配信による投げ銭サービスの法律的な問題と導入に必要な条件とは
昨今、17LIVEやPocochaなど、投げ銭ができる生配信アプリが人気です。
いまや、YouTubeにも「スーパーチャット」として導入され、知名度が上がっている投げ銭サービスですが、サービスを始める際には資金決済法との関係で、法律的に気を付けるべきポイントがあります。
本記事では、投げ銭サービスの開始を検討中の方向けに、どのような点に注意して運用する必要があるのかを、最近改正のあった資金決済法をみながら解説します。
この記事の目次
投げ銭サービスとは
ライブ配信アプリ等で、視聴者から配信者へ金銭やそれに代わるものを送ることができるサービスのことです。
代表例としては、
- YouTubeの「スーパーチャット」
- ライブ配信アプリSHOWROOMの「Show Gold」
- TikTok Liveの「TikTok LIVE Gifting」
- X(Twitter)の「Tips」
等が挙げられます。動画に限らず、文章や写真、イラストに対しても投げ銭が可能です。
投げ銭は配信者のモチベーションにつながったり、視聴者が配信者を直接応援することができたりするといった利点があります。
投げ銭サービスでは資金移動業の登録が必要
投げ銭サービスは、内容によっては資金決済に関する法律(以下、資金決済法)の「資金移動業」に該当する可能性があり、その場合は資金移動業の登録を事前に受ける必要があります。
なお登録を受けるには、後述するような厳しい登録要件を満たさなければなりません。
無登録で資金移動業を行った場合は、銀行法第4条1項に違反する無免許業者として罰せられる可能性もあります。
資金決済法では「資金移動業」について以下のように定められています。
この法律において「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引を業として営むことをいう。
資金決済法2条2項
この法律において「資金移動業者」とは、第三十七条の登録を受けた者をいう。
資金決済法2条3項
内閣総理大臣の登録を受けた者は、銀行法第四条第一項及び第四十七条第一項の規定にかかわらず、資金移動業を営むことができる。
資金決済法37条
つまり資金移動業とは、銀行以外の登録事業者が行う為替取引のことです。「LINE Pay」「PayPay」などの個人間送金サービスがこれにあたります。
なおここで言う為替取引について、判例は「資金を現金輸送によらず一定の仕組みを用いて移動すること」と判示しています(最三小決平成13年3月12日)。
銀行と同じく、資金移動業者も為替取引を業として営むことは可能です。もっとも、銀行と異なり預金の受入れはできないので、必要な限度でアカウント(口座)を開設し、口座間の送金を行うことができるとされています。
そして、一見「個人が個人へ送金する」点で同じに見えるサービスでも、LINE Payなどは「資金移動業」、PayPayなどは「前払式支払手段発行業」、そしてpaymoなどは「収納代行業」…と、適用されている仕組みはさまざまです。
その他、自社ポイントの移動・交換と資金決済法の資金移動業については、以下の記事で詳細に解説しています。
資金移動業の登録要件については後ほど詳しく説明しますが、もし要件を満たせない場合は、資金移動業に該当しないよう工夫しなければなりません。
資金移動業の登録をせずに投げ銭サービスを行うには
資金移動業の登録をせずに投げ銭サービスを行うためには、前払式支払手段発行業の届出を行うことが考えられます。
前払式支払手段発行業
前払式支払手段とは、事前にお金を支払っておき、買い物等の支払い手段として利用できるものです。商品券やギフト券、Suicaなどのプリペイドカードがこれにあたります。
前払式支払手段には、
- 前払式支払手段の発行者等からの商品等の購入のみに使用可能な「自家型」(発行者の店舗のみで使用可能なギフト券等)
- 発行者以外の店舗やサービス提供者での代金支払いにも使用可能な「第三者型」
があります。
例えばですが、この前払式支払手段発行者(自家型)として届出をして投げ銭サービスを行っているのが、ライブ配信アプリ「SHOWROOM」です。
SHOWROOMでは、視聴者は事前にShowGoldを購入し、配信者へShowGoldで投げ銭をすることができます。
ただ、このShowGoldは直接配信者へ支払われるのではなく、SHOWROOMの運営者が視聴者数などをもとに独自に算定した分配金が支払われる仕組みになっています。
一見通常の投げ銭サービスのように見えますが、視聴者が送ったShowGoldが、直接配信者に届くわけではないという点が従来とは異なります。
前払式支払手段の発行者に対する義務
資金決済法は、利用者保護、取引の安全性等を考慮して、前払式支払手段を発行する事業者に対し、例えば以下のような義務を課しています。
- 自家型前払式支払手段の発行者に対して(未使用残高が基準日に基準額を超えた場合):届出義務
- 第三者型前払式支払手段の発行者に対して:発行前の登録義務(登録は法人に限られる)
- 情報提供義務(発行者の氏名や利用可能金額、使用期間等の情報の表示義務等)
- 基準日ごとに、その翌日から2か月以内の報告書の提出(賃借対照表等の財務書類も添付)
- 資産保全義務(発行保証金の供託等)
- サービス終了時の未使用残高分の払い戻し義務
上記、「自家型」前払式支払手段発行者として事業を行う場合の届出義務についてですが、未使用残高が、基準日(毎年3月31日および9月30日)において、基準額(1000万円)を超えることとなったときには、その基準日から2か月以内に届出を行う必要があります。
また、資産保全義務についてですが、これは発行保証金(当該基準日未使用残高の2分の1の額以上)の供託等による、資産保全を行わなければならない、というものです。
ちなみに、カードの付与ポイントなども、発行形態によっては前払式支払手段にあたります。
「独自発行ポイントが資金決済法の前払式支払手段に該当する場合」はどのようなケースなのかについては、以下の記事をご参照ください。
関連記事:独自発行ポイントが資金決済法の前払式支払手段に該当する場合とは
実質的に個人間送金を行うような収納代行サービスは、法改正によって資金移動業の対象に
収納代行サービスとは、商品などの対価を支払う際に、サービス事業者が、買主から売主に代わって代金を受領し、これを商品販売者などに渡す、というものです。
一例をあげると、割り勘アプリ「paymo」(2019年サービス終了)があります。このアプリは資金移動業の規制を受けないように、サービスの利用規約にて、paymoのサービスは「収納代行サービス」にあたるとしていました。
ただ、「収納代行サービス」と名乗ってはいても、実質的には個人間の送金を行うサービスであり、利用者保護の観点から、資金移動業の登録を求めることが必要である、とかねてより問題となっていました。
これを受けて、令和3年5月の法改正により、従来より「収納代行サービス」と称されているサービスのなかで、一定の要件に該当する取引は「為替取引」に該当し規制対象(資金決済法2条の2)とされ、その要件は、資金移動業府令(1条の2)にて明確化されました。
金銭債権を有する者(以下この条において「受取人」という。)からの委託、受取人からの金銭債権の譲受けその他これらに類する方法により、当該金銭債権に係る債務者又は当該債務者からの委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)その他これに類する方法により支払を行う者から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該受取人に当該資金を移動させる行為(当該資金を当該受取人に交付することにより移動させる行為を除く。)であって、受取人が個人(事業として又は事業のために受取人となる場合におけるものを除く。)であることその他の内閣府令で定める要件を満たすものは、為替取引に該当するものとする。
資金決済法2条の2
よって、本改正では、
- お金の支払を求める権利をもつ者(債権者)か、支払義務を負う者(債務者)からの依頼でお金を移動させること
- 債権者が事業者ではなく個人であること
- その他内閣府令で定める要件を満たしていること
の3つの要件を満たすものは「為替取引」に該当することとなりました。割り勘アプリは、上記要件を満たすので、改正の結果、資金移動業の登録が必要になったとされています。
割り勘アプリは送金機能に特化したサービスであり資金移動業と同視できるという点や、サービスを提供する事業者が破綻した場合でも経営者は一定金額を保全する必要がなく、債権者・債務者双方が損害を被るおそれがあるため、利用者保護を確保する必要性が高い点、等が今回の理由だとされています。
資金移動業の登録に必要な登録要件と登録後の義務
資金移動業者として登録するためには、主に以下の要件があります。
- 株式会社または国内に営業所のある外国資金移動業者であること
- 資金移動業を適正かつ確実に遂行するために必要な財産的基盤があること
- 資金移動業を適正かつ確実に遂行する体制が整備されていること
- 他の資金移動業者と同一または類似の商号や名称を使用していないこと
また、登録後も、多くの義務があり、例えば下記があります。
- 履行保証金の保全
- 利用者の保護を図るための措置を講じる
- 裁判外紛争解決制度(金融ADR制度)への対応
- 報告書の作成・提出
それぞれ、以下で説明します。
なお、令和3年5月の法改正により、資金移動の額の大きさによって、「第一種(金額の制限なし)」「第二種(100万円に相当する額)」「第三種(5万円に相当する額)」と新たに種別が分けられ、その種別に応じて規制内容が異なる、と改正されました。
登録の際には、提供する予定のサービスの取扱金額をもとに、この3つのどの種別の資金移動業で営むのかを決定する必要があります。
資金移動業の主な登録要件
資金決済法40条1項より、資金移動業の主な登録要件は、以下の通りです。
1.「株式会社」又は「国内に営業所を有する外国資金移動業者」であること
株式会社であること、または外国の法令により資金移動業の登録を受けて為替取引を行っている、日本国内に支店のある事業者であることが必要です。
2.「資金移動業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる財産的基礎」を有すること
- 履行保証金の供託等の義務を履行できるか
- ユーザーに対する資金の授受をスムーズに行えるだけの態勢をとっているか
- 収支の見通しについて、あらゆる状況を想定した対応方策が確立されていて、その場合でも一定の収益を見込める計画が確立されているか
事業者は、このような観点から財産的基盤を審査されます。
「履行保証金」とは、事業者が100%以上を保全することが義務付けられる、送金途中の資金です。なお資金移動業者に求められる財産的基盤に、定量的な基準は設けられていません。
3.「資金移動業を適正かつ確実に遂行する体制の整備」および「第3章 資金移動」の規定を遵守するために必要な体制の整備」が行われていること
資金決済法で定められている資産保全義務など、送金業務を行うのに十分な業務運営や業務管理がなされるが確実に履行されることが必要になります。
4. 他の資金移動業者と同一又は類似の商号・名称を用いていないこと
他の資金移動業者と商号や名称が同一または類似していると、利用者の保護に欠ける可能性があります。
なおこの他に、
- 過去5年間に、資金移動業の登録、資金清算業の免許を取り消されたり、資金決済法、銀行法等に相当する外国の法令の規定により同種の登録、免許を取り消されたことがないこと
- 過去5年間に、資金決済法、銀行法等、出資法またはこれらに相当する外国の法令に違反し、罰金の刑又はこれに相当する外国の刑に処せられたことがないこと
- 他に行う事業が公益に反しないこと
- 取締役等に不適格者がいないこと
などもあります。
資金移動業の登録を受けた後の義務
登録を受けた後からは、主に以下の4つの規制が課されます。
- 履行保証金の保全
- 利用者保護の措置
- 金融ADR制度への対応
- 報告書の作成・提出
1.履行保証金の保全
資金移動業者は、送金途中にあり滞留している資金の100%以上の額を履行保証金として保全しなければなりません。
「要履行保証額」は、「資金移動業の種別ごとの各営業日における未達債務の額+還付手続に関する費用の額」で計算されます。
各営業日ごとに資金移動業の種別ごとの要履行保証額を把握する必要があります。
2.利用者保護の措置
資金移動業者は、利用者の保護を図るための措置を講じる必要があります。具体的には、以下の通りです。
(1)利用者が銀行等が行う為替取引と誤認することを防止する措置
(2)為替取引に係る手数料その他の契約内容に関する情報の提供
(3)利用者資金の保全内容や、無権限取引が行われた場合の取り扱いに関する情報の提供
(4)社内規則等を定め、従業者に研修等を行うこと
3.金融ADR制度への対応
資金移動業者は、裁判外紛争解決制度(金融ADR制度)への対応が必要です。
金融ADR制度とは、裁判外紛争解決制度ともいい、公平な第三者の仲立ちにより裁判によらずに話合いで紛争の解決を図る制度のことです。資金移動業は本制度の適用対象となっており、関連する苦情処理措置および紛争解決措置を講じなければなりません。
4.報告書の作成・提出
資金移動業者は、事業に関する帳簿書類を作成したうえで、保存する必要があります。
加えて、事業概況書、資金移動業に係る収支の状況を記載した書面、貸借対照表、損益計算書、といった書類を事業年度の末日から3ケ月以内に金融庁長官宛てに提出することが定められています。
まとめ:投げ銭システムを構築するなら弁護士に相談
投げ銭サービスが資金移動業に該当する場合は、資金移動業の登録を受ける必要があります。登録を受けるには厳しい登録要件を満たさなければなりませんので、登録を受けるのが難しそうな場合は、サービスが資金移動業に該当しないようによく検討しましょう。
ただ、資金決済法などの法律は複雑なうえ、投げ銭サービスは新しいサービスですので、どういったサービスに資金移動業の規制がかかるのかについてはいまだ議論が続いています。
サービスを始めてから「実は資金移動業の登録が必要だった」ことが分かれば、サービスの停止を余儀なくされることもあります。
ご心配な場合は、サービス開始前にITや資金決済に関する法律に詳しい弁護士へ相談しましょう。
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