【2025年最新版】暗号資産(仮想通貨)の法的解釈:有価証券該当性と事業者の留意点

暗号資産(仮想通貨)は、その多様な種類と利用方法、取引方法の進化により、法的な解釈が常に変化しています。特に、「暗号資産が有価証券に該当するかどうか」という問題は重要な関心事です。
そこで本記事では、暗号資産に関する事業を行う事業者を対象として、暗号資産の法的解釈、特に、有価証券との関係を説明します。
この記事の目次
暗号資産(仮想通貨)に関する従来の見解と新たな潮流
かつて、ビットコインやイーサリアムのような金銭的価値の媒体として機能する暗号資産は、主に「商品」として捉えられ、有価証券には含まれないという見解が一般的でした。
しかし近年では、単なる価値の媒体としてだけでなく、サービス利用権、事業の議決権、収益分配を受ける権利など、多様な機能を持つ暗号資産が登場しています。これらの多機能型暗号資産は、投資対象としての側面も持ち合わせており、従来の「商品」という一律的な分類だけでは捉えきれない状況が生じています。
イーサリアムのコンセンサスアルゴリズム変更と有価証券の議論

特に注目されたのは、時価総額上位の暗号資産であるイーサリアムのコンセンサスアルゴリズムの変更(PoWからPoSへの移行)です。この変更は、一部でイーサリアムが有価証券に該当する可能性を高めるのではないかという議論を呼びました。
コンセンサスアルゴリズムとは
コンセンサスアルゴリズムとは、ブロックチェーンにおいて取引の検証と新たなブロックの追加に関する合意形成を行うための仕組みです。
コンセンサスアルゴリズムを理解するためには、暗号資産(仮想通貨)の仕組みを理解することが必要です。
暗号資産(仮想通貨)ではブロックチェーンという仕組みが用いられ、マイニングによりトランザクション(取引)が検証され、ブロックチェーンの安全性が保障されます。コンセンサスアルゴリズムとは、ブロックチェーンにブロックを追加する際のルールに関するコンセンサス(合意)を形成するアルゴリズム(方法)のことをいいます。
イーサリアムのコンセンサスアルゴリズムの変更
イーサリアムは、従来、ビットコインなどで採用されているコンセンサスアルゴリズムであるPoW(Proof of Work)を採用していました。
その後、イーサリアムは、2022年9月に、コンセンサスアルゴリズムを従来のPoW(Proof of Work)から、PoS(Proof of Stake)に変更しました。
- PoW (Proof of Work):計算リソースを競い合うことで合意形成を行う方式。ビットコインなどが採用。
- PoS (Proof of Stake):暗号資産の保有量に応じてブロック生成の権利が与えられる方式。イーサリアムが採用。
イーサリアムがPoSへ移行した背景には、PoWの消費電力の大きさという課題を解決する目的がありました。
暗号資産(仮想通貨)に関する米当局の最新の見解
ここでは米当局の暗号資産(仮想通貨)に関する見解の変遷を紹介します。
イーサリアム現物ETFの登場
2022年9月、米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は、PoSを採用する暗号資産について、有価証券に該当する可能性が高いとの見解を示唆しました。具体的な銘柄名には言及しませんでしたが、イーサリアムのPoS移行直後の発言であったため、市場の注目を集めました。
そして、2024年5月には、米国でイーサリアム現物ETFが承認されました。この事実は、米国の規制当局がイーサリアムを完全に有価証券とは見做していない可能性を示唆しており、今後の解釈に影響を与える可能性があります。
暗号資産の有価証券該当性判断:Howeyテスト
米国では、暗号資産が有価証券に該当するか否かの判断に、主にHoweyテストが用いられます。Howeyテストは、以下の4つの要素に基づいて判断されます。
- 資金を集めているか否か
- 投資者の期待(利益が他者の努力から生まれるという合理的な期待があるか)
- 共同事業であるか否か
- 利益の可能性
ただし、Howeyテストは絶対的な基準ではなく、個別の事例に即して判断されます。
日本における暗号資産の規制と最新動向

日本では、暗号資産は資金決済法上の規制を受けていますが、特定の暗号資産が有価証券に該当すると判断された場合には、金融商品取引法の規制も適用されることになります。
関連記事:暗号資産に関する規制とは?資金決済法と金融商品取引法との関係を解説
有価証券発行に関する規制等
暗号資産が、有価証券に該当すると判断された場合、暗号資産を発行する際には、有価証券発行に関する規制の対象になることが考えられます。具体的には、以下のような規制の対象となることが考えられます。
- 有価証券届出書の開示(金融商品取引法第5条)
- 当事者に対する目論見書の交付(金融商品取引法第15条第2項)
- 有価証券報告書の提出(金融商品取引法第24条)
- 四半期報告書の提出(金融商品取引法第24条の4の7、金融商品取引施行令第4条の2の10第3項)
取引に関する規制
また、暗号資産が、有価証券に該当すると判断された場合、有価証券の取引に関する規制の対象になることが考えられます。具体的には、以下のような規制の対象となることが考えられます。
- インサイダー取引の規制(金融商品取引法第166条、第167条)
- 相場操縦取引の規制(金融商品取引法第159条)
- 風説の流布の規制(金融商品取引法第158条)
- 仮名取引の規制(金融商品取引法第159条)
日本における近年の法改正の動向
暗号資産に関する税務の面では、令和4年(2022年)度の税制改正により、法人が保有する一部の暗号資産について評価方法の見直しが行われました。個人の暗号資産の譲渡益については、現在も原則として総合課税の雑所得となりますが、申告分離課税の導入を含めた税制改正の議論が継続されています。
参考:国税庁|暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)
金融商品取引法の改正としては、金融庁は、暗号資産を「金融商品」として位置づけ、インサイダー取引規制の導入などを検討しています。令和7年(2025年)4月には、金融庁から関連の法改正案が提出されています。
参考:金融庁|暗号資産に関連する制度のあり方等の検証(令和7年4月10日)
また、令和5年(2023年)6月に施行されたトラベルルール(暗号資産・電子決済手段の移転に係る通知義務)の導入や、顧客資産の分別管理の強化など、暗号資産交換業者に対する規制も強化されています。
まとめ:暗号資産に関する規制については弁護士に相談を
暗号資産(仮想通貨)が有価証券に該当するか否かについての明確な判断は、現時点でも難しい状況です。しかし、特に多機能型の暗号資産については、有価証券と見做される可能性も否定できません。
暗号資産を取り扱う事業者は、常に最新の法規制や国内外の動向を注視し、自社の取り扱う暗号資産が有価証券と判断された場合でも対応できるような体制を構築しておくことが重要です。
暗号資産の法規制は、今後も変化していくことが予想されます。ご不明な点や不安な点がある場合は、専門的な知識を有する弁護士に相談することをお勧めします。
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モノリス法律事務所の取扱分野:暗号資産・ブロックチェーン
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務