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準委任契約や請負契約は再委託できる?システム開発を例に解説

システム開発の準委任契約・請負契約と下請(再委託)の可否

システム開発の現場では、開発の委託を受けたベンダーから、さらに別の業者に再委託をするといった運用が多く見られます。

再委託には、これによって高度の技術をもつ業者の力を存分に活用できるなど、システムを発注するユーザーにもメリットがあります。その一方で、再委託をすることによって、ときには再委託先の業者をも巻き込む複雑な紛争に発展してしまうリスクもあります。

本記事では、再委託の活用の可否について、準委任契約と請負契約に分けてそれぞれ解説します。

システム開発契約とは

システム開発契約とは

システム開発を委託する契約(SES契約)では、基本的に請負契約と準委任契約の二種類が用いられています。

請負契約の場合は、期限までに成果物であるシステムを完成させることが約束されます。その一方で、準委任契約の場合は、システムの完成が債務となるわけではなく、ユーザーが要件定義などの作業を行うにあたって、ベンダーが技術面からアドバイスをしてサポートすることが約束されます。

システム開発には様々な工程があり、それぞれの作業内容に沿って適切な契約を選択することが求められます。

そのため、全ての工程に共通する条項をまとめた基本契約を締結したうえで、各工程の特性に応じて個別契約を締結するという手法がとられるのが一般的です。

なお、システム開発における請負契約と準委任契約の違いについては、以下の記事でも詳細に解説を行なっています。あわせてご参照ください。

関連記事:システム開発での請負契約と準委任契約の区別と違い

システム開発を再委託することの法律的な意味

システム開発に再委託先の業者が介在することの法律的な意味

システム開発を再委託すると多くの関係者を巻き込むことになるため、より複雑な紛争が起きる可能性が高くなります。

そもそもシステム開発では、ユーザー・ベンダーのコミュニケーション不全によってプロジェクトの進捗が頓挫してしまったり、実装したプログラムに不具合があることが納品完了後に発覚して争いになったりするケースがしばしばみられます。

再委託をしない場合、こうした問題は、ユーザー・ベンダーの二者間の問題にとどまります。

その一方で、再委託をする場合には、システム開発を巡るトラブルに再委託先の業者も巻き込まれることになり、権利・義務関係の把握がより難解になりがちです。

たとえば、プロジェクト終了後にシステムに不具合が発生した場合、当事者のうちだれが最終的な責任を負うべきかは、三者間の問題となります。

また、そもそも再委託すること自体が禁止されていた場合、勝手に再委託をしたベンダーには別の契約責任が問われる結果となりかねません。

そのため、まずは契約類型ごとに、再委託の活用が認められるのか否かを知ることが重要となります。

なお、以下の記事では、システム開発に関わるトラブルを具体的に解説しています。あわせてご参照ください。

関連記事:システム開発プロジェクトの「炎上」にまつわる法律とは

準委任契約なら原則再委託は不可

まず、準委任契約によってシステム開発を引き受けた場合、再委託をすることは原則として禁止されています。

これは、委任の性質が委任される相手方に対する信頼を基礎にして成り立つものであり、委任された業務の遂行をするために勝手に他の業者を用いることは、信頼関係を裏切ることになるからです。

そのため、ユーザーの許諾なく独断で再委託をすることは、それ自体が債務不履行の問題に発展する危険があります。

請負契約なら原則再委託は可能

請負契約なら原則再委託は可能

次に、請負契約によってシステム開発を引き受けた場合、再委託(下請)をすることは原則として自由です。

請負契約は、「仕事を完成すること」が目的のため、委託したシステム開発が完遂されればよく、他の業者に再委託して開発を任せること自体には何ら問題はありません。

もっとも、システム開発が期限までに終わらなかった場合には、たとえ他の業者に再委託をしていたとしても、ユーザーとの関係では元請のベンダー自身が直接の債務不履行責任を負うことになります。

以下の記事では、システム開発に関する請負契約を結ぶ際の注意点などについて、詳しく解説しています。あわせてご参照ください。

関連記事:システム開発における請負契約の仕事の完成とは

関連記事:システム開発で、請負契約を結ぶ際の注意点とは

請負契約と下請に関する重要裁判例

ここで紹介する裁判例は、システム開発において、ベンダーが正式な契約締結前に業務を開始していたものの、その後ユーザーが契約の締結を拒否したことから争いに発展した事案です。

この事案では、ベンダーは、ユーザーの一方的な翻意によって被った損害の賠償を訴えました。

この裁判例では、正式な契約締結に至る前の段階で、再委託した下請業者に対する発注までなされていたことから、下請業者への委託代金についても損害賠償に含められるのかが争いとなりました。

結論として裁判所は、損害賠償の範囲に下請業者に対する委託代金も含まれる旨を判示しました。

原告は、本件システム構築にあたり、同種のシステムの開発に関するノウハウ・実績を有するXとの間で、本件業務委託契約締結後に業務委託契約を締結することを前提として、健診データ送受信管理システム(健診システム連携ゲートウェイ及び健診データ集信システム)の開発を進めてもらっていた・・・。

これに対して、被告は、原告に対してXが下請業者として行った作業を承諾した事実はない・・・と主張する。しかし・・・原告が本件システムを構築するに際して下請業者を使うことが許されていなかったわけではないから、被告がXを下請業者として承諾していたか否かは、Xに支払った業務委託料が原告の損害となるか否かと無関係である

東京地判平成24年4月16日

このように、判決では、契約の性質が請負である以上、原則として再委託(下請)の活用は自由であり、ユーザーの承諾は必要ないことが説明されています。

もっとも、再委託の禁止が事前に約束されていたならば、請負契約であっても再委託(下請)の活用は認められなかったと考えられます.

なお、システム開発契約が締結される前に行った作業について、ユーザーに金銭を請求することができるのかなどの問題については、以下の記事でも詳細に扱っています。あわせてご参照ください。

関連記事:システム開発の契約は契約書無しでも成立するか

再委託の可否の判断における注意点

再委託の可否の判断における注意点

以上の通り、原則として、委任と請負では再委託の可否の結論が分かれます。そのうえで、ここでは注意すべきポイントをいくつか取り上げます。

請負契約でも特約があれば自由な再委託は不可

請負契約では、原則として再委託を自由に行うことができます。

もっとも、ユーザーとしては、再委託をすることで生じうる紛争を避けるために、再委託を禁止したいと考えることがあります。

また、システム開発のためにベンダーに対して機密情報や個人情報を提供した場合などには、信頼のできる業者にだけ再委託を認めたいと考えるユーザーがいても不自然ではないでしょう。

そこで、ユーザー側は、勝手に再委託されることを回避するために、事前の承諾なく再委託をすることを禁止する特約を設けることがあります。

このような特約を設けることによって、ユーザーは、原則として再委託を禁止したり、再委託先を事前にチェックしたりすることができるようになります。

そのため、こうした特約がある場合は、請負契約であってもユーザーの承諾なく自由に再委託をすることはできません。

準委任契約でもユーザーが承諾するなら再委託は可能

また、再委託契約では、原則として再委託を行うことはできません。

もっとも、適切な再委託をすることで、円滑で充実したシステム開発を実現できることもあります。そこで、民法上、ユーザーが再委託を承認した場合には、準委任契約であっても再委託をすることができる旨が規定されています。

そのため、準委任契約を締結した場合であっても、ユーザーに再委託の意義を理解してもらい、承認を得ることで、再委託をすることができるようになります。

下請法に注意

下請法に注意

下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは、交渉力などの格差が大きくなりがちな元請業者と下請業者の取引関係の公平化を図り、下請業者の利益を保護することを目的とした法律です。

システム開発でも、元請業者が下請業者に開発を再委託をする取引については、下請法の適用を受ける可能性があります。

そして、下請法の適用を受ける場合、親事業者たる元請業者には、一定の書面の作成・保存義務、目的物の受領拒否や返品の禁止などが課されます。

これらの義務、禁止事項に違反した場合には、罰金を科されたり、勧告を受けたりする可能性があります。

なお、下請法は、基本的には元請業者と下請業者の間で適用されるものであり、ユーザーと元請業者との取引には適用されません。

ただし、ユーザーにシステム開発能力があり、自社で使用するシステムを社内で製造している場合には、ユーザーが他の事業者にシステム開発を委託する取引に下請法が適用される可能性があるため、注意が必要です。

下請法については、以下の記事でも詳細に解説を行なっています。あわせてご参照ください。

関連記事:システム開発への下請法の適用と違反したときの罰則を解説

偽装請負に注意

偽装請負に注意

「偽装請負」とは、契約上は請負契約や委任契約となっているものの、委託元が委託先の労働者を指揮命令して使用しており、実態としては労働者派遣であるものをいいます。

たとえば、請負としつつも、発注者であるユーザーが、ベンダーの雇用する労働者に対して業務の遂行方法などに関する指示を与えたり、出退勤の管理などを行っていたりする場合は、「偽装請負」に該当します。

そして、職業安定法では、自分の管理する労働者を他人の指揮命令のもとで使用させることを、「労働者供給」として原則禁止しています。

ただし、派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)に基づいて許可を受けた派遣業者が労働者を派遣することは、「労働者派遣」として特別に認められています。

「偽装請負」の場合、ベンダーは派遣業者として許可を受けているわけではなく、単にユーザーから開発の委託を受けているにすぎません。

それにもかかわらず、ベンダーの雇用する労働者をユーザーの指揮命令のもとで使用させることは、「労働者供給」を行う行為にあたるだけでなく、許可なく「労働者派遣」を行う行為にも該当します。

そのため、派遣法と職業安定法の両方に違反することになり、懲役や罰金に処せられる可能性があります。

そこで、ベンダーとしては、「偽装請負」に該当すると判断されることがないように、自己の労働者を自ら指揮、管理しなければなりません。

以下の記事では、「偽装請負」についてより詳細に解説しています。あわせてご参照下さい。

関連記事:IT業界における偽装請負の判断基準と対処法とは

まとめ:再委託でお悩みなら弁護士へご相談を

まとめ:再委託でお悩みなら弁護士へご相談を

本記事では、システム開発の契約類型ごとに再委託ができるのか否かを中心として、解説しました。

システム開発をするためには、ユーザーとベンダーが緊密にコミュニケーションを取り合って、お互いの信頼関係のもとでプロジェクトを進めていくことが重要です。

そのため、どのような契約類型を選択するにしても、再委託の可否についてユーザーとベンダーの間で事前に確認をしておくことや、場合によっては特約を設けることが重要になります。

システム開発では、複雑な法的問題が数多く発生してしまうリスクがあります。このようなリスクを少しでも下げるために、システム開発の委託をしたり委託を受けたりする際には、一度専門の弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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