企業が「eスポーツ」に参入する理由と法律による障壁
eスポーツ(esports、イースポーツ)は近年になって市場規模が急速に発展しています。
日本でも多くの大会が開催されるなど、ジワジワ人気に火がつき始めており、市場の広がりに伴って、ゲームとは直接関係ない企業もeスポーツに参入する事例も見受けられます。
そもそも、まったくゲーム業界と関係のない企業が今なぜ、eスポーツに参入しようとしているのか、その理由と法務面で現状抱えている課題について解説します。ぜひeスポーツへの参入を検討している企業の方々はご一読ください。
この記事の目次
企業がeスポーツに参入する理由
ゲームと関係ない企業がeスポーツに参入するのは、端的にいって自社の事業にとってプラスの影響があるためです。そこで、企業がeスポーツに参入する場合の投資の方法やeスポーツに参入する目的について詳しく説明します。
企業によるeスポーツとの関わり方
ゲーム業界と関係のない企業がeスポーツに参入する場合、次のような方法が考えられます。
- 競技大会への会場提供
- 競技大会の資金提供
- 選手やチームのスポンサーになる
競技大会への会場提供としては、League of Legends Japan League (LJL)という競技大会に企業が会場提供をした事例があります。
League of Legends Japan Leagueは、世界的に人気のあるLeague of Legendsというタイトルの日本公式リーグです。
また、競技大会への会場提供と似ていますが、大会の運営費用を提供する企業も増えています。特に、人気のあるリーグや大会には、大手家電メーカー、自動車メーカー、メガバンクなど有名大企業がスポンサーとして資金提供をしています。
これ以外にも、継続的にeスポーツへの支援に取り組むことのできる企業は、特定の選手やチームのスポンサーとなることもあります。
企業がeスポーツに参入する目的
企業がeスポーツに参入する目的は、基本的には宣伝広告のためであることが多いでしょう。これは、他のスポーツ産業と同様の構造です。
eスポーツの中心的な支持層は若年層と言われています。このため、eスポーツを支援することによって、特に若年層に対する宣伝広告効果が見込めます。
また、eスポーツはオンラインで配信されることが多いことから、インターネット上での拡散効果が高いことも指摘されています。
前述のとおり企業がeスポーツに参入する方法としては複数の選択肢があります。このうち、現状では競技大会への資金提供を行う企業が目立っています。
競技大会への資金提供を行うことによって、その大会に来場する多くの人に対して自社の宣伝をすることができ、企業によっては自社の製品を大会の賞品として提供することもあります。
また、競技大会への資金提供は基本的には単発の投資です。
したがって、どの程度の広告宣伝効果が見込めるかわかららない段階でテストとして参入するのであれば、競技大会への資金提供はよい選択肢となるでしょう。
このほか、有名な選手やチームはeスポーツのファン層からの支持が厚く、メディアへの出演機会なども見込めます。
このため、特定の選手やチームとスポンサー契約を締結することも企業にとっては継続的な宣伝効果があります。
企業が選手やチームのスポンサーとなる場合、例えば、競技大会へ出場する際のユニフォームにスポンサー企業のロゴを付けてもらうことなどがあり得ます。
実際に、スポンサーになる場合には、契約書において選手やチームにどのような業務をしてもらいたいかを定めることになります。
eスポーツに企業が参入する場合の課題
eスポーツに企業が参入することが増えているとはいえ、まだ一般的なものではありません。このため、実際にeスポーツに参入する場合には、リーガルリスクについて十分に検討しておくことが重要です。
eスポーツ自体のリーガルリスク
日本では法規制の問題がありeスポーツの発展が遅れているといわれています。特にリーガルリスクとして問題視されてきたのが、刑法上の賭博罪と景品表示法との関係です。
eスポーツと刑法上の賭博罪
eスポーツの競技大会では、優勝した選手に賞金を提供することが一般的に行われています。海外のeスポーツの競技大会では、選手が大会出場のために支払う参加費を賞金とするケースがあります。この場合、参加者が多ければ賞金は多くなり、参加者が少なければ賞金は少なくなります。
しかし、日本の刑法上は、このように参加費をそのまま賞金にあてることは賭博罪に該当する可能性があります。
一般的に賭博となるのは、参加者が金銭などの財物を供出して勝負をし、その結果勝ったほうが財物を取得し、負けたほうは財物を失うという仕組みのものです。このとき、勝ち負けの決定に偶然性の要素が含まれる場合には刑法上の賭博罪となることがあります。
eスポーツの場合には、基本的にはプレイヤーの技量によって勝ち負けが決まるため偶然性はないように思われますが、一方で運や偶然の要素がまったくないともいい切れません。このため、絶対に賭博罪が成立しないは言い切れないのが現状です。
eスポーツと景品表示法
eスポーツの法規制としてよく話題に上がるのが、景品表示法への抵触の問題です。具体的には、競技大会で賞金を選手やチームに付与することが景品表示法上の「景品類」にあたる可能性がありました。
ただし、景品表示法の抵触に関する問題は現時点ではクリアになったといえます。
景品表示法上の「景品類」にあたる場合には、ゲーム価格の20倍又は10万円が賞金の上限額となります。このため、景品表示法の問題がクリアになる前は、大会の賞金を10万円以下に抑えることで景品表示法との抵触を避ける運用がされてきました。
もっとも、「プロ」のプレイヤーが大会に参加する場合には、賞金を仕事の報酬とみることができるため、景品表示法上の「景品類」の提供にはあたらないとの解釈がありました。
このため、日本ではしばらくの間、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)からプロライセンスの発行を受けているプレイヤーのみが高額の賞金を受け取れるという運用がされていました。
しかし最近になって、景品表示法を管轄する消費者庁の担当者から、必ずしもプロライセンスを前提とする必要はないとの見解が示されました。
このため、現在では、大会自体に興行性があり、賞金が試合でのパフォーマンスに対する報酬と評価できる場合には、プロライセンスを取得していなくても高額の賞金を受け取れると整理されています。
eスポーツと景品表示法との関係に関しては、以下の記事でも詳細に解説しています。
参入する企業にとってのリーガルリスク
eスポーツに参入する企業としては、eスポーツ自体に上で説明したような法的な問題があることを理解しておく必要があります。仮に、競技大会が法規制に抵触するとして社会問題となれば、スポンサー企業のブランド価値を毀損するリスクもあるためです。
またeスポーツ自体はまだ新しい領域であるため、外部の弁護士に相談する場合にはデジタル領域に詳しい弁護士を選ぶことが重要です。
また、参入する際の個別の問題として、スポンサー契約の内容についても十分に検討しておく必要があります。
企業が選手(プレイヤー)やチームとのスポンサー契約を締結する場合のチェックポイントに関しては、以下の記事でも詳細を解説しています。
このほか、eスポーツの特徴としてプレイヤーの中心が高校生など若年層に偏っている事が挙げられます。
このため、未成年の選手個人とスポンサー契約を締結する際には法定代理人(両親など)からの同意を得る必要があるなど、契約締結業務についても特別な配慮が必要となることがあります。
まとめ
政府も本腰を入れて普及に取り組み始めたeスポーツ。
今後、ゲーム業界以外の企業にとっても魅力的な市場であることは間違いありません。もっとも、まだまだ参入する企業が少なく事例の蓄積が少ないために、実際にeスポーツに参入する場合にはリーガルリスクの検討が必須です。
外部の弁護士に相談する場合にも、ゲーム業界やデジタル領域に詳しく、eスポーツに積極的に取り組んでいる弁護士に相談することをおすすめします。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務