輸入した物品をネットショップで販売する際の注意点 関税法を解説
今や私達の生活に身近なものになったネットショッピング。誰でも気軽にネットショップを開設できるようになりましたが、ネットショップ運営には様々な法律が関係しています。では、ネットショッピングを通して海外の輸入品を販売する際にはどのような法律が関わるのでしょうか?今回は関税法を解説します。
ネットショップ運営に関係する法律としては、特定商取引法・不正競争防止法・景品表示法・電子契約法・特定電子メール法・個人情報保護法のような「ネットショップ全般に係る法律」と、「特定業種に係る法律」とが考えられますが、ここでは、「特定業種に係る法律」のひとつである関税法について解説します。
この記事の目次
関税とは何か
海外の商品には、珍しい物や変わった物も多く、これらを日本に輸入してネットショップで販売するのは、今後成長が期待できる分野といえます。
こうした海外から物品を持ち込むときに掛けられる税金が、関税です。
関税は、国内の農家やメーカーを保護することを目的にしています。輸入品に関税が上乗せされると、関税の分だけ輸入品の値段が高くなり、価格面で国内品が売れやすくなる効果があります。
関税を確定し、納付等の手続きに必要な事項を定めるのが関税法です。
関税はどんなときに掛かるのか
関税が掛かるのは以下のようなケースです。
- 日本で売るために商品を輸入する
- 海外通販当で商品を購入する
- 海外旅行で買った土産物を日本に持って帰る
会社などの法人が輸入する大口貨物も、個人の小口輸入も同じように関税が掛かります。転売などビジネス目的のほか、たとえば海外通販で自分の服や財布を買うときも同様です。
ただ、個人的に使用する目的で輸入するときには「個人輸入」という特例があり、関税が少し安くなります。
また、少額の場合には例外として、関税がかからない金額が設定されています。海外のネットショップで購入する場合は、送料・保険料込みで1万円以下、自分で使うために購入する場合は、小売価格が16,666円以下であれば免税になります。
ただし、革製品、ニットの服、革靴(一部スニーカーも)など免税にならない商品や、タバコ税・酒税など免除にならない税金もあります。
関税率
「関税率」は物品の“種類”と“原産地”の2つの要素で決まります。
物品の種類は、HSコードという各国共通の部分を持つ番号で分類されています。
たとえばアパレルなら、男性用・女性用、コート・スーツ・ジャケットなどの素材や材質、製造方法よって細かく分類され、この分類ごとに基本税率が決まっています。例えばジャケットやスカートは8.4~12.8%、シャツや肌着などは7.4~10.9%となっています。
一般に菓子類や肉などの食品、洋服などの関税は高めになっていますが、腕時計や家電品、化粧品などは関税がかかりません。
この物品の分類は大変難しいので、「関税分類の事前教示制度」で問い合わせるのが確実です。
関税分類の事前教示制度とは、貨物の輸入前に税関に対して、当該貨物の関税分類(税番)や関税率などについての照会を、原則として文書により行い、文書により回答を受けることができる制度です。
税関から回答した文書(事前教示回答書)の回答内容については、当該回答書が発出されてから3年間、輸入申告の審査の際に尊重されます(法律改正等により取扱いが変わった場合を除きます)。このため、事前に輸入予定貨物の関税分類などを知ることができ、原価計算をより確実に行うことができるので、販売計画が立てやすくなります。また、貨物の輸入通関においても適正かつ迅速な申告が可能となるので、結果として早期に貨物を受け取ることができるという利点もあります。
関税率を決める2つの要素は原産地ですが、原産地とは製品が実際に作られた国・地域のことです。原産地によって安い関税が基本税率の例外として設定されていて、多くの国・地域が対象になっています。たとえば、開発途上国の製品の関税を低くする「特恵関税」という制度があります。
一般特恵関税制度(GSP:Generalized System of Preferences)は、開発途上国の輸出所得の増大、工業化と経済発展の促進を図るため、開発途上国から輸入される一定の農水産品、鉱工業産品に対し、一般の関税率よりも低い税率(特恵税率)を適用する制度です。
国連貿易開発会議(UNCTAD)において、南北問題解決の一手段として先進国から開発途上国に対して便益を与える特別措置として検討がなされ、制度の枠組みが合意され、日本はその合意に基づいて、1971年8月から実施しています。
日本の現行特恵関税制度では、経済が開発途上にあり、固有の関税及び貿易に関する制度を有し、関税について特別の便益を受けることを希望する国及び地域のうち、その便益を与えることが適当であるものについて、政令で指定されていて、2021年4月1日現在では、127カ国5地域が特恵受益国として指定を受け、告示されています。
また、条約に基づく税率として、「経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)に基づく税率」があります。TPPなどのEPAや自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)を結んだ相手国の製品は、EPA・FTAで取り決めた関税率の適用を受けることができます。
関税額は関税率を用い、基本的に「課税対象価格」×「関税率」によって算出されます。
「課税対象価格」とは、「商品代金+輸入にかかる保険料+日本までの運賃」で、いわゆるCIF(Cost Insurance and Freight=運賃保険料込み条件)です。輸入が少額の場合や個人的使用目的の場合は、免税制度や、異なる計算方法があります。
個人輸入だと課税対象額は商品代金の60%となりますが、商用の場合は商品代金に加えて、保険料や送料といった諸経費も課税対象額に含まれます。
また、「実行関税率(法律や条約によって細かく設定されている関税率)」とは別に、課税対象額が20万円以下の場合に適用される「簡易税率」というものもあり、簡易税率は区分が7つと実行関税率に比べてかなり少ないため、わかりやすく計算もしやすくなっています。
関税はいつ誰に払う
関税は、輸入した人が輸入手続きの際に納付することになっています。
海外から国内に商品が入ってくるときには、空港や港にある「税関」という役所で、「通関」という手続きがあります。人が空港で入国審査を受けるのと同じです。この通関で、日本で禁止や制限されているものでないかを確認し、関税を徴収して入国許可を出します。
ほとんどの場合には、通関手続きは運送会社が代行します。関税の納付も手続きの中で代行します。受取人には通関済みの荷物が届けられるので、関税は運送会社に支払うこととなります。
海外通販で使うことが多いDHL(航空機を主体とした国際宅配便、運輸、ロジスティクスサービスを扱うドイツの国際輸送物流会社)などの国際宅配便なら、荷物の配達時にドライバーに支払えば大丈夫です。
EMS(国際スピード郵便:Express Mail Service)も、税金が30万円を超えなければ同様です。
海上貨物輸送や航空貨物輸送による輸入で通関業者に手続きを依頼する場合には、通関料金と一緒に支払うのが一般的です。関税と合わせて、輸入品にかかる国内の消費税も支払います。
輸入が禁止されているもの
どのような物品でも、輸入していいわけではありません。様々な物品の中には、輸出や輸入をしてはならない禁制品がありますが、これを定めているのも、関税法です。
以下のものについては、関税法第69条の11により、輸入が禁止されています。
- 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚醒剤、あへん吸煙具
- 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」で規定する指定薬物(医療等の用途に供するために輸入するものを除く)
- 拳銃、小銃、機関銃及び砲並びにこれらの銃砲弾並びに拳銃部品
- 爆発物
- 火薬類
- 「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」で規定する特定物質
- 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」で規定する二種病原体等
- 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵便切手又は有価証券の偽造品、変造品、模造品並びに偽造カード(原料となるカードを含む)
- 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品
- 「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」で規定する児童ポルノ
- 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
- 「不正競争防止法」第2条第1項第1号から第3号まで又は第10号から第12号までに掲げる行為を組成する物品
これらを輸入した場合、関税法第108条の4により、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、又はこれを併科されます。
これらの他にも、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、「植物防疫法」、「家畜伝染病予防法」などにおいて、輸入が禁止されているものがあります。
また、違法ではないとして販売されているハーブやアロマオイル、バスソルトなどの商品の中には、「麻薬」や「指定薬物」にあたるとして、輸入が禁止されているものがあるので、注意が必要です。
まとめ
ネットショップの運営で輸入商品を取り扱う作業はかなり面倒であり、大変です。
商品が多い場合や、輸入手続きがわからない場合は、専門の会社に委託して売ることにすれば、集客や運営に集中できるので、会社の規模や商材によっては、海外からの輸出入に強くて、ネットショップの配送代行も行っているサービスを利用するというやり方も可能です。
ただし、どのような場合にも、様々な法律や手続き、とりわけ関税法は理解しておく必要があります。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: ネットショップ関連