医薬品の広告掲載の法規制 薬機法を解説
2014年6月12日に薬事法(現在の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律、以下「薬機法」といいます。)の一部が改正され、一部の医薬品を除き、インターネットでの医薬品の販売が可能になりました。
これに伴い、インターネットで医薬品に関する広告を目にする機会が増えましたが、医薬品に関する広告の中には、法律的に問題がある広告も少なくありません。
そこで、本記事では、医薬品の広告掲載を考えている事業者の方を対象に、医薬品の広告に関する法規制を紹介します。
この記事の目次
薬機法による広告規制とは
薬機法では、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保並びに医薬品等の使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために、以下のような規制を行っています。
- 誇大広告等の禁止(66条)
- 特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限(67条)
- 承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止(68条)
上記の規定に違反した場合、厚生労働大臣又は都道府県知事から、違反行為の中止、違反行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他公衆衛生上の危険の発生を防止するに足りる措置をとるべきことを命じられる可能性があります。
また、医薬品に関して虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布した場合には、厚生労働大臣から、課徴金納付命令を受ける可能性があります。
以下では、薬機法による広告規制に関して、詳しく説明します。
医薬品の法律的な定義とは
全ての薬が「医薬品」に該当するわけではなく、薬機法で規定された定義に該当する場合に、薬機法上の「医薬品」と判断されることになります。
「医薬品」の定義については、以下の薬機法第2条第1項で規定されています。
(定義)
第二条 この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。
一 日本薬局方に収められている物
二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)
三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)
日本薬局方について、聞いたことが無いという方も多いと思います。
日本薬局方については、厚生労働省のホームページで、以下のように紹介されています。
日本薬局方は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第41条により、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000066530.html
この日本薬局方に記載されているものについては、上記の第2条第1項第1号により、「医薬品」に該当します。
また、日本薬局方に記載されていないものでも、人または動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物や、人または動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物で、機械器具等でなく、かつ、薬機法で規定されている医薬部外品等に該当しない場合には、上記の第2条第1項第2号や第3号により、「医薬品」に該当することになります。
医薬品の広告表現規制
医薬品に関する広告表現規制については、前述のように、誇大広告等、特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告及び承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告が対象となっています。
「広告」の定義
薬機法上に「広告」という用語が登場しますが、薬機法の中で、「広告」の定義に関する規定はありません。
薬機法上の「広告」については、以下の「薬事法における医薬品等の広告の該当性について
(平成10年9月29日医薬監第148号都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省医薬安全局監視指導課長通知)の中で、3要件が示されています。
- 顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること
- 特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であること
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/koukokukisei/dl/index_d.pdf
特定の表現行為が行われ、上記の3要件のいずれにも該当する場合には、薬機法上の「広告」に該当すると判断されることになります。
「広告」を規制される主体
広告を規制される主体としては、対象となる医薬品を販売している事業者のみであると考える人もいるかもしれません。
ただ、薬機法の目的は、前述のように、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保並びに医薬品等の使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止です。
これらの目的との関係では、対象となる医薬品を販売している事業者だけでなく、他の者が広告を行う場合についても規制を行わなければ、目的を達成することができません。
そのため、薬機法では、広告を規制される主体に限定はなく、一般の人や医薬品を販売していない事業者でも、医薬品に関する広告を行った場合には、薬機法上の規制を受けることになります。
どのような表現が規制の対象となるのか
前述のように、薬機法上の規制の対象となるのは、誇大広告等の禁止(66条)、特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限(67条)及び承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止(68条)です。
そこで、以下では、それぞれの規制について説明をします。
誇大広告等の禁止(66条)
誇大広告等の禁止については、薬機法第66条で、以下のように規定されています。
(誇大広告等)
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。
誇大広告等の禁止の内容をまとめると以下のようになります。
- 医薬品等の名称、製造方法、効能・効果、性能に関する虚偽・誇大な記事の広告・記述・流布の禁止
- 医師等が保証したと誤解を与えるおそれのある記事の広告・記述・流布の禁止
- 堕胎暗示、わいせつ文書・図画の使用禁止
特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限(67条)
特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限については、薬機法第67条で、以下のように規定されています。
(特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限)
第六十七条 政令で定めるがんその他の特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品又は再生医療等製品であつて、医師又は歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生ずるおそれが特に大きいものについては、厚生労働省令で、医薬品又は再生医療等製品を指定し、その医薬品又は再生医療等製品に関する広告につき、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法を制限する等、当該医薬品又は再生医療等製品の適正な使用の確保のために必要な措置を定めることができる。
2 厚生労働大臣は、前項に規定する特殊疾病を定める政令について、その制定又は改廃に関する閣議を求めるには、あらかじめ、薬事・食品衛生審議会の意見を聴かなければならない。ただし、薬事・食品衛生審議会が軽微な事項と認めるものについては、この限りでない。
特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限については、使用に当たって、高度な専門性が要求される、がん、肉腫及び白血病の医薬品の医薬関係者以外の一般人を対象とする広告が制限の対象となります。
そのため、医療関係者を対象とする場合には、規制の対象とはなりません。
承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止(68条)
承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止については、薬機法第68条で、以下のように規定されています。
(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)
第六十八条 何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。
承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止については、承認(又は認証)前の医薬品又は医療機器について、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告が禁止の対象となります。
まとめ:専門の弁護士にご相談を
以上、医薬品の広告掲載を考えている事業者の方を対象に、医薬品の広告に関する法規制を紹介しました。
医薬品の広告に関しては、よく調べずに行ってしまうと法律に違反してしまう可能性があります。
特に誇大広告等の禁止に抵触するケースが多いと考えられますので、医薬品に関する広告を行おうと考えている事業者の方は注意が必要です。
医薬品の広告規制に違反するかどうかは、掲載を考えている広告の内容との関係で、具体的に判断を行う必要がありますので、医薬品に関する広告の掲載を考えている事業者の方は、専門的知識を有する弁護士に相談をすることをおすすめします。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: ビジネスモデルの適法化