弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

投資契約とは?企業にとっての契約締結の必要性

投資契約

ベンチャー企業などが投資を受ける場合、知人やいわゆるエンジェル投資家から投資を受ける場合もあればベンチャーキャピタル(VC)から投資を受ける場合もあるでしょう。この際、知人から投資を受ける場合であれば、以前からの人間関係があることから投資契約を締結しない場合もあると思います。
一方、VCからの投資の場合には、投資契約を締結して欲しいと言われる場合がほとんどでしょう。このように投資を受ける際に耳にする投資契約ですが、そもそも投資契約とはどのような内容の契約なのか、投資契約はなぜ重要なのか、投資契約を締結する必要はあるのかなどについて十分に理解されていない部分もあります。そこで、本記事では、投資契約締結の重要性及び必要性について説明をします。

投資契約とはどのような契約か

投資契約締結にあたっての重要なポイント事項について説明していきます。

企業での活動については、企業、企業の経営陣、投資家、株主、企業の取引先などが登場します。投資契約とは、このうち、企業、企業の経営陣、投資家の利害関係を調整し、後にトラブルが生じることを回避するために必要な契約になります。

投資契約の内容としては、主に以下のような内容が含まれます。

  • 投資に関する基本的な事項についての内容
  • 投資の前提条件に関する内容
  • 株式に関する内容・会社の運営に関する内容
  • 投資の撤退に関する内容
  • 一般条項に関する内容

投資に関する基本的な事項についての内容

投資家に対しては、一般的に株式が発行されます。つまり、投資に関する基本的な事項とは、投資家が、企業に対して金銭を支払い、企業が投資家に対し株式を発行するというものになります。

そこで、投資に関する基本的な事項として、発行される株式の種類、発行される株式の数、株式の価格(株価)、投資をする人が払い込む金額の総額等に関する条項が規定されることになります。

投資の前提条件に関する内容

投資家は、もしかしたら損をするかもしれないというリスクを負いながら投資を行います。このリスクをゼロにすることはなかなか難しいですが、企業に関する適切な情報を得ることができれば、リスクを減らすことが可能です。そこで、投資家が投資を決めるための前提条件に関する条項が規定されることが多いです。

例えば、企業が投資家に開示した貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュ・フロー計算書(C/F)、株主資本等変動計算書(S/S)などの財務諸表の内容の正確性などを投資家に対し表明し、保証する表明保証条項(Representations and Warranties)を規定することが考えられます。

関連記事:投資契約における表明保証条項とは

また、企業が投資家に情報を開示した後に、後発的な事象が生じていないことを確認する条項や、株主総会議事録など投資家が投資を行う上で重要な文書を企業が投資家に提出する旨を規定する条項など、投資家が投資を決定する前提条件に関する条項を規定することが考えられます。

株式に関する内容

一概に株式といっても、その内容は必ずしも同一ではなく、以下のような内容につき、異なる内容が設定できるものとされています。

  • 剰余金の配当に関する内容
  • 残余財産の分配に関する内容
  • 株主総会における議決権の行使に関する内容
  • 株式の譲渡に関する内容
  • 株主が企業に対し株式の取得を請求することに関する内容
  • 一定の事由が生じた際に企業が株主から株式を取得することができることに関する内容
  • 企業が株主総会の決議によって株式の全部を取得することができることに関する内容
  • 種類株主総会の決議の要否に関する内容
  • 種類株主総会において取締役や監査役を選任することに関する内容

関連記事:ベンチャーの投資契約における種類株式の発行とその内容

投資家からみればよりよい条件の株式を取得したいと考えますが、企業からみれば、投資家に企業の支配権を与えてしまうような株式の発行は避けたいと考えますので、株式に関する内容は、投資契約の内容としてしっかり規定しておく必要があります。

企業の運営に関する内容

上場企業など運営がしっかり行われている企業に投資する投資家の場合、企業の運営にあまり興味のない投資家も多いです。ただ、ベンチャー企業など運営が必ずしもしっかりと行われているとはいえない場合には、投資家が企業の運営に関わってくることも考えられます。

そこで、投資契約の内容として企業の運営に関する条項が規定されることがあります。例えば、VCが投資する場合には、VCの取締役などが投資を受ける企業の取締役へ就任することを認める条項や、投資を受ける企業の取締役会にオブザーバーとして参加することを認める条項が規定されることが考えられます。

関連記事:投資契約における取締役派遣条項とは

また、企業が意思決定を行う場合に投資家の承諾や同意を要求する旨の条項や、企業の運営に関する一定の事項につき、企業が投資家に通知することを要求する旨の条項が規定されることも考えられます。

投資の撤退に関する内容

投資契約の内容として、上記のように様々な条項が規定されますが、当事者が投資契約に違反する行為を行うことも考えられます。そこで、投資契約に違反する行為が行われた場合に、投資家が投資から撤退することに関する条項が規定されることがあります。

例えば、企業が投資契約に違反する行為を行い、投資家が投資から撤退するような場合があり得ます。この場合、投資家は、株式を発行した企業や、企業の代表者個人に、引き受けた株式を売却し、投資から撤退するということが考えられます。

関連記事:投資契約における株式買取条項とは

一般条項に関する内容

投資家は、何の情報もなく投資をするか否かを決定することはできません。そのため、企業から投資家に対して一定の情報が提供されることになりますが、投資家が第三者に情報を漏らすという状況が生じることを防ぐため、投資契約において機密保持に関する条項が規定されることが通常です。

また、投資契約の存続期間、企業と投資家の協議に関する条項、企業と投資家との間で紛争が生じた場合に備えるために裁判管轄条項等が規定されることが考えられます。

投資契約締結の重要性

投資契約における、必要性と重要性とは?

以上のように投資契約の内容について説明をしてきましたが、実は投資契約の締結は会社法上要求されている手続ではなく、投資契約を締結しなくとも企業が株式を発行することは可能です。ただ、投資契約は、以下のような理由から、締結をすることが重要であるといえます。

「投資を受けたが契約書がない」は企業側にとって非常に不利

まず、投資に関して、契約書が一切存在していない、という事態は、投資を受ける企業側ではなく、投資家によって「有利」な状況です。このことは、特に初めて投資を受けるベンチャー企業にとって理解しにくい事柄だと思われるため、以下、少し詳しく解説します。

まず、「投資家が企業にお金を振り込んだ」という現象だけが存在する場合、万一事後的に投資家が「やはりこの企業には投資を行うべきでない」と判断すると、企業側は不利な立場に置かれます。「投資家が企業にお金を振り込んだ」という現象が存在するのみでは、そのお金が、

  1. 「投資」として振り込まれた出資金
  2. 1のために前もって振り込まれた寄託金
  3. (一切の法律上の原因が無く、単に貸付などの形で振り込まれた金員)

のどれなのか、性質が確定しないからです。したがって投資家は、「以前振り込んだお金は寄託金である」などとして、企業に返金を求める余地が出てしまいます。そして一方、「やはり投資を行うべきである」と判断した場合、投資家は企業に対し、「ところで契約締結がまだだったので、投資契約を行いましょう」と求めることが可能です。したがって、「お金は振り込まれたが契約が存在しない」という場合、投資家は

  • 当該投資が失敗だと思えば返金を求める
  • 当該投資が成功だと思えば投資契約締結を求める

という選択肢を持つことになります。これは、投資を受ける企業側から見れば、非常に「不利」な状況です。

契約を締結しないと「資本金であること」が確定しない

つまり、投資に関する契約を締結することは、企業側から見れば、「そのお金は寄託金や貸付金ではなく、投資として振り込みを受けたお金であり、資本金である」ということを確定する行為に他ならないのです。

さらに付言すれば、特にシードステージのベンチャー企業等の場合、投資家からお金の振り込みを受けたら、速やかにそのお金を用いて事業投資などを行うことになるでしょう。したがって、事後的に返金を求められても、もはやそのお金は口座に残っていない、というケースも少なくありません。そうなると、上記の選択肢は、さらに企業側にとって不利になります。投資家は、

  • 当該投資が失敗だと思えば返金を求める
  • 当該投資が成功だと思えば投資契約締結を求める。ただし企業側は口座にお金が残っていない以上、「投資契約の条件が不利だから契約締結を拒む」という選択肢が既に残されていない。不利な条件であっても企業は契約締結に応じざるを得ない。投資家としては、いくらでも自分に有利な条件を「ごり押し」できる

という選択肢を持つことになるからです。

企業側から見て、「投資を受けたが契約書がない」という状態は、極めて不利なのです。

投資契約と総数引受契約

ただし、「投資家から投資を受けたものの、終局的に、それに関する契約書が一切ない」ということは、基本的にはあり得ません。

企業が株式を新たに発行した際には、その効力が生じたときから二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならないとされており(会社法915条1項、同法911条3項)、登記申請を行う際には、「総数引受契約書」を添付する必要があるため、投資契約書を締結し、投資の内容を明確にしておくことが必要となります。

とはいえ、総数引受契約書は、投資の実行前ではなく、実行後、登記のために作成されるケースも、実際問題としては多いものです。したがって結局、

  1. 投資契約締結
  2. お金の振り込み
  3. 総数引受契約の締結

というフローになり、そして、2と3の間に空白の、「お金は振り込まれたが契約が存在しない」という時間が発生してしまう訳です。

投資契約締結の必要性

投資契約には以上のような理由があるため、締結をする必要性が高いといえます。VCが投資家の場合には、投資契約を締結しないという状況が生じることは稀であると考えられますが、知人など、人間関係が近しい人との間では、投資契約の締結がうやむやになってしまうことも考えられます。

ただ、人間関係があったとしても、その人間関係が崩れてしまうことも考えられますので、投資契約はどのような場合であっても必ず締結するようにしましょう。

関連記事:シードラウンドでの投資契約締結の必要性

まとめ

以上、投資契約締結の重要性及び必要性について説明をしました。投資は、小さくない金額の金銭が動くことになりますので、しっかりと投資契約の内容を検討し、投資契約を締結することが必要です。また、投資契約は、売買契約や賃貸借契約のように、内容が平易な契約ではありませんので、必ず専門家である弁護士に作成してもらうか、弁護士によるリーガルチェックを受けるようにしてください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る