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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

総務省令改正で可能になった匿名Twitterによる誹謗中傷の電話番号開示請求とは?

風評被害対策

Twitterなど匿名利用が可能なSNSで誹謗中傷行為が行われた場合、投稿者特定をするには下記の手順が一般的でした

  1. まずTwitter等のサービス提供者を相手方として、当該投稿に関するIPアドレスの開示を請求する
  2. 開示されたIPアドレスからプロバイダを特定し、当該プロバイダを相手方として、ログの削除禁止を請求する
  3. 当該プロバイダを相手方として、投稿者に関する住所氏名の開示を請求する

また、この手続きが基本的に唯一の手段でもありました

しかし2020年の総務省令改正により、Twitterを相手方とした、つまり、上記フローの1部分に対する“もう一つの方法”として「電話番号の開示」を請求することができるようになりました。

先に結論を述べれば、上記の総務省令改正の後である現在も、IPアドレス開示請求が必要なケースはあります。

一方で、電話番号開示請求が有効なケースもあります。電話番号開示請求の仕組みと、IPアドレス開示請求を行う方法について、費用や期間などのポイントに絞って解説します

総務省令の改正と匿名Twitterの電話番号開示請求

総務省は、令和2年8月31日付の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令の一部を改正する省令の制定」で、以下の旨をアナウンスしています。

プロバイダ責任制限法第4条第1項に基づく開示請求の対象となる権利の侵害に係る発信者情報として、発信者の電話番号を追加する(改正省令第3号)。

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令の一部を改正する省令の概要

これは端的に言うと、

  1. いわゆるプロバイダ責任制限法(プロ責法)は、名誉毀損等の被害を受けた場合、「プロバイダ」に対して、当該投稿を行ったユーザーに関する、「総務省令が定める発信者情報」の開示を請求できる旨を定めている
  2. 「総務省令が定める発信者情報」とは何かという点について、従前は、IPアドレスなどしか定められていなかったが、今回の改正で、電話番号も追加された

というものです。そしてプロ責法のいう「プロバイダ」という概念は、いわゆるISP(固定電話の場合のKDDIや携帯電話回線の場合のdocomoなど)のみならず、ウェブサービス事業主(例えばTwitter)を含むものです。

この結果、例えばTwitter上で匿名アカウントによる誹謗中傷被害を受けた場合、Twitterを相手方として、当該投稿に関するIPアドレスの開示を請求することもできますし、電話番号の開示を請求することもできるようになりました

電話番号開示請求は「万能」ではない

素直に考えれば、これは、「従前は3ステップ必要だった投稿者特定手続が、2ステップで終わるようになった」ということであり、「明らかに従前よりも投稿者特定が容易になった」とも考えられます

しかし、そうとも言えない問題点が、大きく3つあります。これらについて、以下説明します。

問題点1:電話番号が登録されているとは限らない

ただし、ここで重要な問題があります。そもそも誹謗中傷対策の加害者のTwitterアカウントには、電話番号の登録がなされているとは限らないという点です。

Twitterの利用にあたって、アカウントの電話番号登録は、「必須」ではありません。TwitterのFAQによれば、電話番号を登録すると、ログイン認証等のセキュリティ機能を利用できるようになり、アカウントの保護に役立つ、友達を探したり探されたりすることができる、といったメリットがある旨は記載されています。とはいえ、電話番号登録は必須ではなく、登録のないアカウントも存在します

なお、この点に関して、現在のTwitterは、あるアカウントについて電話番号が登録されているか否か、パスワードリセット画面から確認可能である、という仕様です。具体的には、誹謗中傷を行うアカウントについて、「パスワードをお忘れですか?」からユーザー名を入力すると、そのアカウントについて登録されている電話番号及びメールアドレスが、下記のように表示されます。

上記のように「末尾が●●の携帯電話にコードを送信」という選択肢が表示されない場合は、当該アカウントには電話番号登録がされていない、ということです。ただこの仕様は、見ての通り、「あるユーザーの携帯電話番号の下2桁」を第三者から確認可能であるということであり、正しくTwitterを使っているユーザーから見て、少々「気持ち悪い」ものだとは言えるでしょう。この仕様がいつまで続くかには、何ともいえないところがあると思われます。

少なくとも一般論として、「あるユーザーが、あるサービス(Twitter)において、どのような情報を登録しているか」は外部からは見えないものであり、たまたま現在のTwitterの場合、上記のように、ある種「裏技」的な方法で、電話番号登録の有無を確認することができる、というに止まります。

問題点2:電話番号から住所氏名の特定は確実でない

また、仮にTwitterから電話番号の開示を受けることができたとしても、その次にどうするか、という問題があります。もちろん電話番号が判明したわけですから、その番号に架電し、相手が電話に出て、素直に自分の住所や氏名を述べてくれればいいのですが、こうした情報を答えることを拒絶された場合、またはそもそも電話に出なかった場合、その相手方に、名誉毀損等に基づく損害賠償請求を行うため、どのような方法で住所氏名の特定を行えばいいか、という問題です。

この点に関して、まず考えられるのは、電話番号が判明すれば携帯キャリア(docomoなど)が識別できるため、そのキャリアに対し、「当該電話番号を使っている契約者の住所氏名」の開示を求める、という方法です。そしてこの開示請求は、23条照会(弁護士会照会)が有効です

ただこの23条照会(弁護士会照会)は、照会を受けた携帯キャリアから見ると、「請求に応じて住所氏名を開示する義務がある」が「開示しなくても罰則がない」のが現状です。したがって、現実に照会に応じるか否かが、携帯キャリア側の運用に依存します。「裁判所の判決によって執行力をもって強制される」というものではなく、携帯キャリア側の運用がいつ変わるか何とも言えない部分があり、不確実な部分が残ります。

また、本記事では詳細を割愛しますが、ここにいわゆるMVNO、つまり、例えばdocomoなどのメガキャリアの帯域を用いているいわゆる「格安SIM」の提供事業主が関わると、「電話番号から住所氏名の特定」は、さらに複雑になります

いずれにせよ、「電話番号から住所氏名の特定」は、必ずしも確実とは言えません

問題点3:仮処分と訴訟の必要期間とタイムリミット

これは少し複雑な問題なのですが、まず、従前から用いられていた投稿者特定手段、すなわち、

  1. まずTwitter等のサービス提供者を相手方として、当該投稿に関するIPアドレスの開示を請求する
  2. 開示されたIPアドレスからプロバイダを特定し、当該プロバイダを相手方として、ログの削除禁止を請求する
  3. 当該プロバイダを相手方として、投稿者に関する住所氏名の開示を請求する

は、それぞれ

  1. 仮処分(必要期間:中)
  2. 裁判外交渉(必要期間:短)
  3. 裁判(必要期間:長)

という手続で実現されていました。本記事では詳細を割愛しますが、概要としては、

本来は、1も裁判を用いるべき手続である。しかし、プロバイダはログを無期限には保存しておらず、その保存期間にはシビアなタイムリミットが存在する。このため、1を「必要期間:長」な裁判で行っていると、1,2の前にタイムリミットが過ぎてしまう危険が大きい。また、IPアドレスそれ自体は基本的に「個人」との結びつきが小さく、その意味で、慎重な判断を経ずに開示されても問題が小さい。そこで、1部分は裁判より迅速で必要期間の短い、仮処分という手続を用いることが認められている

というものです。

しかし上記のIPアドレス開示請求と異なり、電話番号の開示請求は、

  • 「ある電話番号の契約者は誰か」というログは時間が経っても消えないので、手続の必要期間が長くてもタイムリミットの危険がない
  • 電話番号はIPアドレスと比較し、「個人」との結びつきが大きく、慎重な判断を経ずに開示されてしまうと問題が大きい

という点より、「必要期間:中」な仮処分手続ではなく、「必要期間:長」な裁判手続を用いるべきである、というのが、現在の東京地方裁判所の運用です

IPアドレスと電話番号、どちらの開示を求めるべきか

総務省令改正により、たしかに、誹謗中傷被害を受けた場合、Twitterに対して、IPアドレスと電話番号、どちらの開示を求めることもできるようになりました。しかし

  • IPアドレス開示請求→仮処分でも可能(「でも」というのは「裁判でも可能」という意味です)
  • 電話番号開示請求→裁判でないと不可

という違いがあります。そこで結局、投稿者特定を行う際には、下記の選択肢がある事になります。

  1. 仮処分でIPアドレス開示を求め、従前同様のフローで投稿者特定を行う
  2. 裁判で電話番号開示を求め、23条照会(弁護士会照会)などを用いて投稿者特定を行う
  3. 裁判で、IPアドレス&電話番号開示請求を求め、IPアドレスを元に従前同様のフローで、電話番号を元に23条照会(弁護士会照会)などを用いて、投稿者特定を行う
  4. 1と2を同時並行で行う(対Twitterの仮処分と裁判を同時に行う)

そしてそれぞれについて

  1. 従前同様に投稿者特定が可能だが、3個の手続を用いることになるので、どうしても費用や期間が嵩んでしまう
  2. 電話番号が登録されているかという問題や、電話番号から住所氏名特定の部分に上記のような問題がある
  3. 裁判手続は「必要期間:長」であり、IPアドレスからの特定については、上記のようにタイムリミットの問題がある
  4. 「同時並行で行う」というのは、2個の手続を両方行うという意味であり、どうしても費用が嵩んでしまう

というデメリットがあります。

まとめ

このように、総務省令改正の行われた現在、Twitterの投稿者特定は、「Twitterに対して、IPアドレスと電話番号、どちらの開示を求めるか」という点から高度な判断を要する、より専門性の高いものになっているといえます。

ざっくりとした説明としては、「IPアドレス開示を求めるという従前の方法は、比較的特定に至る可能性が高い、その意味で確実性の高い方法ではあるが、期間が必要であり、また、ある程度古い投稿だとタイムリミットの問題より特定に失敗してしまうリスクがある」

一方、「電話番号開示を求める方法は、不確実な部分もあるが、ある程度古い投稿でも投稿者特定を実現できる可能性があり、また、トータルの期間や費用を抑えられる可能性もある」

という事になるのですが、どちらの手段を用いるべきか、または、双方を同時並行で行うべきかは、様々な関連事情を踏まえて、総合的に判断するしかなく、この判断はどうしても専門的になってしまう、というのが実情です。

Twitterの投稿者特定は、ノウハウと実績を有する法律事務所に相談した方がいいでしょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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