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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

補助金・助成金の不正受給の定義と摘発事例、法的リスクを解説

国や地方自治体が提供する補助金や助成金は、特定の政策目的を達成するために、返済不要の資金を民間企業や個人事業主等に交付する制度です。企業にとっては、これらの資金は売上とは異なる「雑収入」として計上され、返済の義務がないため、経営の安定化や新たな投資、成長戦略の実現に向けた強力な後押しとなります。

しかし近年、特に新型コロナウイルス感染症のパンデミック下で導入された緊急性の高い給付金(持続化給付金、家賃支援給付金、雇用調整助成金など)において、不正受給が深刻な社会問題として浮上しました。これらの制度は、経済的な打撃を受けた事業者への迅速な資金供給を最優先したため、審査条件が比較的緩和され、その隙を突いた不正行為が多発する結果となりました。迅速な資金供給が求められる緊急時には、審査の簡素化が不可避である一方で、これが不正の温床となるという構造的な課題が浮き彫りになりました。この事態は、政策立案者が支援の迅速性と不正防止の堅牢性という二律背反のバランスをいかに取るかという、根本的な問題提起を含んでいます。

この記事では、補助金・助成金の不正受給の定義や企業が不正受給した場合の法的なリスクについて詳しく解説します。

補助金・助成金の不正受給とは?定義と主要な手口

補助金・助成金を受け取った際にどのような行為をすると「不正受給」とされるのでしょうか。ここでは、その法的な定義と、実際に行われている主な手口について説明します。

不正受給の法的定義と「不正の行為」の範囲

補助金・助成金の不正受給は、「偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない補助金等の交付を受け、又は受けようとすること」と定義されます。

この定義において重要なのは、実際に助成金を受給していなくても、不正を目的に申請した段階で不正受給に該当するという点です。つまり、申請書類の偽造や虚偽の申告を行った時点で、不正行為とみなされる可能性があります。

不正行為の責任は、申請を行った事業主の代表者だけでなく、事業主の役員、従業員、代理人、申請書類の作成に関わった者、さらには訓練実施機関などが不正行為に関与した場合も、当該事業主が不正行為を行ったとみなされ、連帯して責任を問われることがあります。これは、補助金・助成金制度が公的資金を扱う性質上、その適正な運用に対する社会的な要請が極めて高いためです。

補助金・助成金の不正受給にはさまざまな手口が存在し、その巧妙化が進んでいます。以下に主な類型と具体的な事例を挙げます。

虚偽申請・虚偽報告

虚偽申請・虚偽報告とは、申請書類に事実と異なる情報を記載する行為全般を指します。これには、実際には存在しない事業内容を記載する、従業員数や売上高を偽って報告する(例:売上を過少申告し、受給要件を満たすように見せかける、従業員数を水増しする)といった手口が含まれます。

また、事業の存続状況を偽る行為も該当します。特に雇用関係助成金では、休業していないにもかかわらず休業したと偽って申請するケースが多発しました。新型コロナウイルス関連の給付金では、事業実態がない学生やフリーターが個人事業主と偽って申請する事例も報告されています。これらの行為は、申請段階で虚偽の事実を申告することで、本来受給資格のない資金を得ようとするものです。

経費の水増し・架空計上

経費の水増し・架空計上とは、実際には支出していない経費を計上したり、経費の金額を過大に報告する行為です。具体的には、架空の取引先との請求書を作成する、実際よりも高額な請求書を利用する、架空の業務委託や納品を装うといった手口が見られます。IT導入補助金では、通常150万円程度のシステムを400万円と水増し申請し、その差額をキックバックとして受け取るケースも報告されています。

キックバック・実質無料スキーム

キックバックとは「実質無料スキーム」とも言われ、訓練実施機関やIT導入支援事業者などが、事業主の自己負担額を減額または無償にするために、支払われた費用の一部を金銭的(現金、クーポン、ポイントなど)に還流させる行為です。この還流は、「コンサルティング料」「キャッシュバック」「広告宣伝レビュー代」「受講者の感想提出への謝礼」など、多様な名目で行われることが特徴です。

しかし、会計検査院は、このスキームが「事業主が訓練経費を全額負担する」という助成金・補助金の基本要件に違反すると明確に指摘しています。不正かどうかの判断は、単なる形式的なチェックに留まらず、取引の実態や資金の流れ全体を精査することで行われています。

架空の従業員名義での申請・名義貸し

実際に雇用していない従業員の名前を申請書に記載したり、在籍していない期間に給与を支払ったように装う行為も不正受給とされます。これは、助成金の対象人数を水増しする目的で行われます。

二重申請・二重受給

二重申請・二重受給とは、同一の経費や事業内容で複数の補助金・助成金を重複して申請・受給する行為を指します。原則として、助成金は同一の経費や事業に対して一度しか利用できません。

目的外利用

目的外利用とは、補助金を受けた資金を、申請した内容とは異なる目的や個人的な用途に転用する行為です。

例えば、IT導入補助金で導入した清掃ロボットを自宅の掃除に利用する、設備投資の補助金を従業員の給与支払いに充てるといった事例が報告されています。

書類改ざん・期限未遵守

請求書の日付を書き換える、事業完了報告の遅延、成果物の提出期限を守らないといった行為も不正とみなされることがあります。事業の開始日や終了日を偽って申告する行為も該当します。

なりすまし・第三者による不適切な申請代行

補助事業者自身が行うべき申請マイページの開設や交付申請手続き等を、補助事業者以外が行う行為は不適切とされます。特に、社会保険労務士の資格を持たない者が雇用関係助成金の申請代行を行うことは、社会保険労務士法に違反する独占業務侵害となります。

不正受給の発覚経路:なぜ「バレる」のか

不正受給の発覚経路:なぜ「バレる」のか

行政機関は、不正行為を看過しない体制を構築しており、その監視の目は年々厳しくなっています。

行政機関(労働局、中小企業庁など)による厳密な審査と実地調査

申請書類は、担当職員によって、申請内容と実際の状況に矛盾点や実態と異なる記載がないか、詳細に確認されます。例えば、訓練日誌に訓練内容が記載されていた日が、出勤簿では有給休暇になっていないかといった矛盾点が調査されることがあります。

さらに、都道府県の労働局や補助金事務局の審査官・監査官による抜き打ちの実地調査も頻繁に行われます。この調査では、出勤簿、賃金台帳、労働者名簿、会計帳簿などの書類が詳細にチェックされ、申請内容との整合性が検証されます。例えば、休業した従業員として実際には存在しない人物の名前が記入されていた場合、その人物の実態を示す資料が見つからなければ不正が発覚します。また、休業中の従業員の活動記録やプロジェクト管理表なども細かく確認され、業務実態がないはずの休業中に業務に関与していた形跡が見つかれば、不正受給と認定される可能性があります。

会計検査院も、補助金・助成金の適正な執行を検査する役割を担っており、その調査によって多くの不正受給が発覚しています。会計検査院は、特にキックバックや虚偽申請、目的外利用といった悪質な手口に焦点を当てており、その指摘を受けて各省庁や事務局が不正受給の返還請求や再発防止策を講じています。

内部告発・通報制度の活用

従業員や元従業員、取引先などからの内部告発や情報提供も、不正受給が発覚する主要な経路の一つです。労働局のホームページには、不正受給を告発するための専用投稿フォームが用意されており、匿名での通報も可能です。多くの告発が寄せられる労働局も存在し、これにより不正が明るみに出るケースが増加しています。

特に、企業内でコンプライアンス意識が低い場合や、従業員が不満を抱えている場合に、内部告発のリスクが高まります。不正行為に関与した代理人や訓練機関の不正が発覚した場合、そこから芋づる式に、その業者と取引のあった他の事業者の不正も明らかになることがあります。特にいわゆるキックバック型の不正受給などは、同一の訓練実施機関やIT導入支援事業者などによって行われているケースが多いため、「芋づる式」に不正が発覚するケースが多いと言えます。

会計検査院による監査と指摘

会計検査院は、国の会計経理の合規性や有効性を検査する独立した機関であり、補助金・助成金の支給についても厳しくチェックしています。会計検査院の検査は、特定の補助金制度における不正の実態を明らかにし、厚生労働省や経済産業省などの所管省庁に対し、是正措置や改善措置を要求する権限を持ちます。

例えば、IT導入補助金や人材開発支援助成金におけるキックバック問題は、会計検査院の調査によって大規模な不正が指摘され、制度の見直しや厳格化につながっています。会計検査院の指摘は、単なる個別の不正行為の摘発に留まらず、制度設計や運用上の不備を浮き彫りにし、より広範な不正防止策の導入を促す役割を果たしています。

他の助成金・補助金とのデータ照合

行政機関は、申請された書類の内容を、過去に申請された他の助成金・補助金のデータと照合することもあります。これにより、同一の経費や事業内容に対する二重申請・二重受給がないか、あるいは申請内容に矛盾がないかを確認します。異なる制度間でのデータの連携が進むことで、不正行為の発見精度が高まっています。

不正受給の発覚経路が多様化・厳格化していることは、公的資金の適正な利用に対する社会全体の監視が強化されていることによるものと言えるでしょう。

不正受給が発覚した場合の厳格なペナルティ

不正受給が発覚した場合の厳格なペナルティ

補助金・助成金の不正受給が発覚した場合、そのペナルティは非常に厳しく、金銭的負担に加えて、企業の存続や個人の人生にまで深刻な影響を及ぼす可能性があります。

法的・行政的措置

  • 助成金・補助金の全額返還と加算金・延滞金:不正に受給した助成金・補助金は、全額返還が命じられます。これに加えて、不正受給額の2割に相当する加算金(違約金)と、不正受給日の翌日から返還完了日までの年3%(または年10.95%など、制度により異なる)の延滞金が課されます。これにより、最終的な返還額は受給額の1.3倍以上になることもあります。
  • 詐欺罪(刑法)および補助金等適正化法違反による刑事罰:悪質な不正受給は、刑法第246条の詐欺罪に問われる可能性があります。詐欺罪が適用された場合、最大で10年以下の拘禁刑(懲役)が科される可能性があります。また、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金等適正化法)にも違反し、同法第29条に基づき、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。虚偽の報告や検査拒否などがあった場合は、3万円以下の罰金に処せられることもあります。
  • 雇用関係助成金の受給停止(5年間):不正受給が決定した日から5年間は、不正受給を行った助成金だけでなく、他の雇用関係助成金を含むすべての助成金の受給資格が停止されます。全額が返納されていない場合、この期間は延長されることがあります。
  • 企業名・代表者名・関与者の公表:不正受給が発覚した場合、事業主名、代表者名、事業所の所在地、不正受給の内容や金額が、所管の労働局や経済産業省のウェブサイトなどで公表されます。特に、自主申告ではない不正受給事案で支給取消額が100万円以上の場合は、原則として公表されます。企業名の公表は、会社にとって計り知れないダメージとなり、長期間にわたって不正受給の事実が知れ渡ることとなります。
  • 代理人・社会保険労務士・訓練実施機関への連帯責任と罰則:不正受給に社会保険労務士や代理人、訓練実施機関が関与していた場合、これらの関与者も事業主と連帯して返還債務を負うことになります。また、事業所の名称や氏名、不正内容が公表されるほか、5年間は雇用関係助成金の申請が受理されなくなるなどのペナルティが科されます。これは、専門家がその知識や立場を悪用して不正行為を助長した場合、その責任は極めて重いという行政の姿勢を示しています。

社会的・経済的影響

  • 企業信用力の失墜と事業継続への打撃:企業名や代表者名が公表されることで、取引先や顧客からの信頼を失い、事業継続に深刻な問題が生じる可能性があります。顧客からの買い控えが発生し、業績が悪化するリスクも高まります。一度失われた信用を回復するには、多大な時間と労力を要します。
  • 金融機関からの評価低下と資金調達への悪影響:法令に違反した企業として金融機関からの評価が下がり、新規融資の困難化や既存融資条件の悪化など、資金調達に悪影響を及ぼす可能性があります。
  • 補助金指定業者からの除外:IT導入補助金における導入支援事業者など、特定の補助金制度で指定業者として登録されている場合、不正行為が発覚すればその登録が取り消されることがあります。これにより、その後の事業展開に大きな制約が生じます。

主要な補助金・助成金における不正受給の具体例と特徴

ここでは、主要な補助金・助成金における実際にあった不正受給の具体例をとりあげて解説します。

雇用調整助成金における不正受給

雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員を一時的に休業させ、休業手当を支払った場合に、その費用の一部を国が助成する制度です。コロナ禍においては、迅速な支給を目的として手続きが大幅に簡素化されました。この簡素化は、緊急時の対応としては不可欠でしたが、同時に不正受給の温床となる構造的な脆弱性を生み出した側面があります。

主要な手口としては、休業の水増しや架空休業が挙げられます。実際には勤務している従業員を休業中と偽って申請するケースが多く見られました。例えば、休業中に自宅から顧客にメールを送信するなどの業務を行っていたにもかかわらず、休業として申請する行為も不正です。また、架空の従業員名義で申請したり、休業手当を支払っていないにもかかわらず支払ったかのように書類を偽造したりする手口も確認されています。さらに、会社を経営しているように見せかけ、従業員を休業させたことにして助成金を申請するなど、すべてが架空のケースも報告されています。

具体的な事例としては、愛知県の美容サロン運営会社が約2億2,900万円を不正受給したケースが報じられています。この会社は、会社を休業していないにもかかわらず休業したとする偽の申請書類を作成していました。

コロナ関連給付金(持続化給付金、家賃支援給付金など)における不正受給

持続化給付金や家賃支援給付金などのコロナ関連給付金は、新型コロナウイルス感染症の影響で売上が減少した事業者や、家賃負担に苦しむ事業者を支援するために創設されました。これらの給付金も、緊急性を要する性質上、比較的簡素な申請プロセスが採用されました。この緊急性と審査の厳格性のトレードオフが、不正受給の温床となったと考えられます。

主要な手口は、虚偽申請や虚偽報告です。実際には事業を営んでいないサラリーマン、学生、無職の人が、自身を事業者と偽って申請するケースが多発しました。中には、「転売サイトで1回でも物を売ればフリーランスになる」といった誤った認識を誘発する手口も存在しました。また、申請要件である売上減少率を満たすため、売上を過少に記載したり、架空の売上を計上したりする手口が用いられました。家賃支援給付金では、賃貸借契約に基づく賃料を実際よりも高く偽って申請する手口も報告されています。例えば、ワンルームマンションで月々200万円の家賃を申請し、6ヶ月で約550万円を不正受給した事例が報じられています。

これらの給付金制度における不正が大規模化した背景には、確定申告の方法などを指示し、申請書類の作成や申請手続きを代行する「指南役」が介在し、申請者の大半が大学生や主婦などであったケースが多数報告されています。指南役は高額な指南料を徴収し、不正受給が友人・知人やSNSを通じて連鎖的に広がりました。さらに、指南役が第三者を給付金申請に誘い、仲介料を受け取って、その一部を主犯に渡すという多層的な構造が形成され、申請者がねずみ算式に増加し、巨額詐欺事件に発展した「ねずみ講式詐欺」も確認されています。

デジタル化応援隊事業における不正受給

デジタル化応援隊事業は、中小企業がテレワークなどのデジタル化に取り組む際、IT専門家からの助言を受ける費用を補助する事業でした(2020年9月から2022年1月に実施され、17,245件が補助されて終了)。

中小企業庁の調査により、455件の不正が判明し、約1億円相当の不正受給が確認されました。この事業の不正手口は、ITコンサルティングという「サービス」に対する補助金であるため、物理的な設備導入などに比べて実態の把握が難しく、架空請求や水増しが容易であるという特性よるものでしょう。

主要な手口としては、実際には支援を行っていないにもかかわらず、支援を行ったと虚偽の報告をして請求する「架空請求」や、支援を行ったが、その時間を水増しして請求する「支援時間の水増し」が挙げられます。短時間に何度も着替えて長時間のコンサルを受けたと偽装するための写真を撮り、補助金をだまし取るグループの存在も報道で明らかになっています。

事業再構築補助金における不正受給

事業再構築補助金は、新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編など、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するための企業の思い切った事業再構築を支援する補助金です。多額の補助金が動く傾向にあります。

主要な手口としては、虚偽の申請が報告されています。これには、売上や従業員数の虚偽報告、不正な経費の申告、事業の存続状況の偽装などがあります。また、補助金の目的外利用も問題となっています。これは、申請した内容とは異なる目的で補助金を利用する行為です。例えば、清掃ロボットを導入した飲食店が、そのロボットを店の掃除ではなく自宅の掃除に利用した事例が典型例として挙げられています。さらに、不当に釣り上げた補助金を、架空の請求書などを用いて関係者(友人、取引先など)に分配する手口も確認されています。

ものづくり補助金における不正受給

ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者が、革新的な製品開発や生産プロセス改善のための設備投資などを行う際に支援する補助金です。ものづくり補助金単体での不正受給件数の具体的な数値は示されていませんが、IT導入補助金との関連で、同一の顧客管理システムに対してものづくり補助金とIT導入補助金の両方を重複して申請し、受給する「二重申請」の事例が報告されています。これは、異なる省庁や制度間での情報連携の隙を突く手口です。

キャリアアップ助成金における不正受給

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化や賃金規定等の改定、人材育成などに取り組んだ事業主に対して支給される助成金です。会計検査院の報告によると、令和3年度は22件で4,300万円、令和4年度は5件で399万円の不正受給が発覚しています。

主要な手口としては、助成金の要件を満たしていないにもかかわらず、申請内容を偽って支給を受けるケースが報告されています。また、事業主に代わって代理人が支給申請手続きを行った際に、不正受給につながった事例も報告されており、外部の専門家や代行業者を介した申請における共通の不正リスクを示唆しています。

IT導入補助金における不正受給

IT導入補助金では、IT導入支援事業者から企業へのキックバックが主な不正手口として指摘されており、ITツールの費用が「実質ゼロ円」になるようなスキームが問題視されています。

IT導入補助金の不正受給については、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:IT導入補助金のキックバックによる不正受給と法的リスク

リスキリング助成金における不正受給

リスキリング助成金(人材開発支援助成金)においても、訓練実施機関から企業へのキックバックが横行し、研修費用が「実質無料」となる手口が会計検査院によって指摘されています。これらの制度でも、虚偽申請や目的外利用などの不正が報告されています。

リスキリング助成金の不正受給については、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:リスキリング助成金のキックバックによる不正受給と法的リスク

不正受給を未然に防ぐための対策と適切な対応

不正受給を未然に防ぐための対策と適切な対応

申請段階での徹底した法令遵守と正確な情報提供

最も基本的な対策は、申請書類に虚偽の内容を記載しないことです。事業内容や実績、経費に関する情報は、常に事実に基づき、正確に報告しなければなりません。たとえ悪意がなくても、記載ミスや確認不足が原因で不正受給と判断されるケースがあるため、注意が必要です。

また、補助金・助成金にはそれぞれ固有の要件や目的があります。申請する前に、必ず最新の公募要領や制度趣旨を自社で確認し、制度の目的と自社の事業計画が合致しているかを理解することが重要です。事業計画の途中で内容や経費の使い道に変更が生じた場合は、自己判断せず、必ず補助金事務局に相談し、事前に承認を得る手続きを行うべきです。

専門家との連携と信頼できるパートナー選び

補助金・助成金の申請手続きは専門的な知識を要するため、社会保険労務士や認定支援機関などの専門家との連携が有効です。彼らは書類作成の正確性や申請期限の管理など、第三者の視点から適切なサポートを提供できます。

前述の通り、悪質なコンサルタントや詐欺業者も存在します。「実質無料」「100%受給保証」といった誘いには決して乗らず、信頼できるパートナーを選びましょう。

内部管理体制の強化と従業員への周知

不正受給は、悪質なコンサルタントや詐欺業者に「巻き込まれる」形で不正受給を行ってしまうケースも多く、組織内部のずさんな管理や従業員の認識不足から発生することもあります。企業は、適切な勤怠管理、経費精算、書類保管の体制を整備し、不正の余地をなくす必要があります。特に、申請に必要な書類や証憑は、支給決定日から起算して5年間保存する義務があるため、正確に保管し、求めに応じて速やかに提示できるようにしておくべきです。

また、従業員に対して補助金・助成金制度の目的や要件、不正受給の定義、そして不正行為が発覚した場合の深刻なペナルティについて周知徹底することが重要です。コンプライアンス意識の向上は、内部告発のリスクを低減し、組織全体で不正を許さない文化を醸成します。

不正・不適正が疑われる場合の自主申告の重要性

万が一、自社で不正受給の心当たりがある場合や、不適正な受給であったことに気づいた場合は、速やかに自主申告を行うことが極めて重要です。

労働局や事務局による調査が入る前に自主申告を行い、迅速に全額を返還すれば、原則として企業名の公表を免れることができます。また、加算金や延滞金が課されない場合もあります。特に重大または悪質なケースを除き、自主申告は最もリスクを軽減できる対応策です。自主申告の手順は以下の通りです。

  1. 速やかな連絡:申請した都道府県労働局や補助金の事務局に、その旨を速やかに連絡します。
  2. 事実の調査と書類提出:自ら実態調査を行い、要件に合致しないことがわかる書類を労働局に提出します。
  3. 弁護士への相談:警察への自首や行政機関への自主申告に不安がある場合は、弁護士に早期に相談することが推奨されます。弁護士は、自主返還手続きの代行や、詐欺罪による逮捕回避に向けた弁護活動、ケースによっては業者への返金請求など、多岐にわたるサポートを提供できます。

まとめ:補助金・助成金の不正受給については弁護に相談を

補助金・助成金制度は、企業の成長と経済の発展に不可欠な公的支援策です。しかし、その恩恵を享受するためには、制度の趣旨を理解し、法令遵守を徹底することが前提となります。不正受給は単なる資金の返還に留まらず、巨額の加算金や延滞金の支払い、企業名・代表者名の公表による信用失墜、雇用関係助成金の受給停止、さらには詐欺罪による刑事罰や逮捕といった、企業と個人にとって大きな影響を及ぼす可能性のある行為です。

不正行為は巧妙化し、専門家や仲介業者が関与する「実質無料」スキームや虚偽申請が横行する一方で、行政機関による審査体制や会計検査院による監査は強化され、内部告発制度も機能しています。不正行為は高い確率で発覚し、その代償は極めて大きいことを、全ての事業者は肝に銘じるべきです。また、もし不正受給を行ってしまった・巻き込まれてしまった場合、自主申告は、企業のコンプライアンス意識を示す行為であり、信頼回復への第一歩となります。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、ビジネスモデルや事業内容を深く理解した上で潜在的な法的リスクを洗い出し、リーガルサポートを行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:補助金等の不正受給対応

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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