OpenWorkの不適切な口コミを削除する方法
OpenWorkとは、社員の会社に対するクチコミを掲載している転職・就職のための情報プラットフォームサービスです。従来は、当該企業に勤めている知り合いに聞く以外に情報を得る方法がなかった実際の就労環境等の内情を知る事ができ、就職・転職活動の参考にすることが出来ます。
このように、OpenWorkは、社員の生の声を知る事ができる点で就職や転職を考えている人たちにとって大変便利なサービスではありますが、各企業の口コミは、ユーザーが無料アカウントを作成するだけで投稿でき、また当該企業に勤めていたかどうかに関わらず、口コミを投稿できてしまうため、企業に対する誹謗中傷や信用を損ねる内容の投稿がなされる場合があります。
なお、OpenWorkは、2019年4月までは「Vorkers」という名称でしたが、同年5月から現在の「OpenWork」にサービス名が変更されています。
この記事の目次
OpenWorkの口コミ機能によりどのような風評被害が生じるか
社員(元社員を含む)からの名誉を毀損する内容の口コミ
社員又は元社員による口コミとしては、ユーザーの登録情報自体は虚偽ではないとしても投稿内容が虚偽であったり、名誉毀損にあたる場合が考えられます。なお名誉毀損罪の成立要件については下記の記事にて詳細に解説しています。ご参照ください。
OpenWorkの事例ではありませんが、同種の就職・転職の口コミサイトにおいて「査定の基準が何もなく、経営者の独断と偏見で成り立っている」といった投稿がなされた事件において、東京地裁平成25年12月10日判決は下記のような判断を行っています。なお、引用する判決文における「原告」が虚偽の口コミを書き込まれた企業です。
(従業員の査定の基準が何もない)については,…原告においては,従業員の査定基準を明文化したものは存在しないが,少なくとも平成20年度から平成23年度において,賃金台帳とは別に従業員各人につき月ごとの就業日数,欠勤日数,休暇日数,遅刻回数,早退回数,延着回数(延着とは,交通機関の遅れによる延着証明書を提出しているため遅刻とはしないが,その旨を注記したもの)を記録した勤怠集計表を作成しており,毎年2月までの分を集計して3月に行う昇給の査定に利用していたこと,昇給の査定においては,勤務成績を「A」「B」「C」などとランク付けし,これに応じて昇給額を決定していたこと,賞与は,毎年7月及び12月に支給されるが,その額は,勤続年数や勤怠集計表等に基づく各従業員の評価を考慮して決定されていたことが認められる。以上の認定事実に照らせば,…「査定の基準が何もなく,経営者の独断と偏見で成り立っている。」との記述はその表現が明らかに過剰であり真実でないことが明らかであるといわざるを得ない。
東京地裁平成25年12月10日判決
つまり、この判決では、従業員の査定基準を明文化した規則などは存在しないものの、
- 勤続年数
- 勤怠集計表(就業日数・欠勤日数・休暇日数・遅刻回数・早退回数)
- 「A」「B」「C」とランク付けされる勤務成績
などに基づいて昇給額や賞与額が決定されていたとの事実が認められるとして、「査定の基準が何もない」とする口コミは真実ではなく名誉毀損が成立すると判断しているのです。この判決から、口コミが真実ではないことを認めてもらうためには、口コミの内容と相反する事実関係を具体的に証明する必要があるといえます。
機密情報を漏えいする内容の口コミ
OpenWorkにおいては、企業の口コミという性質上、その企業の機密情報に該当する情報、例えば顧客管理システムのセキュリティ・ホール等に関する投稿がされることは十分に考えられます。このような情報漏洩については、直ちに対応しなければ、企業にとって致命的な損害が生じることがありうるため、特に注意が必要です。
OpenWorkの利用規約違反による削除申請
削除申請の方法
OpenWorkは、掲載企業が口コミを含む掲載情報の削除を求める場合には、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会のサイト上にある申請フォームを利用して削除申請を行うことを求めています。具体的には、口コミの削除を求める場合には、
・「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」(必要事項を記入したもの)
www.vorkers.com
・発行後3カ月以内の印鑑証明書
・第三者が代行する場合には、依頼主の登録印鑑(実印)が押された委任状
・掲載内容が、クチコミ投稿時の「事実と異なる」ことを明確に証明できるもの(掲載内容が「事実と異なる」場合)
を郵送にて、オープンワーク株式会社に郵送することとなっています。なお、少々意味を把握しにくいのですが、最後の「クチコミ投稿時の…証明できるもの」については、後述する➀~③のいずれかの「削除を求める理由」に即した事実を証明できるものを資料として用意する必要があると考えられます。
どのような場合に削除が認められるか
OpenWorkは利用規約11条1項において、以下の行為を禁止行為として定めています。
また掲載企業向けに削除がされ得る例として、
➀申請内容から掲載情報が明らかに投稿時の「事実と異なる」と判断できる場合
②申請内容から掲載情報が明らかに「誹謗中傷に該当する表現を含む」と判断できる場合
https://www.vorkers.com/contact5.php
③その他掲載内容が公序良俗に反すると判断できる場合
の3つを挙げています。
そのため、例えば、当該会社に存在しない部署に関する口コミの投稿は、客観的にみて「事実と異なる」といえるため、➀および利用規約11条1項a.に該当し、削除が認められる可能性があります。また、例えば特定個人に対する「楽しそうにハラスメントしてんじゃねーよ」といった誹謗中傷の口コミの投稿は、「誹謗中傷に該当する表現」といえるため、②および11条1項c.に該当し、削除が認められる可能性があります。
また、前に例に挙げた、顧客管理システムのセキュリティ・ホールといった企業の機密情報を書き込む口コミについては、顧客情報の流出によって企業に損害を与えることを意図したものと考えられるため、利用規約11条1項b.で禁止する「特定の企業…に…不利益を与えることを目的とした情報を発信する行為」にあたるとの主張ができるでしょう。
なお、具体的にどのような表現が名誉毀損に該当するかは下記の記事にて詳細に解説しています。
民事訴訟により口コミ削除の仮処分を求める方法
オープンワーク社による削除が認められない場合にも、裁判所を通じた手続である削除を求める仮処分の申立てを行うことにより、削除がされる可能性があります。仮処分申立ては簡単にいうと簡略化された裁判手続です。要件としては、➀自己の権利(名誉など)が侵害されていること、②削除の仮処分が必要であること、の主張が必要となります。
仮処分による削除が認められるのに必要な期間は、1-3カ月程度であることが多く、通常の裁判であれば、1年以上かかるケースもあることから考えれば、比較的早期に削除がなされることになります。また、この手続きは「仮」処分という名称ですが、実際には、仮処分で削除が認められる多くのケースでは、本訴手続きにおいても、削除が認められます。そのため、通常、仮処分を受けた相手方は、当該記載を削除しそれを復活させることもないため、その後に改めて訴訟を提起せずとも、終局的な削除がなされることになります。なお、削除の仮処分を求める具体的な方法については、下記の記事にて詳細に解説しています。
削除以外の方法による対策
口コミの削除以外にも、民事裁判手続によって投稿者の情報開示を求めることができます。このような手続を発信者情報開示請求といいます。発信者情報開示請求が認めれば、悪質な口コミの投稿者の個人情報を取得することができます。そして、収得した情報に基づき、投稿者に対して損害賠償請求等の訴訟を提起することができるようになります。なお、発信者情報開示の方法については、下記の記事にて詳細に解説しています。
まとめ
近年では、就職・転職についても、どのような会社であるかの判断材料として、ネット上の口コミが重要な地位を占めています。このため、悪質な口コミによって会社の口コミが「汚染」されてしまうと、新卒採用や中途採用での企業人気の低下が生じ、採用活動に深刻な影響を受けることがあります。また、口コミの投稿については、一度削除されても、スクリーンショットなどがSNS等を通じて拡散することがあり被害が削除後にも続く恐れがあります。
そのため、悪質な口コミについては、出来るだけ迅速な対応が必要であり、そのためには定期的な口コミ情報のチェック体制を構築することが重要であると言えます。また、削除されたことに満足せず、自らも情報発信を行うことで、悪質な口コミを排除する取り組みも重要であると言えます。
カテゴリー: 風評被害対策