UIやメニューなどのデザイン盗用は著作権侵害になるか
近年、インターネットが急速に発展し、様々なwebサイトやアプリケーションが存在しています。
webサイトやアプリケーションについては、利用者がより利用しやすい工夫がなされており、UIやメニューなどがwebサイトやアプリケーションの利用しやすさに大きな影響を与えます。
UIやメニューについては、いわばwebサイトやアプリケーションのデザインであり、一般的にはwebサイトやアプリケーションのコンテンツよりも著作権が軽視される傾向にあると考えられます。
ただ、UIやメニューは、利用しやすさに大きな影響を与えるものである以上、webサイトやアプリケーションを構成する重要な要素であり、著作権に関する問題を無視することはできません。 そこで、本記事では、UIやメニューなどのデザインに関する著作権について解説をします。
この記事の目次
UIとは
まず、UIの著作権に関する問題を理解するためには、UIがどのようなものかを正確に理解する必要があります。
そこで、以下では、UIについて説明をします。
UIとは、ユーザーインターフェース(User Interface)の略で、コンピュータの利用者が情報を受け取るために用いられる仕組みや、入力するために用いられる仕組みのことをいいます。
例えば、パソコンを利用する場合、キーボードで文字を入力したり、ディスプレイ上のカーソルをマウスなどで移動させ、文字を入力したりすることができます。
このような仕組みは、パソコンを利用する際に、何気なく利用されていますが、開発者により開発された仕組みになります。 UIについては、さらに細かく分類すると、CUI(Character User Interface)やGUI(Graphical User Interface)がありますが、主にデザインが関係するのは、GUIになります。
メニューとは
メニューの著作権に関する問題を理解する場面でも、メニューがどのようなものかを正確に理解する必要があります。
そこで、以下では、メニューについて説明をします。
メニューとは、コンピュータのディスプレイ装置の画面上に表示される操作項目の一覧表のことをいいます。
例えば、パソコンを利用する場合に、「ファイル ホーム 挿入 描画」などの操作項目が一列に並んで表示されていることなどがありますが、これがメニューになります。
メニューについては、当たり前ですが、勝手にそのように並んでいるわけではなく、開発者が操作項目や操作項目の並べ方を考え、作成したものになります。
著作権とは
著作権という権利を耳にしたことがある人は多いと思いますが、「著作権」とは、著作物について、著作者に認められる権利のことをいいます。著作権については、特許権のように登録等の手続を行わなくとも、著作をした時点で、何らの手続を要することなく法律上当然に発生します。著作権は、法律上認められるために、特別な手続を要しないことから、無方式主義と言われます。そして、著作物について、著作権法2条1項1号では、以下のように規定されています。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
この著作権法2条1項1号から、創作物の全てが著作権法でいう著作物に該当する訳ではなく、著作物と認められるためには、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するといえる必要があります。
web上のデザインに関する著作権について
「アイディア」と「表現」の区別
著作権法は、「アイディア」と「表現」を区別した上で、後者、つまり「表現」を守るものです。これはUIやデザインに限った話では無く、著作権法の一般論です。例えば、
- 小説のプロット→アイディア
- 具体的な文章→表現
というような区別です。極端な例を挙げれば、推理小説におけるトリックの盗用は、小説として「許されない」ものではありますが、しかし著作権侵害とはなりません。それはあくまで「アイディア」であり、著作権法が守る対象ではないからです。
Web上のデザインは「アイディア」か「表現」か
これは、一般論としての結論を述べるのが難しいテーマです。例えば、「ブログサイトを2ペインで設計する」というのは、「アイディア」に過ぎず、具体的な表現とまで言えません。これに対し、「左ペインに本文を、右ペインにメニューを置き、その縦横比は80:20にする」というのは、一応「表現」とは言えるかもしれません。しかし、そもそも2ペインを選択した時点で、その縦横比の取り方のパターンは限定されており、「80:20の比率」というものは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」とまでは言えないでしょう。
しかしこれが、開発者が工夫を凝らして考えた、広範な選択肢の中であえてそれを選んだ、というようなレベルであれば、それは「思想又は感情を創作的に表現したもの」と言えるケースもあると言えます。そうしたケースでは、そうした細かいレベルまで一致しているデザインは著作権侵害となるケースもあります。
非常に抽象的になってしまいますが、ケースバイケースの判断であると言えます。
レイアウトや色の使い方自体には著作権は認められない
上記のように、web上のデザインには一般的に著作権が認められると考えられますので、そのデザインをそのまま真似をしてしまうと著作権侵害となる可能性があります。
それでは、他者が開発したUIやメニューのレイアウトや色の使い方を真似して、自分でUIやメニューを開発することは著作権侵害になるのでしょうか。
これについては、web上のデザインに関する著作権の難しいところではありますが、著作権の侵害にはならないものと考えられます。
前述のように、著作権が認められるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」である必要があります。
ただ、web上のデザインのうち、レイアウトや色の使い方については、「創作的に表現したもの」ということはできず、アイデアや手法に過ぎないものと考えられます。
そのため、web上のデザインのうち、レイアウトや色の使い方を真似たとしても、そのことだけをもって著作権侵害となる可能性は低いものと考えられます。
UIやメニューの著作権について
最近では、多くのwebサイトやアプリケーションが存在し、似たようなUIやメニューのwebサイトやアプリを目にする機会も多くなりました。
UIやメニューについては、特定のUIやメニューをそのままコピーし、他のサイトやアプリのデザインをそのまま使用した場合には、特定のUIやメニューの著作権者の権利を侵害する可能性が高いといえます。
ただ、前述のように、レイアウトや色の使い方に関していえば、「創作的に表現したもの」とはいえない可能性が高いため、著作物とはいえず、特定のUIやメニューのレイアウトや色の使い方を真似しても著作権侵害になる可能性は低いと考えられます。
仮に、特定のUIやメニューのレイアウトや色の使い方について、著作権が認められる場合には、その特定のUIやメニューのレイアウトや色の使い方を真似てUIやメニューを作成すると著作権法に違反する可能性はあります。
この場合には、特定のUIやメニューのレイアウトや色の使い方と、それを真似て開発されたUIやメニューのレイアウトや色の使い方との類似性が問題となります。
ただ、この類似性に関しても、ありふれた部分ではなく、著作物性がある部分が類似していなければならないため、著作権侵害が認められ範囲は必ずしも広くないと考えられます。
UIやメニューを著作権法以外で保護する方法
UIやメニューが著作権法で保護される範囲は必ずしも広くないことは前述のとおりです。
それでは、UIやメニューを著作権法以外で保護することは可能なのでしょうか。
著作権法以外では、特許法や意匠法などによる保護の可能性も考えられます。
ただ、特許に関しては、新規性や進歩性が否定される可能性が高く、特許権が認められる範囲は必ずしも広くありません。
一方、意匠法に関しては、2020年4月に改正法が施行され、画面のデザインなどデジタル画像が保護の対象となりました。
この改正によりUIやメニューが保護される範囲が広がったと考えられますので、意匠法による保護もUIやメニューの保護の重要な選択肢となりました。
詳しくは、下記の特許庁のサイトや参考記事をご参照ください。
IoTやAIといった新しいデジタル技術を活用したビジネスでは、物としての製品よりも、ソフトウェアやスマホアプリなどを主体とするサービスが増えてきています。そうしたサービスにおいては、ユーザーと機器との接点となる画像デザインが重要となってきます。しかし、画像デザインをいくら使いやすく独創性の高いものにしても、従来の意匠制度では、「物品の形状等」ではないという理由で権利として保護されません。そうすると、簡単に真似され、模倣品があふれてしまい、投資を回収できないリスクが高まります。そうなると、画像デザインを創作するインセンティブが無くなり、ソフトウェアやアプリを用いた画期的なサービスが生まれません。今回「画像」の保護が可能になったことで、そのようなビジネスであっても投資したコストを回収でき、それを基に新たな意匠創作や商品開発へつなげていく。そんなデザインを活用したビジネスの好循環を期待できます。
https://www.jpo.go.jp/news/koho/kohoshi/vol44/07_page1.html
まとめ
以上、UIやメニューを例にとって、web上のデザインの著作権について説明をしました。
Web上のレイアウトや色の使い方を著作権法で保護することはなかなか難しいことではありますが、著作権侵害が成立する場合もありえますので、著作権を侵害するものであるか否かについて慎重に判断をする必要があります。
また、意匠法の改正により、意匠法による保護の可能性が広がったことにも留意する必要があります。
Web上のデザインに著作権が認められるか、また、著作権侵害となるかなどの判断に関しては専門的な知識が要求されるため、知的財産権に強い法律事務所に一度相談してみることが重要だといえます。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務