進むテレワーク 出社社員と在宅社員での給与格差は認められるのか
テレワークの利用者が多い東京都が2021年3月に公表した「多様な働き方に関する実態調査」では、従業員30人以上の企業で、テレワーク導入済みが2017年は6.8%でしたが2020年12月には58.8%に拡大しています。
従業員にとっては慣れるとメリットの多いテレワークですが、勤怠管理の難しさや、就業規則との整合性が取れず対応に苦慮している企業も多いのが現状です。
さらに、コロナ禍によって業績が悪化した企業では、テレワークの従業員と会社に出勤する従業員では給与が異なるケースも出てきました。
そこで今回は、コロナ禍における「出社」と「テレワーク勤務」の給与格差についての正当性に関し、ケース別に分かりやすく解説します。
この記事の目次
テレワークの3つの類型
一概にテレワークといっても、その形態は業務を行う場所を中心に次の3つの類型に分類されます。
在宅勤務
オフィスに出勤せず自宅で業務を行う勤務形態で、従業員にとっては通勤の負担や新型コロナウィルスへの感染リスクが軽減されるとともに、家事・育児・介護などの時間が確保できるメリットがあります。
サテライトオフィス勤務
メインのオフィスには出社せず、別に設けられたサテライトオフィスに出勤し業務を行う勤務形態で、自宅に近ければ通勤時間を短縮でき、メインオフィスと同等の作業環境が得られます。
モバイル勤務
ノートパソコン・タブレット端末・携帯電話などを利用し、出張先のホテル・新幹線の車内・街のカフェなどで業務を行う勤務形態で、インターネット環境があれば自由に場所を選択し業務ができるので移動時間の短縮や生産性の向上が図れます。
会社の指示命令でテレワークを行う場合の減給
労働基準法では、会社が労働契約を締結する場合に、従業員に対して労働条件を明示する義務を定めています。
第15条(労働条件の明示)
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
「賃金、労働時間その他の労働条件」の内容については、労働基準法施行規則で規定されており、テレワークに関連する次の内容は必ず明示しなければなりません。
- 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
- 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
この「労働条件」を変更するには、労働契約法で労働者と使用者の個別合意が原則と定められています。ただし、合意による変更であっても就業規則に定める労働条件を下回ることはできません。
労働条件の変更については就業規則の変更によっても可能ですが、その場合次の要件を満たす必要があります。
- 従業員に変更後の就業規則を周知させる
- 就業規則の変更によって従業員が受ける不利益の程度や変更の必要性などが合理的である
以上を考慮すると、会社の指示命令でテレワークを行う場合には、就業規則で「テレワーク勤務」について規定している場合を除き、原則として従業員の合意なしに減給することはできないと考えられます。
雇用契約(労働契約)について詳しく知りたい方は、以下の記事で詳述していますので本記事と合わせてご覧ください。
従業員が自らテレワークを希望した場合の減給
従業員の申出に対し会社が承認した場合には、労働契約法第8条に従い労働条件の変更は可能ですが、その際には「就業場所」に加えて「業務内容」「労働時間」「賃金」などの労働条件も一緒に検討されるのが一般的です。
例えば、就業規則でオフィス勤務が定められている場合、従業員が在宅勤務を行うことで育児や介護などの時間が得られるため合意の上の減給であれば問題はありませんが、以下に紹介するケースでは注意が必要です。
「事業場外みなし労働」を理由とする残業代カット
テレワークによって従業員がオフィス以外で業務を行った場合、一定の条件を満たす場合には労働基準法で定める「事業場外労働みなし労働時間制」が適用され、就業規則などで定められた所定労働時間を労働したものとみなされます。
第38条の2第1項
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
「事業場外労働みなし労働時間制」が適用されると、必ず所定労働時間を超える労働が必要な特殊な場合を除き、所定労働時間よりも長時間働いても残業代は発生しません。
ただし、以下の2要件を満たさなければ「事業場外労働みなし労働時間制」が適用されないので注意が必要です。
- 情報通信機器が、会社の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
- 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
つまり、1.従業員が自由に通信を切断することや情報通信機器から離れることが認められ、2.会社の指示に即応する義務が課せられておらず、3.会社の具体的な指示に基づかずに業務を行っている場合でなければ、労働時間を算定することが困難とは判断されないのです。
中抜け時間を理由とした減給
在宅勤務などのテレワークで、従業員が一定の時間業務から離れることを「中抜け時間」と呼んでいます。
「改正・労働安全衛生法」が2019年4月1日から会社に対し「労働時間の客観的な把握」が義務化されてから、会社は労働日ごとの始業時刻・就業時刻を確認し労働時間を正確に記録しなければなりません。
そこで、通常の勤務時間が始業9:00、終業18:00、休憩1時間の場合、「中抜け時間」があると勤務時間が少なくなるため、1.就業時間の繰下げ、2.時間単位の年次有給休暇取得、3.給与の引下げなどが考えられます。
ただし、1・2の場合には就業規則の変更や労使協定の締結、3.の場合には労働条件の変更に該当するので会社と従業員の個別合意、または就業規則の変更などの手湯付きが必要です。
新型コロナウイルス感染回避を理由とした場合
従業員が新型コロナウイルスの感染回避を理由として同一賃金でのテレワークの許可を求めてきた場合には、次の点を考慮し合理性があるかどうかを判断します。
- 会社の感染症対策が不十分で、オフィスに出勤すると新型コロナウイルスに感染する可能性が高いことが客観的に明らかである
- 社外でもオフィスと同等のセキュリティ環境が得られ、業務遂行には支障ない
会社が通常考えられる感染症対策を講じているなど上記の条件を満たさなければ、オフィス出社を命じることが可能で、拒否した場合には就業規則に従って減給を含む懲戒処分や解雇などの処置が可能と考えられます。
しかし、緊急事態宣言下においては、仮にテレワークの条件を完全に満たしていなくても生命・身体の安全が優先され、テレワーク勤務を選択した従業員に対する懲戒処分や解雇などの処置は無効と判断される可能性があるので注意が必要です。
まとめ
ここまで、コロナ禍出社とテレワークでの給与格差に関し、可能性のあるケースと関係法令について説明しました。
オフィス勤務とテレワーク勤務で就業時間やその他の労働条件が異なる場合には、就業規則にテレワーク勤務に関する規定を追加しておく必要があります。
また、テレワーク導入に関連し「フレックスタイム制」や「事業場外みなし労働時間制」などを導入する場合には就業規則の変更だけではなく、労使協定の締結なども必要になるケースがあるため、独自に判断するのではなく労働基準関係法令に詳しい専門的な知識や経験が豊富な弁護士に事前に相談することをおすすめします。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: 労働問題(会社側・使用者側)