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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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アイスランドの税法を弁護士が解説

アイスランドの税法を弁護士が解説

近年、豊富な地熱および水力資源を背景としたデータセンター事業や、アルミニウム精錬などのエネルギー集約型産業の適地として、アイスランド共和国(以下、アイスランド)への注目が高まっています。日本企業が同国へ進出する際に直面する法的課題の中でも、税法は事業計画の根幹に関わる重要な要素です。アイスランドの税制は、法人税率が比較的低く設定されている一方で、付加価値税(VAT)の負担が重く、また欧州経済領域(EEA)協定の影響を受けた独自の規定が存在するなど、日本の法制度とは異なる特徴を多数有しています。

本稿では、2025年の最新法令に基づき、法人所得税、国際税務、付加価値税、および関連する重要な判例について、日本法との比較を交えながら詳説します。

アイスランド法人所得税の構造と日本法との相違点

納税義務者の判定と実質的管理場所

アイスランドにおける法人課税の根拠法は「2003年所得税法第90号(Lög um tekjuskatt nr. 90/2003)」です。日本企業が現地に進出する際、まず検討すべきは、その拠点がアイスランドの「居住者」として全世界所得課税の対象になるか否かという点です。アイスランド法では、国内に登記された法人はもちろんのこと、定款で本拠地を国内と定めている法人、あるいは「実質的な管理(Effective Management)」がアイスランド国内で行われている法人が居住者とみなされます。

ここで日本法との重要な違いが生じます。日本の法人税法では、本店または主たる事務所の所在地が内国法人の判定基準となりますが、アイスランドでは実質的な管理場所が重視されます。したがって、たとえ外国で設立された法人であっても、取締役会がアイスランドで開催されていたり、経営上の重要な意思決定が同国内で行われていたりする場合、アイスランド居住法人と認定され、全世界所得に対して課税されるリスクがあります。

2025年の税率構造と法人形態による差異

2025年におけるアイスランドの法人所得税率は、法人の形態によって大きく異なります。この点は、進出形態を選択する上で決定的な要因となります。以下の表に、主要な法人形態ごとの税率を整理しました。

法人形態2025年税率概要と留意点
有限責任会社 (hf. / ehf.)20%日本の株式会社や合同会社に相当します。2024年の一時的な21%から引き下げられ、競争力のある水準となっています。
パートナーシップ (sf. / slhf.)37.6%法人格を有する場合でも、構成員が無限責任を負う形態などでは高い税率が適用されます。日本企業の子会社としては一般的に推奨されません。

日本の法人実効税率(約30%程度)と比較すると、有限責任会社(ehf.やhf.)を選択した場合の20%という税率は、投資リターンを高める上で有利に働きます。しかし、パートナーシップ形態を選択してしまうと、日本よりも遥かに高い税負担を強いられることになるため、法人設立時の形態選択には細心の注意が必要です。

アイスランドの国際税務とクロスボーダー取引における法的留意点

アイスランドの国際税務とクロスボーダー取引における法的留意点

日本親会社とアイスランド子会社間の資金移動においては、源泉徴収税(Withholding Tax)と恒久的施設(PE)の認定が主要な論点となります。

源泉徴収税と日・アイスランド租税条約の活用

アイスランドの国内法では、非居住者に対する支払について、配当には20%(個人株主の場合は22%)、利子には12%(2025年税率)、ロイヤルティには22%の源泉徴収税が課されます。特に利子に対する12%の課税は、グループ内融資を行う日本企業にとって無視できないコストとなります。

しかし、2018年に発効した「日・アイスランド租税条約」を適用することで、これらの税率は大幅に軽減または免除されます。

所得の種類国内法税率条約適用後の税率(原則)条約適用の要件など
配当20%0% / 5% / 15%持株割合10%以上等の要件を満たす法人は5%、年金基金等は0%となります。
利子12%0%日本の居住者(法人含む)が受益者であれば免税となります。
ロイヤルティ22%0%日本企業への支払は免税となります。

重要な実務上の注意点として、これらの条約特典は自動的には適用されません。支払が行われる前に、アイスランド税務当局(Skatturinn)に対して所定の申請書(Form RSK 5.42)を提出し、承認を得る必要があります。もし事前承認を得ずに支払を行った場合、国内法の税率で源泉徴収され、後日還付請求を行うことになりますが、これには多大な時間と労力を要します。

恒久的施設の認定基準と建設工事期間の罠

日本企業がアイスランドで建設工事や据付プロジェクトを行う場合、恒久的施設(PE)の認定期間に注意が必要です。OECDモデル租税条約では、建設現場のPE認定期間を「12ヶ月超」とするのが一般的ですが、アイスランドの所得税法および多くの二国間条約では、6ヶ月を超える建設プロジェクトや据付工事をPEとみなす規定が存在します。

これは日本の税務担当者が特に誤解しやすい点です。例えば、データセンターの建設やプラントのメンテナンスで技術者を派遣し、工期が半年を超えた場合、現地に支店がなくともPEと認定され、その事業所得に対して20%の法人税が課されることになります。日・アイスランド租税条約においても、この期間等の詳細を確認し、工期管理を徹底することが求められます。

アイスランド付加価値税のメカニズムと産業別影響

アイスランドの付加価値税(VAT)は「付加価値税法第50号(Lög um virðisaukaskatt nr. 50/1988)」によって規律されています。日本の消費税(標準10%)と比較して税率が著しく高く、企業のキャッシュフローに与える影響は甚大です。

標準税率と軽減税率の適用区分

税率区分税率対象となる主な品目・サービス
標準税率24%原則として全ての物品およびサービス。
軽減税率11%食料品、書籍(電子書籍含む)、音楽媒体、宿泊、レストラン、旅客輸送、暖房用エネルギーなど。

特筆すべきは、電子書籍や音楽配信などのデジタルコンテンツに対して軽減税率(11%)が適用される点です。一方で、一般的な物品販売やコンサルティングサービスには24%の高税率が適用されます。事業者は売上高が年間200万アイスランド・クローナ(約220万円程度)を超えた時点でVAT登録義務が生じます。

アイスランドの重要な判例と法的リスク管理

アイスランドの重要な判例と法的リスク管理

アイスランドでのビジネス展開においては、法令の条文だけでなく、裁判所の判決によって確立された解釈指針を理解しておくことがリスク回避につながります。

借入金利子の損金算入否認に関する判例

M&A(企業の合併・買収)に関連して、最高裁判所2012年判決第555号(Supreme Court Judgment no. 555/2012)は重要な先例となっています。この事案では、株式取得のために借り入れたローンの利子について、買収した会社と合併(Merger)した後に、その利子を損金算入できるかが争われました。裁判所は、株式取得のための借入金利子は、合併後の会社の事業に関連する費用としては認められないとして、損金算入を否認しました。

日本では、買収目的会社(SPC)が借入金で対象会社を買収し、その後に合併することで、対象会社の収益と借入金の利子を相殺する手法が一般的に行われますが、アイスランドではこのスキームに対して厳しい司法判断が下されていることを認識しておく必要があります。

準租税的な産業賦課金に関する判例

アイスランドには、通常の税金以外に特定の産業団体への賦課金(準租税)が存在することがあります。これに関連して、欧州人権裁判所(ECHR)で争われた「VST対アイスランド事件(Case of VST v. Iceland, Application no. 21855/04, 2010年)」があります。この事件では、法律により強制的に徴収される「産業賦課金(Industry Charge)」が、特定の産業連盟(FII)の資金となっていたことに対し、その連盟に所属していない事業者が「結社の自由」の侵害であるとして訴えました。

判決では、このような強制徴収自体は直ちに違法ではないとしつつも、その透明性や使途については厳格な基準が示されました。進出企業にとっては、法人税やVAT以外にも、「高齢者建設基金への拠出金」や「公共放送受信料」など、売上や給与総額に連動する様々な公的負担(Public Levies)が存在することを意味しており、事業コストの積算において見落としがちなポイントです。

まとめ

アイスランドの税制は、法人所得税率20%という競争力のある環境を提供する一方で、24%という高いVAT税率や、6ヶ月という短いPE認定期間など、日本企業にとって注意を要する厳格な規定が混在しています。特に、日・アイスランド租税条約を活用した源泉税の免除措置を受けるための手続きや、M&Aにおける利子の損金算入制限といった論点は、事前のタックスプランニングにおいて極めて重要です。また、日本とは異なる「実質的管理場所」に基づく居住者判定基準は、意図せぬ課税リスクを招く可能性があります。

モノリス法律事務所では、こうした現地の最新法令や判例に基づき、アイスランドへの事業展開を検討される企業の皆様に対し、法的リスクの分析やコンプライアンス体制の構築についてサポートいたします。北欧市場へのゲートウェイとしてのアイスランドの可能性を最大限に活かすためにも、専門的な知見に基づいた慎重な準備をお勧めいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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