YouTube上でプライバシー侵害に該当する動画とその法的責任
YouTubeでは、様々なジャンルの動画が投稿されていますが、他人のプライバシーに関係する動画が投稿されることもあります。
プライバシーとは、私生活上の事柄をみだりに公開されない法的な保障と権利のことをいいますが、他人のプライバシーは普段あまり見ることがないものですので、プライバシーに関する動画は再生数が伸びるケースもあります。
動画投稿者が、自分自身のプライバシーに関する動画を投稿するケースでは、プライバシーが問題となることはあまりありませんが、他人のプライバシーに関する動画を投稿するケースでは、様々な問題が生じることがあります。
場合によっては、プライバシーを侵害されたと主張する他人から、プライバシー侵害を理由として、不法行為に基づく損害賠償を請求される可能性もあります。
そこで、本記事では、YouTube上でプライバシー侵害に該当する動画とその法的責任について説明をします。
この記事の目次
YouTube上でプライバシー侵害に該当する動画について
以下では、まず、プライバシー侵害の動画に対するYouTubeの対応方針を紹介し、次に、YouTubeがプライバシー侵害の動画を削除する基準及び収益化の可否について説明をします。
プライバシー侵害の動画に対するYouTubeの対応方針
YouTubeでは、プライバシー侵害の動画については、厳しく対応する方針をとっており、「YouTubeプライバシーガイドライン」が公開されています。
「YouTubeプライバシーガイドライン」では、以下のように規定されており、YouTubeでは、プライバシー侵害の動画について、法律よりも広い範囲を規制することとしています。
お住まいの国の法律では問題がない動画でも、YouTubeのプライバシーガイドラインには違反する可能性があります。
YouTubeプライバシーガイドライン
どのような動画がプライバシー侵害として削除されるか
YouTubeがプライバシー侵害であるとして動画を削除する基準
動画の投稿者からみれば、一体どのような動画を投稿した場合に、プライバシーを侵害する動画としてYouTube上から削除されてしまうのかという基準を知りたいと思います。
そこで、「YouTubeプライバシーガイドライン」では、YouTubeがプライバシー侵害であるとして動画を削除する基準が公表されていますので、以下紹介します。
顔写真、音声、フルネーム、政府発行の個人番号、銀行口座番号、連絡先情報(例: 自宅の住所、メールアドレス)など、個人を一意に特定できるコンテンツは削除の対象となります。また、プライバシー違反として削除の判断をする際には、公共性や報道価値なども考慮されます。YouTube は、プライバシー·ガイドラインの違反が発生したかどうかの最終決定を行う権利を有します。
https://support.google.com/youtube/answer/7671399
「一意に特定できる」とはどういう意味ですか。
一意に特定できるとは、他人が個人を特定するのに十分な情報が動画に含まれていることを意味します。単に動画に写っている個人が確認できるだけでは、一意に特定できるとは見なされませんので注意してください。たとえば、下の名前だけで他の情報が含まれない場合や、チラッと映っているだけでは、一意に特定できるとは言えません。
上記の基準から、YouTubeにおいては、個人を一意に特定できるコンテンツが、プライバシーを侵害する動画として削除の対象となっていることがわかります。
そして、「個人を一意に特定できる」とは、他人が個人を特定するのに十分な情報が動画に含まれていることを意味しています。このことから、YouTubeの動画の中で他人が映っていたり、他人の話をしていても、対象となる人がどこの誰かわからないように場合、プライバシーの侵害とは判断されないものの、個人が特定できる場合には、削除の対象となります。
それでは、以下のようなケースではどうでしょうか。
例えば、ある投稿者が、有名人である田中太郎とモデルの山田花子が不倫しているという内容の動画をYouTubeに投稿したとします。この場合、YouTubeプライバシーガイドラインの「個人を一意に特定できるコンテンツ」に該当することから、削除の対象になるとも考えられます。ただ、削除をするかどうかについては、「公共性や報道価値なども考慮」されますので、動画の内容が有名人等に関するものであり、公共性や報道価値があるものとYouTubeに判断されれば、削除されない可能性もあります。
動画が削除されるか否かは最終的にYouTubeの判断となりますので、個人を一意に特定できるコンテンツについては、YouTubeの判断で削除される可能性があると考えておくことが無難であると考えられます。
プライバシーに関わる動画を収益化することができるか
プライバシーを侵害する動画については、前述のように、YouTube上から削除されてしまいますので、収益化の問題は生じません。
ただ、他人のプライバシーに関わる内容ではあるものの、個人のプライバシーを侵害とまではいえない動画というのも想定されます。
そこで、以下では、プライバシーに関わる動画を収益化することができるかという点について説明をします。
YouTubeにおける収益化の基準
YouTubeで収益を得る方法としては、広告収入、チャンネルメンバーシップ、グッズの棚、Super ChatとSuper Stickers及びYouTube Premiumの収益などの方法が考えられますが、プライバシーに関する動画との関係では、上記のうち、広告収入という方法について説明をします。
まず、「広告掲載に適したコンテンツのガイドライン(https://support.google.com/youtube/answer/6162278)では、広告掲載に適さないコンテンツとして、以下のコンテンツがあげられています。
- 不適切な表現
- 暴力
- アダルトコンテンツ
- 有害または危険な行為
- 差別的なコンテンツ
- 炎上目的、侮辱的
- 危険ドラッグや薬物に関連するコンテンツ
- タバコに関連するコンテンツ
- 銃器に関連するコンテンツ
- 物議を醸す問題やデリケートな事象
- ファミリー コンテンツに含まれる成人向けのテーマ
上記コンテンツの中で、プライバシーに関する動画との関係で問題となるのは、「炎上目的、侮辱的」なコンテンツであると考えられます。
具体的には、「個人やグループを辱める、侮辱することに焦点を当てたコンテンツ」や「個人を名指しで罵る、中傷するコンテンツ」、「悲劇的な出来事が実際には起きていないと示唆したり、犠牲者やその家族は実は俳優である、または出来事の隠蔽に加担しているとほのめかしたりするコンテンツ」又は「個人に対する悪意のある攻撃、中傷、名誉毀損」などが該当します。
個人のプライバシーに関する動画を投稿する場合には、特定の個人を侮辱したり、中傷したりする行為が伴うこともありますので、動画の収益化を図るためには、個人のプライバシーを侵害しないように気を付けるとともに、個人のプライバシーを侵害しない場合でも、上記で掲げられているコンテンツに該当しないように注意をする必要があります。
YouTubeへのプライバシー侵害動画投稿によって生じる法的責任について
YouTubeで個人のプライバシーを侵害するような動画を投稿すると、プライバシー侵害を理由として、不法行為に基づく損害賠償責任が生じる可能性があります。
民法709条では、不法行為について以下のように規定されています。
(不法行為による損害賠償)
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
上記の条文から、YouTubeで他人のプライバシーを侵害する動画を投稿するという不法行為により、他人のプライバシーを侵害した者は、不法行為に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。
まとめ
以上、YouTube上でプライバシー侵害に該当する動画とその法的責任について説明をしました。
まず、YouTubeに他人のプライバシーを侵害するような動画を投稿した場合には、YouTubeからどのような措置を受けるのかをしっかりと理解しておくことが必要となります。また、どのような場合に、動画が、他人のプライバシーを侵害しているものと判断されてしまうのかという基準も理解しておくことが重要となります。
次に、YouTubeに他人のプライバシーを侵害するような動画を投稿した場合に、どのような法的責任が生じるかを理解しておくことが必要になります。YouTubeとの関係では、動画が削除されて終わりかもしれませんが、法律との関係では、損害賠償を請求されてしまう可能性があります。他人のプライバシーを侵害することにより、プライバシーを侵害された人も、プライバシーを侵害した人も、トラブルに巻き込まれてしまうこととなりますので、YouTubeに動画を投稿する人は、他人のプライバシーを侵害しないように注意する必要があります。
YouTube上でプライバシー侵害に該当する動画とその法的責任については、法律についての法知識や専門的な判断が要求されますので、YouTubeに動画を投稿している人及びYouTubeに動画を投稿しようと考えている人は、一度、法律事務所に相談をするようにしてください。
なお、プライバシー侵害の動画を投稿した投稿者に損害賠償請求等を行うためには、 YouTubeにプライバシー侵害の動画を投稿した者を特定する必要があります。そのため、まずは、 YouTubeの運営会社である YouTube LLCに対して、発信者情報の開示を請求する必要がありますが、YouTube LLCは、アメリカ合衆国デラウェア州法に基づいて設立された合同会社です。また、YouTube LLCの代表者はGoogle LLCですが、Google LLCもアメリカ合衆国デラウェア州法に基づいて設立された合同会社です。このような外国法人に発信者情報開示を行う場合には、資格証明書等の書面の取得が必要となり、また、英訳等が必要となりますので、その分の実費が掛かることについては注意が必要です。