【最悪懲役5年】助成金・補助金の不正受給で科される「罰則」を徹底解説―詐欺罪、加算金、実名公表のリスクと企業の取るべき対策

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なぜ今、助成金・補助金の「罰則」を理解する必要があるのか
国や地方自治体が提供する補助金・助成金は、企業経営にとって返済不要の貴重な資金源であり、事業の成長戦略や安定化を強力に後押しする制度です。しかし、その「返済不要」という性質ゆえに、不正受給が後を絶たず、深刻な社会問題となっています。特に、新型コロナウイルス感染症パンデミック下で導入された持続化給付金や雇用調整助成金などの緊急給付金は、迅速な支給を優先するために審査が簡素化された結果、不正の温床となり、多くの事例が摘発されました。
企業経営者やコンプライアンス担当者は、この罰則について単なる返還義務に留まらない、企業の存続に関わる重大なリスクであると認識しなければなりません。不正受給が発覚した場合、企業には行政罰、経済的ペナルティ、刑事罰、そして社会的制裁という、多岐にわたる厳格な罰則が科されます。
本記事では、これらの罰則の全容を法令に基づき網羅的に解説し、企業がこのリスクに対して取るべき具体的かつ法的な対策を提示いたします。
助成金不正の特殊性(複雑化する手口と「知らなかった」では済まないリスク)
近年、補助金・助成金の不正受給は、企業が主体的に虚偽申請を行うケースに加え、悪質な支援事業者による組織的な勧誘スキームによって、意図せず巻き込まれるケースが増加しています。モノリス法律事務所が専門とするIT導入補助金やリスキリング助成金(人材開発支援助成金)の分野では、「実質無料」や「キックバック」といった甘言が横行しています。
企業がこれらの悪質なスキームに乗ってしまった場合、「自分たちは騙された」と主張したとしても、虚偽の申請に関与した事実があれば、不正受給が成立し、厳しい罰則の対象となります。このような構造的課題を抱える現代において、企業は申請プロセス全体を厳しく管理し、不正の疑念が生じた際には、すぐに弁護士の専門的なサポートを受け、リスクを最小限に抑える行動を取ることが求められます。
「不正受給」の法的定義と摘発される具体的な手口

不正受給の法的定義、成立時期と責任の範囲
助成金や補助金の不正受給は、単なる行政手続き上のミスではなく、法的に明確に定義された不正行為です。
定義:「偽りその他不正の行為」による交付
不正受給は、「偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない補助金等の交付を受け、又は受けようとすること」と定義されます。この定義の最も重要な点は、実際に助成金や補助金を受け取っていなくても、不正な目的で申請書類を作成・提出した段階で、すでに「不正受給」が成立するとみなされることです。
責任の範囲:経営者から従業員まで
不正受給に関わる責任は、申請主体である事業主の代表者だけに留まりません。役員、従業員、代理人、そして申請書類の作成に関与した第三者など、不正行為に関わった者は連帯して責任を問われる可能性があります。特に、従業員が会社の利益のために行った不正行為であっても、当該事業主が不正行為を行ったとみなされ、会社全体がペナルティを負うことになります。補助金適正化法に定められた両罰規定により、企業と個人の双方に対して罰則が適用されるリスクが存在します。
代表的な不正受給の手口
不正受給の手口は多岐にわたりますが、主に以下の類型に分類されます。
- 虚偽申請・虚偽報告:売上や休業の実態、従業員数などの事実関係を偽って申請する行為。雇用調整助成金においては、実際には勤務しているにもかかわらず休業していると偽るケースなどが該当します。
- 経費の水増し・架空計上:実際に支出していない経費を偽りの請求書や領収書を用いて計上する行為。あるいは、実際の経費を不当に高額に水増しして申請する行為です。
- 目的外使用:交付された補助金を、当初指定された交付目的以外に使用する行為。例えば、設備投資のために受けた補助金を運転資金に流用するなどが該当し、これは後述の通り刑事罰の対象ともなり得ます。
- キックバック・実質無料スキーム:補助金支援事業者が、補助金を使って導入した製品やサービスの実質的な費用を、後から申請企業に「キャッシュバック」や「キックバック」として還流させるスキームです。これは会計検査院からも制度の基本要件違反として明確に指摘されており、組織的かつ計画的な不正行為の典型例とみなされます。
外部の支援業者に依存し、その業者が意図的に不正なスキームを指南した場合であっても、企業側は虚偽申請に関与したという事実から不正受給が成立します。特に複雑なキックバック案件では、企業は不正の意図が希薄であったと主張したいところですが、法的には不正受給の責任から逃れることは困難であり、弁護士による初期の事実調査と防御戦略が不可欠です。
【最重要】不正受給が発覚した場合に科される「罰則」

「罰則」は、不正受給問題の核心であり、その適用範囲は経済的な損失、事業活動の制限、そして個人の自由を脅かす懲役刑にまで及びます。不正受給が発覚した場合、企業はこれらすべての罰則を受ける可能性があります。
刑事罰のリスクや懲役刑の適用可能性
不正受給は、行政処分を受けるだけでなく、国家に対する欺罔行為として犯罪行為に該当します。
刑法上の詐欺罪
不正受給の悪質性が高い場合、刑法第246条の詐欺罪に問われる可能性があります。詐欺罪は、国や自治体を騙して財産的利益を得た行為に適用され、その法定刑は10年以下の懲役という重いものです。特に、不正受給額が多額に上る場合や、組織的・計画的な不正が認められる場合、刑事告発されるリスクが極めて高くなります。
補助金適正化法違反による罰則(特別法)
補助金・助成金の不正受給に対応する特別法として、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(補助金適正化法)があります。この法律は、不正受給に対する詳細な罰則を定めています。
不正受給に関連する主な刑事罰と法定刑
法令/罪名 | 適用される行為 | 法定刑(罰則) | 重要性 |
刑法 / 詐欺罪(第246条) | 偽計を用いて給付金を詐取する行為 | 10年以下の懲役 | 不正受給の一般的な適用罪名であり、最も重い懲役刑リスクを示す。 |
補助金適正化法 / 不正受給(第29条) | 偽りその他不正の手段で補助金を受給した行為 | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 特別法による直接的な罰則。詐欺罪と競合して適用される。 |
補助金適正化法 / 目的外使用(第30条) | 補助金等を本来の交付目的以外に使用した行為 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 意図的な流用も刑事罰の対象となる点を警鐘。 |
両罰規定の適用による代表者・法人の責任
補助金適正化法には、**両罰規定(第32条)**が設けられています。これは、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者が、その法人の業務に関し不正行為を行った場合、実行者個人(役員や従業員)だけでなく、法人に対しても罰金刑を科すという規定です。
この規定により、経営層は、自らが直接手を下していなくとも、部下の不正行為を指示したり黙認したりしていた場合、会社だけでなく、自身も刑事責任(懲役刑や罰金刑)を問われるリスクを負います。企業のコンプライアンス体制の不備が、代表者個人の人生を左右する結果につながり得るため、極めて重大なリスクとなります。
経済的ペナルティ(受給額の120%超を請求される構造)
不正受給が発覚した場合、企業が行政庁から請求される金額は、単に受給した金額の返済に留まりません。受給額に加えて、違約金としての加算金と延滞金が課されるため、実質的に受給額の120%を超える金額の返還が求められることになります。これは、企業の財務状況を一瞬にして悪化させる罰則です。
不正受給発覚時の返還請求および加算金の内訳
ペナルティの種類 | 請求される金額/措置 | 法的影響・備考 |
不正受給額の返還 | 不正発生日を含む期間以降の受給額全額 | 不正が認められた期間以降、受給したすべての金額が返還義務の対象となる。 |
加算金(違約金) | 不正受給額の20%相当額 | 行政庁が課すペナルティ。自主申告を行った場合は、この加算金の免除・軽減が期待できる。 |
延滞金 | 年率3%など規定に基づく遅延損害金 | 返還期限からの経過日数に応じて、利息相当額が加算される。 |
ここで重要なのは、返還請求の対象が「不正発生日を含む期間以降の全額」であるという点です。つまり、仮に不正が受給期間の途中で一度でも発生していた場合、その後の全ての受給額が遡及的に返還の対象となってしまいます。これに20%の加算金と延滞金が上乗せされるため、企業は不正によって得た利益どころか、多大な罰金を支払う事態に陥ります。
持続化給付金の不正受給事例でも、公表された2,458者のうち、1,824者は不正受給金額に加え、20%の加算金及び年率3%の延滞金を含む全額を国庫に納付済みであることが示されています。この事実は、行政が厳格にペナルティを適用している現実を物語っています。
行政処分と社会的制裁、事業継続への致命傷
経済的なペナルティや刑事罰のリスクに加え、企業に対する行政処分と社会的制裁は、事業継続そのものに致命的な影響を及ぼします。
不支給措置(資格制限)
不正受給が発覚した場合、行政庁は、当該事業主に対して今後の助成金・補助金の申請資格を制限する措置を講じます。特に雇用関係助成金においては、不正受給日から5年間にわたり、不正受給を行ったもの以外の他の雇用関係助成金を含む、すべての雇用関係助成金が受給できなくなります。
公的資金の受給資格を5年間失うことは、継続的な経営努力や、労働環境改善のための資金調達手段を完全に断たれることを意味し、企業経営の自由度を著しく制限する重大な行政処分です。
事業主名等の公表(実名公表)
自主申告ではない不正受給が発覚し、取り消した支給額が100万円以上となった場合、行政庁は原則として、事業主の名称、代表者名、不正の内容を公表します。
公表は、企業にとって最も避けたい「社会的制裁」の一つです。公表により、企業は以下のような決定的な信用失墜を被ります。
- 取引先からの信頼喪失:公表された事実は、取引先との契約解除や取引停止の理由となり得ます。
- 金融機関からの融資停止:資金調達が困難になり、運転資金の確保に支障をきたす場合があります。
- 人材採用の困難:社会的評価の低下は、優秀な人材の獲得を不可能にします。
実際に、経済産業省は持続化給付金で2,458者を不正受給者として認定し、公表しています(不正受給総額約25億円)。また、雇用調整助成金の不正受給公表も累計1,446件に上るなど、公表事例は決して例外的な事象ではありません。実名公表は、企業が受ける社会的ダメージの中で、刑事罰に至らなくとも、事業継続を根本から脅かす最大の罰則となり得ます。
不正受給の発覚経路と行政・捜査機関の連携

不正受給は、行政機関による厳格な調査体制と、現代的なリスク管理手段によって、非常に高い確率で「バレる」構造となっています。
発覚経路の多様化による、どうして「バレる」のか?
不正が発覚する経路は、企業が想定する以上に多様化しています。
- 行政機関による厳密な審査と実地調査:申請内容と提出された証拠書類(売上台帳、出勤簿、賃金台帳など)の整合性が詳細に確認されます。労働局や補助金事務局の審査官・監査官は、抜き打ちで企業への実地調査を実施し、申請内容が実態と合っているかを厳しくチェックします。
- 会計検査院による執行検査:会計検査院は、国の補助金制度全体の執行が適正に行われているかを検査する機関であり、その指摘は極めて重大な意味を持ちます。
- 内部告発・通報制度の活用:従業員、元従業員、取引先などからの情報提供(内部告発)は、不正受給が発覚する主要な経路の一つです。特に労働関係の助成金においては、解雇や労働条件を巡るトラブルから、元従業員が労働局に通報するケースが多発しています。
捜査機関との連携強化
行政機関は、不正受給への対応を強化しており、悪質な事案については積極的に刑事告発を進めています。
都道府県労働局は、不正受給対応について都道府県警察本部と連携を図り、情報共有等を行いながら積極的に調査をすすめています。これは、行政的なペナルティの適用と、刑事的な責任追及が密接に連携していることを意味します。
行政調査の過程で、不正の意図や計画性、反復性が認められ、悪質であると判断された場合、行政側は躊躇なく捜査機関に対し刑事告発を行います。この段階に至ると、企業側は被疑者として警察・検察による捜査の対象となり、行政対応から刑事弁護へと防御戦略を切り替えなければなりません。企業にとって、行政調査が始まる初期の段階で、いかに刑事告発のリスクを管理するかが、存亡に関わる最重要課題となります。
罰則リスクを最小化するための弁護士による具体的対策
不正受給の疑いが生じた場合、企業が取るべき行動は、問題を隠蔽することではなく、早期に事実を認め、自主的に対応を進めることです。罰則リスクの管理において、弁護士の専門的なサポートは不可欠です。
危機管理の要である早期の自主返還・自己申告の圧倒的メリット
不正受給には、早期の自主返還・自己申告を行うことが、罰則リスクを最小化するための最も現実的かつ有効な防御策です。
自主申告の最大のメリットは、行政庁によるペナルティ、特に加算金(20%)の免除や軽減の可能性が高まることです。さらに重要なのは、行政側に対し「真摯に反省し、問題解決に積極的に協力する姿勢」を示すことで、刑事告発の回避を目指すことができる点です。
実際に、経済産業省が管轄する一時支援金や月次支援金においては、既に数千件もの自主返還の申出があり、例えば月次支援金では10,818件の申出、約12億4,300万円が返還済みとなっています。この事実は、行政側が自主申告による解決の道を積極的に提供していることを示しており、企業はこの機会を最大限に活用すべきです。
弁護士の役割は事実関係の調査と行政機関との折衝代行
自主申告には、単に資金を返還する以上の複雑な手続きが伴います。不正の正確な事実関係の調査、返還対象期間の特定、行政機関との専門的な折衝が必要となるため、企業単独でこれを行うのはリスクが高すぎます。弁護士は、以下の役割を担い企業の防御をサポートします。
事実関係の正確な調査・切り分け
弁護士は、企業内部の会計資料、労働記録、通信記録などを精査し、不正の程度、関与した人物、故意性の有無を客観的に判断します。特に、悪質な支援事業者による「キックバック」スキームに巻き込まれた場合、企業側の「被害者性」を法的に主張し、意図的な不正ではなかったという事実関係の切り分けを行うことが可能です。
行政折衝の代行とペナルティの最小化
行政機関(労働局、事務局など)との交渉を全て弁護士が代行します。返還額の算定、加算金や延滞金の取り扱いについて、最も企業に有利な解決を目指して折衝を行います。これにより、企業の担当者が行政側の厳しい追求に直接さらされることを防ぎ、冷静かつ的確な対応を継続できます。
刑事告発リスクの管理
行政機関が警察との連携を強化している現代において、行政対応は同時に刑事防御の側面を持ちます。弁護士は、自主申告や行政への協力姿勢が、将来的に警察や検察による捜査が行われた場合に、「情状酌量の余地がある」または「起訴を猶予すべき」と判断されるための重要な材料となるよう、戦略的に対応を進めます。潜在的な刑事リスクを管理しながら、行政処分を最小限に抑える包括的なリスクマネジメントこそが、弁護士に依頼する最大の価値となります。
モノリス法律事務所による不正受給対応サポート
当事務所の専門性と強み
モノリス法律事務所は、補助金・助成金の不正受給問題、特にIT導入補助金やリスキリング助成金(人材開発支援助成金)といった複雑なスキームに巻き込まれた企業の対応に特化しています。
不正受給は、単なる会計上の問題ではなく、高度なIT技術や契約構造が絡むケースが多発しています。当事務所は、IT・テック分野に強いという専門的な知見を活用し、複雑な申請書類や、外部支援業者が仕掛けた組織的な「実質無料」「キックバック」スキームの構造を法的に解明し、企業の防御戦略を構築します。会計検査院の調査によっても、リスキリング助成金やIT導入補助金における不正が広範にわたる構造的な課題であることが指摘されており、当事務所はこのような複雑な案件における専門家として、危機的な状況に陥った企業をサポートします。
罰則が確定する前に、専門家へ相談を
助成金・補助金の不正受給がもたらす「罰則」は、最高10年以下の懲役刑という刑事罰、受給額の120%を超える経済的ペナルティ、そして実名公表による事業の信用の失墜を含みます。これらの罰則は、企業の存続を左右する重大なリスクであり、決して看過することはできません。
不正受給の疑いがある、あるいは行政から調査が入った初期段階こそが、対応の成否を分ける極めて重要な局面です。加算金の免除、刑事告発の回避、そして社会的制裁の最小化を目指すためにも、冷静かつ迅速な対応が求められます。
不正受給問題でお悩みの場合、罰則が確定し、取り返しのつかない事態に陥る前に、実績と専門性を持つ弁護士にご相談ください。モノリス法律事務所は、御社の状況を詳細にヒアリングし、最も有利な解決策へと導くためのサポートを提供いたします。
助成金・補助金の不正受給対応に関する当事務所の具体的なサポート内容、フロー、料金体系については、以下の専門ページにて詳細をご確認ください。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務