基本契約と個別契約の関係に関する条項
第◯条 (本契約と個別契約)
⒈ 本契約の定めは、広告宣伝取引に関し発注ごとに甲乙間で締結する全ての個別の契約(以下「個別契約」という)に対して適用する。
2. 前項の規定にかかわらず、甲乙間で本契約と異なる定めをした個別契約を締結した場合には当該個別契約が優先されるものとする。
この条項は「基本契約」と「個別契約」の関係を明確にするとともに、2つの契約の間で矛盾や抵触する定めがある場合の優先順位を規定するものです。
ここでは個別契約を優先すると規定していますが、担当者レベルで交わされることが多い個別契約で基本契約の定めを変更されるよりも、弁護士のチェックを受けて十分検討し作成した基本契約を優先する方が安心できるという考え方もあります。
優先条項が無い場合には、後に締結した個別契約が優先するという見方もありますが、明確に優先に関し規定していない以上はどちらが優先とは言えません。
そのため、この条項を入れ忘れてしまうと当事者間でトラブルに発展する可能性もあり、注意が必要です。
個別契約に関する条項
第◯条 (個別契約の成立)
⒈ 個別契約は、発注日、業務の名称、業務の内容、数量、対価、履行時期などの必要事項を記載した注文書を甲が乙に送付し、当該注文書に対する注文請書を乙が甲に送付し甲が受領したときに成立する。
⒉ 前項の注文書及び注文請書は、電子メールまたはファクシミリ送信よって代替することができるものとする。
個別契約では、業務依頼の内容を明確にすることともに、いつ個別契約が成立するかを明確にしなければなりません。そのためには、業務委託や受託に必要な項目に漏れがないよう、甲乙間であらかじめ注文書や注文請書などの書式を決めておくと良いでしょう。
上記の見本には1つ問題点があります。それは、注文書に対する返答期限が定められていないことです。これを定めておかないと、発注者である甲が求める履行時期に間に合わなかったときの責任の所在があいまいになってしまいます。
そこで、次のような条文を第1項の末尾に追記し、回答期限を明確にすることも考えられます。
「ただし、注文書の送付後○○営業日以内に乙から甲に対し回答がないときには、当該注文書に関する個別契約は成立したものとみなす。」
業務の再委託に関する条項
第◯条 (再委託)
⒈ 乙は、本契約又は個別契約に基づく業務の全部又は一部を甲の事前同意なしに第三者に再委託できるものとする。
⒉ 乙が前項の再委託を行う場合には、乙は当該再委託先に本契約及び個別契約と同等の義務を遵守させるものとする。なお、乙が再委託を行なった場合においても、本契約及び個別契約で負う乙の責任を免れることはできない。
再委託の場合にポイントとなるのは、甲の事前同意を条件とするかどうかです。上記の例では、事前同意は不要としていますが、業務内容によっては事前同意を条件とすることも考えられます。
もう1つのポイントは、第三者に対して本契約及び個別契約で定める乙と同等の義務を遵守させると規定していますが、これはあくまでも甲乙間の契約であって本契約の当事者ではない第三者に対し、甲が契約違反を理由として損害賠償を請求することはできません。
なお、こうしたリスクを回避する場合には、
「再委託先の行為についての一切の責任は乙が負うものとする」
という条文を第1項末尾に追記する方法があります。
秘密保持に関する条項
第◯条 (秘密保持)
⒈ 甲及び乙は、本契約及び個別契約に基づき相手方から秘密である旨を明示された上で開示された情報(以下「秘密情報」という)について、本契約及び個別契約の目的以外に使用してはならず、相手方の事前の書面による承諾を得ずに第三者に開示、漏洩してはならない。
秘密保持条項で最も重要となるのは“何が秘密に該当するか”を特定することですが、上記では「秘密である旨を明示された情報」と規定しています。しかし、口頭やモニターの画面上で開示された情報は証拠に残らないため、当該秘密情報の漏洩があったときに守秘義務違反であるとする主張が困難になります。
そこで、口頭などの記録に残らない秘密情報を特定するためには、秘密情報の補足として次のような文言を追記すると良いでしょう。
「口頭やモニターの画面上で開示された情報については、開示の際に秘密である旨を告知し、かつ○日以内に秘密情報であること及びその内容を書面で相手方に通知した情報」
なお、秘密保持条項に関しては、下記記事にて詳述しています。
有効期間及び更新に関する条項
第◯条 (有効期間)
⒈ 本契約の有効期間は、○○年○○月○○日より○○年○○月○○日までとする。但し、期間満了の3ヵ月前までに甲乙のいずれからも本契約を更新しない旨の申し出がないときにはさらに1年間延長するものとし、以後も同様とする。
⒉ 本契約が終了した場合といえども、本契約の有効期間中に締結された個別契約が存続している場合には、当該個別契約に対し引続き本契約の各規定が適用されるものとする。
有効期間に関する条項のポイントは契約が自動更新か否か、自動更新であれば終了する方法について明確に規定されているかどうかです。
上記の場合、問題になる可能性があるのは「更新しない旨の申し出」をする方法が明記されていないことです。
そのため、口頭で申し出をした場合に証拠が残らないため、期間満了の3ヵ月前までに申し出が行われたかどうかについてトラブルになる事もあるので「書面又はメールで申し出る」などと、申し出の方法も指定しておくと良いでしょう。
また、秘密保持義務や損害賠償などに関する規定は契約期間終了後も存続させた方が良い場合もあります。
その場合には、見本のように個別の条項の中で規定する方法もありますが有効期間とは別に「存続条項」に関する規定を設けて、対象となる条項をまとめて記載する方法も考えられます。
損害賠償に関する条項
第◯条 (損害賠償)
乙は、本契約及び個別契約で定めた本件業務の不履行、又は履行により、甲が損害を被ったときは、実際に生じた通常かつ直接の損害を賠償するものとする。但し、賠償額は当該本件業務に対し甲が乙に対して支払った金額を上限とする。
損害賠償の条項は必ず入れなければなりませんが、契約の内容によって双方に損害が発生する可能性がある場合には双方の損害賠償義務を定める必要があります。
上記の見本では乙の甲に対する損害賠償義務のみを規定していますが、前述の「秘密保持義務」のように双方が義務を負う条項に関しては、本契約の違反による損害が乙に生じる可能性もあります。
対処方法としては、第1項で甲又は乙が本契約及び個別契約に違反した場合の損害賠償義務を定めておき、2項で見本のように乙の甲に対する損害賠償義務を定めるのが良いでしょう。ただし、上記の条項のままだと乙が負う賠償責任の範囲が広すぎるので次のような適用除外の補足条文を追記することも考えられます。
「但し、乙の故意または、重過失がある場合は適用しないものとする」
基本契約と個別契約の税法上の扱い
基本契約と個別契約とでは印紙税法上の扱いが異なるので注意しなければなりません。
特定の相手と3ヶ月以上の期間にわたって継続的に取引を行う際の基本契約については、印紙税法の第7号文書に該当するので1通につき4,000円の収入印紙が必要となります。
また、個別契約は請負に関する契約書なので第2号文書に該当するため、請負金額に応じて定められた印紙税の支払いが必要です。
もし、契約書に収入印紙を貼らない場合には2倍の過怠税が課され、消印をしなかった場合にも同額の過怠税の支払が課せられるため、印紙税の負担などについても基本契約で規定しておくことも考えられます。
まとめ
広告取引基本契約書の役割や個別契約との関係などの基本的な知識や、相手方とのトラブルを避けるための重要なチェックポイントについて解説してきました。
インターネットなどの新しいメディアを広告媒体として利用することによる可能性は大きなものがありますが、契約の内容によっては大きなリスクを抱えることもあります。
さまざまな形態がある広告取引を成功させるには、専門的な法律知識と経験豊富な法律事務所に相談しアドバイスを受けることをおすすめします。
なお、インターネット広告代理店の契約書に関しては、下記記事にて詳述しています。
当事務所による契約書作成・レビュー等のご案内
モノリス法律事務所は、IT・インターネット・ビジネスに強みを持つ法律事務所として、広告取引基本契約書に限らず、様々な契約書の作成・レビューといった業務を、顧問先企業様やクライアント企業様に対して提供しております。下記ページにて詳細を記載しております。