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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

副業制度を認める上で見直すべき企業の就業規則とは

これまで日本の会社では、副業が禁止されていることが通常でした。もっとも、現在「働き方改革」などの影響を受け、大手企業も含めて副業が解禁されつつあります。2018年に厚生労働省が公表する「モデル就業規則」から副業禁止規定が削除されたことも話題となりました。このように、副業規制が緩和されている昨今、従業員に副業を認める際にトラブルにならないための就業規則のポイントなどについて解説します。

就業規則における副業禁止

戦後長らく、日本企業の伝統的な慣習である年功序列、終身雇用、定年退職などによって会社が社員の雇用を維持するよう努める一方で、社員もまた勤務先の会社以外で副業をすることが禁じられてきました

以下では、就業規則で従来定められてきた副業禁止規定について説明します。

副業禁止規定とは

副業禁止規定とは、就業規則において社員が副業することを禁止する定めをいいます。

副業禁止の内容としては、勤務先の会社以外での業務を一切禁止するもののほか、許可制としつつ取締役会の承認を要するなど許可の要件を高くすることで事実上副業が禁止されているというものなどがあります。

もっとも、副業は勤務先の業務時間外で行われる限り、本来は社員のプライベートな時間の使い方に関するものであり原則的には副業は自由に行えるはずのものです。

したがって、就業規則において副業禁止規定が定められているからといって、もともと社員の副業を完全に禁止できるわけではありません。実際に、副業を禁止する合理性のないケースにおいて副業禁止規定の効力を否定した裁判例も複数あります。

副業とは

副業禁止規定の対象となる「副業」とは、本業以外の仕事をいいます。例えば、本業の終業時間後の夜間にコンビニエンスストアでアルバイトをするとか、継続的に友人の会社の仕事を手伝って報酬を貰うということも一般的には副業にあたります。

これに対し、投資に関しては事業とは異なるため副業禁止の対象とされないことが通常です。副業禁止規定の対象となる副業とは、労働により所得を得る行為に限定されると考えられているためです。例えば、株式投資や不動産投資などは不労所得であり、副業禁止規定の対象とは考えられていません。

会社が副業を禁止してきた理由

これまで日本の会社が副業を禁止してきた理由として挙げられるのは、主に次のようなものです。

  • 時間外の副業で疲労して本業の業務がおろそかになるおそれがある
  • 本業の企業秘密が漏洩するおそれがある

前述のとおり、会社の副業禁止規定の有効性について訴訟となった場合には、副業禁止の合理性があるか否かがポイントとなります。副業禁止の目的として上記のような理由が認められる場合には、裁判所でも副業禁止規定の合理性を認められやすくなります

副業により本業の業務がおろそかになる

例えば、終業後に深夜までアルバイトをしていたとすると、始業時間までに十分な休息をとることができません。この結果、本業の始業時間に遅刻をすることや、寝不足により本業で十分なパフォーマンスを挙げられないことが十分に考えられます。

本業の企業秘密が漏洩するおそれ

本業の企業秘密が漏洩するのは、会社にとって非常に重大な問題です。副業がコンビニエンスストアなどのアルバイトであれば企業秘密が漏洩することはあまり想定されません。

これに対し、友人の会社を手伝っているようなケースで、その会社の事業が本業の事業を競合する場合には、顧客リストの持ち出しや新規事業に関する情報の漏洩などのリスクがあります。

なお、営業秘密の持ち出しに関しては、下記記事で詳細に解説しています。

また、退職後の同業他社への転職に関しては、下記記事で詳細に解説しています。

副業を解禁することのメリット

これまでの日本企業では以上のようなデメリットを重視して副業を禁止してきた経緯があります。もっとも、このような社員の管理が許容されてきたのは、会社自身も終身雇用を保証し社員が副業をしなくても定年まで生活に困ることのないように配慮してきたことの裏返しでもありました。

しかし、近年になって雇用の流動化が進んでおり、終身雇用など従来型の雇用慣行は崩壊しつつあります。

このような背景もあって、政府も「働き方改革」の一環として副業を推進する方向にかじを切り、IT企業などのような先進的な企業を中心として、副業解禁の動きが出始めています。

副業を解禁する企業が増えてきたのは、以下のように副業を解禁することのメリットが注目されていることも理由の一つです。

  • 副業により本業で得られないスキルを得ることができる
  • 優秀な人材の流出を防止できる

副業により本業で得られないスキルを得ることができる

本業の事業内容は通常ある程度限定されていますので、本業の会社では経験することのできない業務は必ず存在します。このような場合に、社員がスキルを身に付けたい場合には独学するくらいしかこれまでは選択肢がありませんでした。

しかし、IT系のスキルなどは書籍やネットで独学するよりも実際に業務を経験することでスキルを身に付けることが望ましいといえます。

このような場合にあえて社員の副業を解禁し、本業では得られない知識やスキルを副業で身に付けてもらうことで、向上心のある社員の満足にもつながりますし、本業の会社としても副業で得たスキルを自社で活かしてもらうことができます。

また、社員が本業とは異なる別の会社のカルチャーに触れることで、社員が刺激を受けて本業でのイノベーションにつながることも期待できます。

優秀な人材の流出を防止できる

IT企業では、優秀な人材の確保が非常に重要です。上で説明したこととも重なりますが、優秀な人材ほど向上心が高く、新しいスキルを身に付けたいと考える傾向にあります。このとき、副業が解禁されていれば優秀な人材は会社を辞めることなく、自由に自身のスキルを向上させるために他社でも働く選択肢を持つことができます。

したがって、副業を解禁することによって、優秀な人材がやむを得ず退職せざるを得ない状況を回避することができます。

副業を就業規則で認める際のポイント

副業を解禁する場合でも、就業規則で一定のルールを設けておく必要はあります。そこで、以下では就業規則で副業を解禁する場合のポイントについて解説します。

副業に関する就業規則の規定

前述のとおり、副業は本来自由であるため就業規則に副業禁止規定がなければ、副業は解禁されているということにはなります。もっとも、前にみたように、社員の副業は本業の会社にとって企業秘密の漏洩など一定のリスクがあります。

このため、会社としてリスクを回避しつつ、社員の副業を解禁するために、就業規則に副業を行う場合のルールなどについて規定しておくことが望ましいといえます。

副業に関する就業規則の規定例としては、厚生労働省が公表している以下のモデル条項が参考になります。

第68条(副業・兼業)

1. 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2. 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。

3. 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

① 労務提供上の支障がある場合

② 企業秘密が漏洩する場合

③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④ 競業により、企業の利益を害する場合

https://www.mhlw.go.jp/content/000496428.pdf

モデル条項2項にあるように、副業を解禁する方法としては事前届出制とすることが一般的です。

届出制を採用する場合、社員は届出さえすれば副業を行うことができ、モデル条項3項にあるようなあらかじめ定められた一定の事由に該当する場合でない限り本業の会社側の裁量で副業の可否を判断することができません

このように届出制は、副業の可否を会社側の裁量で判断できる許可制とは大きく異なるものであり、届出制の方が副業解禁の趣旨には合致するといえます。

したがって、届出制を採用する場合には、モデル条項3項のように副業ができないケースをあらかじめ明確に規定しておく必要があります。このような条項がない場合には、社員からの副業の届け出があった場合に副業をやめさせることは容易ではなくなります。

労働時間の管理

副業を解禁した場合に課題となるのが社員の労働時間の管理です。労働基準法によれば、本業と副業の時間を通算して法定労働時間を超えた場合には残業代の支払いをする必要があります。

残業代を負担するのは、後から社員と雇用契約などを締結した事業者となりますので、副業の会社が負担すべきことが多いでしょう。ただし、本業の会社が副業との労働時間の通算により残業代が発生することを認識しながら、本業の残業命令をする場合には、本業が残業代を負担することとなっています。

いずれにしても、本業の会社としては副業での労働時間を把握して管理することが求められています。

まとめ

政府が副業解禁の方針を打ち出したことで、これから副業を認める会社は増えていくと想定されます。もっとも、現在の労働法制は副業をしないことを前提としてルールが作られていることが多いため、実際に副業を解禁する場合には、記事で取り挙げた労働時間の管理を含めた労務管理上の手間が相当必要となります。

このため、副業解禁を検討する際には、就業規則の定めだけでなく、労務管理の体制なども十分に整備しておく必要があります。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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