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風評被害対策

X(旧Twitter)のなりすましで、アカウント自体の削除が認められる場合とは?

風評被害対策

X(旧Twitter)で何者かに「なりすましアカウント」を作成され、権利を侵害されるようなツイートを投稿される事態がたびたび起きています。「なりすましアカウント」を放置していると被害は拡大してしまうので早急に手を打つべきでしょう。こうした場合、仮処分により削除を申請することが可能です。

ただ、こうした場合、一般的には、1個1個のツイートの削除を求める手続きを踏むことになります。つまり、「なりすましアカウント自体の削除」を求めることは原則的にできず、「なりすましアカウントが投稿している個々の投稿の削除」しか求められない、ということです。なぜなら、なりすましているアカウントそのものの削除を求めることは、権利侵害をしていない部分をも削除してしまうことになるからです。

ですが、他人になりすましてツイートを繰り返していたアカウント全体の削除が認められた例があります。本記事では、どのような場合に、なりすましアカウント全体の削除が認められたのかを解説します。

X(旧Twitter)でなりすまし被害に遭った著名女性起業家の事例

Twitterでなりすまし被害に遭った著名女性起業家の事例

この事案で被害に遭ったのは、若手起業家の女性です。この女性は起業家としての活動がマスメディアで取り上げられ、インターネット上でも氏名と合わせてその活動が紹介されているほど著名な人物でした。X(旧Twitter)上で、この女性のなりすましアカウントが作成され、プロフィールにその女性の実名と住所、ネット上で見つけたとみられる本人の顔写真が掲載されました。その後、11回にわたってこの女性が実在する元AV女優と同一人物だとする虚偽の投稿がなされ、タイムラインには元AV女優の出演作の画像が転載されました。

一般的には、X(旧Twitter)等のSNSでは、権利を侵害している投稿に対して当該記事の削除を請求することができます。

この事例では、なりすまし被害に遭った女性は人格権を侵害されたとして、X(旧Twitter)に対して個別の投稿記事の削除ではなくアカウントの削除を求める仮処分を申し立てました。

なりすましに対する仮処分手続とそのメリット

誹謗中傷記事の削除を請求する場合、「裁判(訴訟)」ではなく、「仮処分」という手続きを用いることができます。仮処分とは、裁判所の手続きですが、比較的短期間で裁判所の決定や命令が出され、通常の裁判の前に、裁判に勝訴したときと同様の状態を確保することができる手続きのことです。

仮処分手続きによって誹謗中傷記事の削除を求める場合、裁判所に「記事削除の仮処分命令の申立」をします。裁判でいえば原告に当たる債権者側は、保全すべき権利の内容・権利侵害の事実・保全の必要性を明らかにした申立書を提出します。

裁判所に対して仮処分の申立を行うと、「審尋」という裁判における口頭弁論のような手続きが行われ、裁判でいえば被告に当たる立場の債務者(記事削除仮処分申請の場合はプロバイダ)との間で、権利侵害が行われたか否かが争われます。

権利侵害が認められると、まずは「担保決定」において仮処分発令のために債権者が供託しなければならない担保金の額が決まります。

仮処分は、文字通り「仮」の処分です。後で裁判となった場合に、「この記事に違法性はなかった」ということになる可能性もあります。その場合、「記事を削除させたこと」について、債権者(裁判での原告)は損害賠償を支払わなければならなくなる可能性があります。そこで、債権者は、この引き当て金となる「担保金」を仮処分決定の前にあらかじめ供託しておく必要があります。記事削除の場合、一般的には供託金の額はおよそ30万円から50万円となります。この担保金は、通常、裁判においても同様に権利侵害が認められた場合には、一定の手続きの後に債権者(原告)に還付されることになります。

担保金が供託されると、裁判所により投稿記事削除の仮処分命令が発令されます。実務上は、削除の仮処分命令が発令されると、債務者は、正式の裁判を経なくても削除に応じることがほとんどであるため、結果的に早期に簡便な手続きで投稿記事を削除させるという目的が達成されることとなります。

関連記事:誹謗中傷記事の削除。裁判より簡易な「仮処分」の使い方とは?

本事案の経緯

なりすましの被害に遭った女性は、本件アカウントにおいて投稿されている個別の投稿記事やその他の個別のコンテンツ(例えば、ヘッダ画像やプロフィール欄の記載等)の削除ではなく、本件アカウント全体の削除を求めました。

Twitter,Inc.(当時)の主張

この点について、Twitter,Inc.(当時)は、なりすましの被害に遭った女性は、自らの権利を侵害すると主張する情報の具体的内容および具体的範囲を明らかにした上で、当該情報のみの削除を求めるべきであって、漫然とアカウント全体の削除を求めることは認められないと主張しました。SNSプラットフォーム側としては、当然の主張と言えます。

その理由として、Twitter,Inc.は、「アカウント全体を削除することになれば、被害に遭った女性が自らの権利を侵害すると主張する情報だけでなく、その他の情報も含めて全ての情報が削除されることになるが、被害者は、人格権侵害に基づく妨害排除請求権の行使として削除を求めているのであるから、削除の対象は自らの権利を侵害すると主張する情報に限られるべき」だと主張しました。よって、それ以外の情報について削除を認めるべき法的根拠は一切ないと主張しました。

また、アカウント全体を削除することになれば、本件アカウントの保有者は、今後本件アカウントを用いての記事投稿が一切できなくなる点にも着目しました。つまり、アカウント全体を削除するということは、将来の表現行為について、その表現内容を問わず包括的網羅的に事前差止めを認めることになるから、表現の自由の重要性及び表現行為に対する萎縮効果の重大性の観点から、表現行為に対する差止めの可否は慎重に判断されなければならないというわけです。仮に差止めが認められる場合であってもその範囲は必要最小限の範囲に限定されるべきである、と主張しました。

これもまた、これまでの考え方、裁判例などに沿った主張と言えます。

裁判所の判断:アカウント全体の削除を命じる

裁判所の判断:アカウント全体の削除を命じる

裁判所はまず、「A=Bショックすぎる」という投稿につき、ネット上で広く知られている著名人について、「B」という別の氏名(本事案の場合は元AV女優女優)と等号「=」で結ばれて表示されている点に着目しました。それを読者が読めば、「B」という別名で活動する著名人と同一人物であることを示していると解釈すると考えられるとしました。元AV女優の氏名と等号で結ばれて「A=B」と表現されれば、これを読む一般読者の普通の注意と読み方を基準としたとしても、元AV女優であるとの、虚偽の事実を摘示するものと理解することができるといえる、としました。

その上で、裁判所は、当該アカウントは住所欄に女性の住所を記載し、ブログのURLの欄にも、ブログのURLを記載し、さらにヘッダ画像には、氏名の表記と写真で女性を紹介しているネット上の写真をそのまま転載していることを指摘しました。そして、その投稿内容は、12個のツイートを掲載しているが、最初のツイートにおいて、女性がブログに掲載した写真をそのまま転載した上で、その後の11個のツイートは、すべて元AV女優のAV画像を転載し、「Aさん元AV女優って聞いてびっくらこいたw」「A可愛すぎ。Bっていう元AV女優らしくて、最近その動画よく見る笑」「なりすましアカ作られて、AVの写真上げられるとはよほど恨みを買ってたんだねAさん」などとしている、と指摘しました。

そして裁判所は、このように、本件アカウントは、アカウント名、プロフィール欄の記載、ヘッダ画像及び投稿記事の全てにおいて、女性が本件アカウントを開設したかのように装い偽った上で、閲覧者に対し、女性が元AV女優であって、投稿した画像のアダルトビデオに出演しているかのような誤った印象を与え、かつ、女性がそのような画像を投稿したかのような印象を与えることを目的として開設され表現がされたものと認められるとし、外形的にみても、本件アカウントは、アカウント全体が、どの構成部分をとってみても、人格権を侵害することのみを目的として、明らかな不法行為を行う内容の表現であるとしました。

そして、裁判所は、

このようなアカウント全体が不法行為を目的とすることが明白であり、これにより重大な権利侵害がされている場合には、権利救済のためにアカウント全体の削除をすることが真にやむを得ないものというべきであり、例外的にアカウント全体の削除を求めることができると解するのが相当である。このような不法行為のみを目的として他人を偽るアカウントが削除されたとしても、本件アカウントの保有者としては、別に正当なツイッターアカウントを開設することが何ら妨げられるものではない。

さいたま地方裁判所平成29年10月3日決定

として、なりすましアカウント全体を、担保を立てさせずに削除することを、Twitter,Inc.(当時)に命じました。

関連記事:Twitterで起こりうる犯罪とは?過去の事件と罪を解説

まとめ:SNSのなりすましについては専門家に相談を

本件は、なりすましアカウントが、被害者の人格権を侵害することのみを目的として、明らかな不法行為を行っているものと認め、例外的にアカウント全体の削除が認められた事例です。この決定はアカウントの削除を命じる最初のものだったのですが、なりすましアカウントへの対応の可能性のひとつを示した、画期的な例と言えるでしょう。

SNSのなりすまし問題については、SNSの誹謗中傷対策について実績の豊富な弁護士への相談をお勧めします。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に豊富な経験を有する法律事務所です。近年、ネット上に拡散された風評被害や誹謗中傷に関する情報は「デジタルタトゥー」として深刻な被害をもたらしています。当事務所では「デジタルタトゥー」対策を行うソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:デジタルタトゥー

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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