日本企業が海外進出を検討する際に押さえておくべきポイントを徹底解説
「海外に法人を設立する予定を立てている」といったように、企業が海外進出を計画する上では進出先の国の法規制について知っておくことが重要です。ビジネスチャンスを捉え、事業を展開していくには、海外の法律に関する適切な知識と理解が不可欠です。
この記事では、企業が海外展開を成功させるための具体的なステップ、リスクを最小限に抑えるための対策を分かりやすくご紹介します。
この記事の目次
海外進出する方法
企業が海外進出する方法には、主に以下の3つがあります。
- 現地法人
- 海外支社
- 駐在員事務所
中でも現地法人を設立する際は、その国の法律に基づいて新たに法人を設立することになります。現地法人はその国内で事業を行うための最も一般的な形態であり、企業の成長を目指す場合に適しています。
一方で、海外支社の設立は国内の本社が直接運営管理を行い、海外市場への対応を図るための手法です。支社は本社との緊密な連携が求められますが、一定の自由度を持ちながら活動できます。
駐在員事務所の設立は、海外市場の潜在能力をリサーチしたり、特定のビジネスパートナーとの関係を築いたりする上で有効な方法です。
以下でそれぞれの方法について詳しく解説します。
現地法人
現地法人とは、法的に独立した法人を現地に設立し、海外でビジネスを展開するための枠組みを持つことです。設立のためには、対象国の法要件を確認した上で、主に以下の手続きが必要です。
- 法人登記
- 税務登録
- 営業許可
- 雇用契約
国や当該地域の法律に基づき、法人の形態を選択します。法人の形態によって法的責任や税務上の取り扱いが異なるので、適切な形となるように注意が必要です。
現地法人を設立することで、地元のニーズや市場特性に適応し、効果的なマーケティングや顧客サポートの実現が期待できます。
その一方で、法令変更への対応や、文化の違いからくるリスクには注意が必要です。
新市場で成功するための重要な手段ではありますが、現地の法律や制度についての理解が必須となるため、専門家やコンサルタントの支援と慎重な事業戦略が必要になります。
海外支社
海外支社は、本社の拠点とは異なる国や地域において、事業活動を行うために設立される事業所です。本社から一定の独立性を持ちつつ、意思決定や運営方針は本社からの指示に基づきます。本社と同じ法人であり、法的に一体化していることから、支社は本社のリスクと利益を共有します。
支社を設立するためには、対象となる国や地域の法的要件を確認し、会社登記や営業許可、税務登録などの手続きを行うことが必要です。
支社を設立することで、企業は現地の市場により密接にアプローチできます。また、地元の消費者や取引先と直接対話し、地域特有のニーズへの対応が可能です。
ただし、海外支社の場合も、海外の法的な要件や税務規制、文化的な違いへの対処が欠かせません。現地の法務や税務の専門家の協力を仰ぎ、慎重かつ戦略的に進める必要があります。
駐在員事務所
駐在員事務所とは、本社が拠点を置く国や地域以外に、一時的な拠点を設けることです。多くの場合、本社から派遣された駐在員によって運営されます。
駐在員事務所の目的は、市場調査や営業活動などの一時的な業務を効果的に遂行することです。そのため、完全な現地法人や海外支社を設立する前段階の手段として検討されることがあります。
駐在員事務所の設立においても、現地の法的要件や規制を確認し、必要な手続きを遵守しましょう。事業の性質や地域によって、異なる法的手続きや許可が必要になる場合もあります。
駐在員事務所の主な利点は、比較的迅速かつ低コストで海外進出を開始できることです。企業が新しい市場に進出する最初のステップとして有用です。ただし、現地法の規制で営業活動や雇用に制約が生まれ、駐在員事務所の活動は限定的となる可能性があります。
本格的な進出や拡大を考える場合は、将来的に法的実体(法人や支社など)の設立が必要となるかもしれません。
海外進出する際の法律上の留意点
企業が海外進出する際の留意点として、以下の3つが挙げられます。
- 現地の法規制
- 労務・税務の管理
- 言語・コミュニケーション
まず大切なことは、現地の法規制に対する理解です。該当する国の商習慣・法律・規制などに精通していることが求められ、これらに適切に対応しないと、思わぬ法的問題に巻き込まれる可能性があります。加えて、海外での労働法や税法、ビジネスにおけるコミュニケーションの違いを理解することも重要です。法律や文化は国や地域によって大きく異なるため、それに対応した戦略が必要です。
現地の法規制
現地の法規制を理解し、適切に対応することは、企業が海外でビジネスを展開する際に留意すべき重要なポイントです。
- 事業を開始する前の許認可や登録
- 知的財産権の法的保護(特許や商標、著作権など)
- 環境法に関する要件
業種や事業の性質によっては、上記とは異なる特定の法規制が適用されることがあります。例えば、金融業や医薬品業などの事業者には、一般的に厳格な規制が課されます。
現地の法規制に違反すると、罰則が科せられることがあります。企業はコンプライアンスを確保し、法令順守を徹底することが重要です。
労務管理と税務のポイント
まず労務管理において、重要な点は以下の通りです。
- 現地法に基づく適切な雇用契約の締結
- 労働時間や解雇手続きなどの法遵守
- 現地水準に適した報酬体系
- 給与や手当における社会保障制度や健康保険の考慮
他には、労働安全衛生や、従業員の教育・研修なども労務管理の一環で定めることが望ましいでしょう。
次に税務において、重要な点は以下の通りです。
- 法人税や消費税などの税制
- 税務申告の期限
- 適切な取引価格
- 活用できる税制優遇制度
これらを適切に管理することで、現地の法制度や税制に適応し、国際ビジネス展開が可能となります。
言語や文化の違いに配慮した施策が必要
言語とコミュニケーションは、企業が海外進出する際に重要な留意点です。前提として、進出先の国や地域の主要な言語を理解し、現地でのビジネスに対応する能力が必要です。
業務やコミュニケーションが活発に行われる場合、現地の言語を話せるバイリンガル人材を配置することで、スムーズなビジネス展開が期待できます。異なる言語環境でのコミュニケーションが困難な場合、通訳や翻訳のサポートを利用しましょう。
また、言語だけでなく、文化的な背景やニュアンスの理解も重要です。海外進出時には、現地の文化に対して敬意を払い、適切なビジネスマナーを守ることが求められます。
社内の施策としては、アサインするメンバーに異文化コミュニケーションについて適切な教育をするなどの取り組みが挙げられます。
関連記事:海外進出に必要な国際法務とは?必要なスキルや業務内容について解説
海外進出先での取引や契約時のポイント
企業の海外進出では多くの要素を考慮する必要がありますが、特に重要なのは取引や契約についてです。契約書で紛争解決条項・準拠法を定めておくことは、紛争が発生した場合の解決方法や適用される法律を明確にするためのものです。
仮に法的な問題が起きてしまった際にも、迅速に解決するための準備をしておきましょう。
紛争解決条項・準拠法条項
海外取引での契約においては、契約書で紛争解決条項と準拠法を定めておくことが重要です。
紛争解決条項とは、契約書で紛争が生じた際の解決手段を定めるものです。紛争の解決手段の選択肢としては、訴訟、仲裁、調停等があり、国際契約では仲裁を選ぶことが多いです。仲裁を選んだ場合は、仲裁機関や手続きを明記します。
準拠法条項では、紛争発生時に適用される法律を当事者間において定めます。異なる国の企業が取引する場合、紛争発生時にどの国や地域の法律が適用されるかを合意により定めておくことが一般的です。具体的には以下の内容について定めておきます。
- 当事者の本社がある国
- 契約が執行される地域
- 取引の中心地
これらの条項を契約に含めることで、紛争解決がスムーズになります。
契約書の作成
海外と取引を行う際には、事案ごとの事情にあわせた契約書を作成することが重要です。上述した紛争解決条項や準拠法条項のほかに契約書で定めておくべき主な事柄は以下の通りです。
- 契約の有効期間など、基本的な情報
- 商品やサービスの提供、価格や支払いに関する条件
- 損害賠償の責任
- 契約の終了条件
- 秘密保持契約
契約時には、取引条件や法的要素を明確に示すことが重要です。専門家のアドバイスやリーガルチェックを受け、適切に契約書作成することが望ましいでしょう。
まとめ:紛争に発展した場合に相談できるパートナーがいると安心
企業の海外進出においては、現地法人・支社・駐在員事務所などの選択があり、それぞれの特性と利点を理解したうえで選択することが重要です。また、現地の法規制、労務・税務を理解したうえで、紛争発生時の準拠法等を契約書で定めておく必要があります。
海外の法規制についての理解を深めて、円滑なビジネスの展開を目指しましょう。法的なサポートが必要な場面では、経験豊富な専門家に相談することをお勧めします。
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