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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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オープンソースソフトウェア(OSS)利用時の法的リスクとは?契約書・利用規約に記載すべき免責事項を解説

オープンソースソフトウェア(OSS)は、低コストかつ高品質なソフトウェア開発を実現する手段として広く利用されています。OSSは誰でも自由に利用・改変・再配布が可能なため、開発スピードの向上や技術革新に大きく寄与しています。

ですが、OSSを利用したソフトウェアを提供する際に、OSSの不具合によってユーザーが損失を被ることがあります。この場合に備えてOSSの不具合による損害については契約書や利用規約に免責事項を設けるのが一般的ですが、この免責事項にはさまざまな法的問題があり、慎重に検討する必要があります。

本記事では、OSSを利用したソフトウェアを提供する際に検討すべき免責条項とその法的問題点について詳しく解説します。

OSSを利用したソフトウェアを提供する際の免責事項の必要性

OSSは無償で公開されており、その利用については原則として利用者の責任に委ねられています。しかし、OSSを組み込んだソフトウェアを第三者に提供する場合、提供者側に一定の責任が問われる可能性があります。

例えば、OSSの不具合によって顧客に損害が生じた場合や、OSSに起因するセキュリティ問題が発生した場合には、OSSの開発者ではなく、OSSを利用したソフトウェアの提供者に対して損害賠償を求められます。OSSは「無保証(as-is)」とされていて、OSS開発者はその内容について責任を負いません。

OSSの不具合により受けた損害については、ソフトウェア提供者はOSS開発者に対して損害賠償を請求できず、提供者がすべての責任を負うことになります。そのため、契約書や利用規約において免責条項を設け、責任の範囲を明確にする必要があります。

OSSを利用したソフトウェアを提供する際の免責条項

OSSを利用したソフトウェアを提供する際の免責条項

OSSを利用したソフトウェアを提供する際の免責条項にはどのようなものがあるのでしょうか。免責条項といってもいくつか種類があるので、種類ごとに解説します。

故意・過失の有無にかかわらず一切の損害賠償義務を免れるとする場合

OSSを利用したソフトウエアの免責条項の種類の一つが、提供者がソフトウェアに関して故意・過失の有無に問わず、いかなる責任も負わないことを定める場合です。例えば、「本ソフトウェアの利用に関連して生じたいかなる損害についても、一切の責任を負わない」という免責条項がこれにあたります。

なお、ここでいう故意とは、OSSに脆弱性があることを知っていたことをいいます。

ただし、こうした包括的な免責条項は、後述のように消費者契約法や民法の公序良俗の規定により無効とされる可能性があり、実務上は慎重な運用が求められます。

故意・重過失がある場合のみ損害賠償義務を免れるとする場合

OSSを利用したソフトウエアの免責条項の種類の一つが、提供者が故意または重大な過失があった場合にのみ賠償責任を負い、無過失・軽過失である場合には免責されるというものです。例えば、契約書では「本ソフトウェアの利用に関して生じたいかなる損害についても、故意・重過失がある場合以外一切の責任を負わない」という免責条項がこれにあたります。

これは日本の契約実務においても一般的な形であり、裁判所においても有効性が認められる可能性が高いです。損害発生時の事情に応じて提供者側に故意・重過失があったかが争点となります。

損害賠償額の上限を定める場合

損害賠償責任を完全に免除することが難しい場合、損害賠償額の上限を契約で定めることによりリスクを制限する方法があります。例えば、「本ソフトウェアに関する損害賠償の総額は、契約金額の○○%を上限とする」といった免責条項がこれにあたります。

この条項は、故意・過失の有無を問わずに免責されるという点で1つ目のケースと同様に免責が認められないケースがありうるので注意が必要です。

故意・重過失がある場合に一定限度の損害賠償をする場合

このケースでは、提供者が故意または重過失に該当する行為を行った場合に限り、かつ一定額までの損害賠償責任を認めるとする条項です。たとえば「本ソフトウェアに関して故意・重過失がある場合にのみ損害賠償の責を負う。この場合の損害賠償の総額は、契約金額の○○%を上限とする」といった免責条項がこれにあたります。この場合でも上限以上の損害については一方的に免責されることから、1つめのケースと同様に免責が認められないケースがありうるので注意が必要です。

OSSを利用したソフトウェア開発における免責条項の法的問題

免責条項の法的問題

免責条項を設けたとしても、いくつかの理由で無効とされる可能性があります。そこにはどのような法的問題があるのでしょうか。消費者契約法・民法の公序良俗違反・製造物責任法の3つの法的問題を解説します。

消費者契約法で無効となる可能性

ソフトウェアの利用者が消費者である場合、提供者との間で締結される契約は消費者契約に該当します。消費者契約法第8条では、事業者が消費者に対して損害賠償責任を一方的に免除する条項は原則として無効とされています。したがって、免責条項を設ける際には、消費者契約法の制限を考慮する必要があります。

参考:消費者契約法|e-Gov法令検索

民法の公序良俗違反などの一般原則で無効となる可能性

たとえば、明らかに瑕疵のあるソフトウェアを提供したり、OSSの脆弱性が明らかとなっているにもかかわらず、一切対応をしなかったような場合に、民法の公序良俗(民法第90条)などの一般原則によって免責条項が無効となる場合があります。

損害賠償額について契約金額を上限とする免責条項(責任制限条項)が規定されていた事例で、免責条項には一定の合理性があるとしながらも、重過失が認められる場合にも適用することは、著しく衡平を害して当事者の通常の意思に合致しないとして、免責条項を適用しなかったという判例があります(東京地裁平成26年1月2日判決)。

参考:民法|e-Gov法令検索

参考:東京地判平成 26・1・23 判例時報 2221 号 71 頁 |横浜国立大学学術情報リポジトリ

製造物責任法上の責任を排除する免責条項

製造物責任法(PL法)は、製造業者や輸入業者などが製品の欠陥によって他人に損害を与えた場合の責任を定めています。ソフトウェアそのものが製造物に該当するかについては議論がありますが、組み込みソフトウェアなどが原因で事故が発生した場合、PL法の適用が検討されることがあります。このような法的責任を契約条項で完全に排除することは困難であり、免責条項の文言には慎重な検討が必要です。

参考:製造物責任法|e-Gov法令検索

ユーザーがベンダーにOSSを指定した場合

ユーザーが明示的にOSSの利用を要求した場合、ソフトウェア提供者の責任が一定程度軽減される可能性があります。請負契約について定める民法第636条で、注文者がOSSを指示したような場合、指示が不適当であることを知っていながら告げなかった場合にのみ責任を負うとされています。そのため、ユーザーが免責条項を無効と主張しても指示が不適当であることを知っていながら告げなかった場合でなければ責任を負いません。提供者としてはOSSに脆弱性があるのを告げたことを客観的に証明できるようにして、トラブルになった場合に備えましょう。

契約書等の書面による合意がない取引でユーザーから免責条項の同意を得るための方法

契約書等の書面による合意がない取引でユーザーから免責条項の同意を得るための方法

免責条項は、当事者双方がその内容に合意することで効力を発揮します。この合意を明確にし、後日の紛争を避けるためにも、通常は書面に署名捺印をすることで証拠を残します。免責条項については当事者双方が合意をして署名捺印することで効力を発揮します。

一方で、書面契約が交わされていない取引においては、免責条項に同意を得るための方法を講じる必要があります。

ソフトウェア製品を CD-ROM 等の媒体に記録して提供する場合

CD-ROMやDVDなどの物理媒体でソフトウェアを提供する場合、パッケージ内に利用規約や免責条項を記載した文書を同封する方法が一般的です。ユーザーが開封前に規約を確認できるようにするか、「開封した時点で利用規約に同意したとみなす」といった文言を記載することが実務上多く採用されています。

ソフトウェアを組み込んだ機器を提供する場合

IoT機器や専用端末などにソフトウェアを組み込んだ状態で提供する場合は、取扱説明書や起動時の画面において、利用規約や免責条項を表示させる方法が考えられます。また、保証書や購入契約書などに免責の内容を含めることで、ユーザーに対して説明責任を果たすことも有効です。

WEBサイトからダウンロードする方式でソフトウェアを提供する場合

Webサイト経由でソフトウェアを提供する場合には、ダウンロード前に明確な免責文言を表示した利用規約への同意チェックを求めるのが一般的です。クリックラップ契約(ユーザーが「同意する」をクリックして初めて契約が成立する形式)を採用し、免責条項への同意を得ます。また、規約内容を容易に確認できるようリンクやPDFで明示することも必要です。

まとめ:OSSを利用したソフトウェアを提供する際には免責条項が必要

OSSを利用したソフトウェアの提供においては、免責条項を通じて提供者側の責任範囲を適切に限定することが重要です。ただし、すべての免責が認められるわけではなく、消費者契約法や公序良俗などの民法の一般原則、製造物責任法などの制約を受ける点には注意が必要です。契約書や利用規約において、妥当性のある免責条項を明記し、かつユーザーの理解と同意を得る手続きを整えることで、法的リスクを最小限に抑えましょう。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。OSSライセンス違反はビジネス上、法律上にもリスクにつながることがあります。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、さまざまな案件に対する契約書の作成・レビューを行っております。詳しくは、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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