シェアリングエコノミーを活用して副業・兼業 本業の就業規則に抵触するのか
日本でも「Airbnb(エアビーアンドビー)」や「Uber(ウーバー)」などが普及し、自分の保有する資産や空き時間などで副業収入を得ることができるようになりました。こうしたシェアリングエコノミーは「共有経済」と呼ばれ、今後も大きく成長が見込まれます。
多くの企業では、就業規則によって労働者の副業や兼業は禁止されており、シェアリングエコノミーを通じて収入を得ることと当該禁止規定との関係が問題になる可能性があります。
この記事の目次
シェアリングエコノミーとは
シェアリングエコノミーは、2000年代後半に、アメリカ西海岸のシリコンバレーで始まりました。「Airbnb(エアビーアンドビー)」や「Uber(ウーバー)」などは日本にも上陸、大きく普及しました。
2015年12月に、シェアリングエコノミーの普及・発展を目的に設立された一般社団法人シェアリングエコノミー協会の法人会員は、設立当初の32社から300社を超えるまで(2021年3月)に増えました。
同協会が2000年12月に発表した「シェアリングエコノミー市場調査2020年版」によれば、2020年度におけるシェアリングエコノミーの市場規模(資産・サービス提供者と利用者の間の取引金額)は2兆1004億円であり、2030年度には14兆1526億円になると予測されています。
シェアリングエコノミーの類型
シェアリングエコノミーにはさまざまな種類がありますが、シェアリングエコノミー協会においては、シェアの対象により、次の5つに分類しています。
- スペース:民泊や駐車場、会議室等の空間のシェア
- モノ:フリマアプリ等での売買やバッグ等のレンタル
- 移動:車や自転車等のシェア、料理の運搬や買い物代行
- スキル:空いている時間やタスクのシェア
- お金:参加者が他の人々や組織、プロジェクト等に金銭を貸し出す
5つのジャンルのうち、特に増加しているのが、4のスキルをシェアするサービスとされています。
モノや空間、移動手段を提供するには、不動産や自家用車等を所有していなければなりませんが、スキルは所有する必要がないため参加障壁が高くありません。ユーザーだけでなく、企業側もプラットフォーマーとして参入しやすいという側面があります。
シェアリングエコノミーと副業・兼業に関する規定
従業員が副業や兼業として、シェアリングエコノミーを通じて収入を得ることについては、
就業規則で従業員の副業・兼業禁止規定が設けられている場合には、当該禁止規定の効力が及ぶかどうかは、どのような点に着目して判断されるか、が問題となります。
一方、就業規則で従業員の副業・兼業禁止規定が設けられていない場合には、法的に留意すべき事項はあるか、が問題となります。副業・兼業禁止規定が設けられていない場合については後述するとして、まずは禁止規定が設けられている場合について説明していきましょう。
副業・兼業禁止規定が設けられている場合
就業規則で従業員の副業・兼業禁止規定が設けられている場合には、禁止規定の効力が認められるか否かが問題となります。これまでの判例を見ると、すでに株式会社の従業員や各種法人、団体職員が、副業・兼業としてシェアリングエコノミーを通じて収入を得ることは、就業規則で副業・兼業が禁止されたり、事前許可を要するとされたりしていても、使用者の経営秩序又は労務の統制を乱すおそれがない場合や、労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度である場合には、副業・兼業禁止規定の効力は及ばないと考えられます。
使用者の経営秩序を乱すおそれの程度等を具体的に判断するに際しては、
- 競業関係にならないか
- 秘密保持義務違反にならないか
- 利益相反行為にならないか、
- 使用者の対外的信用を毀損しないか
- 総労働時間が過重なものになってしまうなど、健康を害し、あるいは本業に支障を来すことにならないか
等が検討されることになります。
各使用者の事業内容や労働者の職務内容、行おうとする副業・兼業の内容等の具体的事情に応じ、上記の5点に留意して判断することになります。なお、健康に留意しなければ安全が確保できないような業種が本業である場合には、上記 5の要素が厳しく見られる可能性があり、副業・兼業禁止規定の効力が及びやすくなる可能性があります。
ただし、一般論として、シェアリングエコノミーといっても、不動産等を活用して収益を得るタイプと、労務を提供するタイプとでは、その性質がかなり異なります。宿泊等のために自ら管理する資産を提供するようなシェアリングエコノミーの場合には、肉体的・時間的拘束の範囲が限られているため、上記 5の要素の観点からは、副業・兼業禁止規定の趣旨に反する可能性は低く、副業・兼業禁止規定の効力は及びにくいと考えられます。
これに対し、専門家として労務やアドバイスを提供する形態のシェアリングエコノミーサービスにおいては、上記 5の要素からも慎重な判断が必要になります。通常は、労務を提供する形態のシェアリングエコノミーであっても、肉体的・時間的拘束の程度はそれほど高くないものが多いので、秘密保持、利益相反等の要素において問題ない業種であれば、副業・兼業禁止規定の効力が及ばない場合が多いと言えるでしょう。
経済産業省の「電子商取引及び情報材取引等に関する準則」(2020年8月)においては、「兼業禁止規定の効力が及ばないと思われる例」として、
- 民泊サービスを利用して、勤務に支障がないように鍵の受け渡し等を行い、休日に自宅の空き部屋を貸し出す
- クラウドソーシングサービスを利用して、休日に、勤務先でのノウハウを活用せず、勤務先の業種との関連もない分野の翻訳役務提供を行う
- 各種のシェアリングエコノミーサービスを通じて収入を得ているものの、従事している時間やその程度が社会通念上、本業の業務に支障を来すほどではなく、かつ、競業避止義務等にも違反しない場合
が、あげられています。
副業・兼業禁止規定が設けられていない場合
就業規則に副業・兼業禁止規定が設けられていない場合については、懲戒事由は、あらかじめ就業規則で定めておかねばならないこととの関係で、副業・兼業したこと自体を就業規則の違反行為として直接的に問うことはできません。
ただし、このような場合であっても、
- 使用者の組織内の秩序・風紀を乱したときの規定
- 職務専念義務の規定
- 競業避止義務や利益相反行為の規定
- 秘密保持義務の規定
等の他の規定との関係において、副業・兼業がそれらに反するものになっていないかは検討されることになり、副業・兼業禁止規定が設けられていなくても、他の規定との関係で就業規則違反とされ、懲戒処分の対象になる可能性があることには、留意が必要です。
まとめ
シェアリングエコノミーは、テクノロジーの進化とともに生まれたビジネスモデルであり、従来のビジネスよりも社会の変化に柔軟に対応しやすい性質を持っています。また、シェアリングエコノミーの多くはCtoCのマッチングサービスなので、スキルの提供者が多ければ多いほど利用者が増え、サービスが一般に普及することが期待できます。
新たなニーズが生まれやすいニューノーマル時代は、シェアリングエコノミーのサービスを提供する側にとっては、新しいビジネスモデルを生み出し、業績を伸ばすチャンスです。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: IT・ベンチャー:契約書