ドメインの移転請求に関する裁判の仕組みとは?
インターネット普及に伴い、事業者にとっては、インターネットを通じた営業・広報等のビジネス活動の重要性が高まり、それとともにドメイン名が高い価値を有するようになってきました 。
ドメイン名を他社に取られてしまった場合、「ドメインの移転請求」という手段で対抗することが可能ですが、本記事では、「ドメインの移転請求」のうち、訴訟による解決法について解説します 。
この記事の目次
自社名や商品名のドメインを他人に取得される危険
自社名や商品名のドメインを他企業等に取得されてしまうことは、防がなければなりません。自分がそのドメインでサイトを運営できなくなるというのはもちろんですが、サイバースクワッティング(Cybersquatting)、いわゆるドメインの不正取得等のトラブルに巻き込まれてしまう可能性があるからです。
サイバースクワッティングとは、成長しそうな企業・商品の名称など、後で高く売れそうなドメイン名を先に登録しておいて成長後に高値で売りつける、あるいはドメイン名に著名な名前を使用し、その著名性を利用してユーザーに故意に誤認・混同を生じさせて、自分のWebサイトにユーザーを引き寄せようとする行為のことです。国内では、百貨店の松坂屋より先に「matsuzakaya.co.jp」を取得した者が当該ドメインでアダルトサイトを運営し、松坂屋に高値で売り付けようとした事件などが有名です。
ドメインの移転請求
こうしたサイバースクワッティングに対しては、「ドメインの移転請求」という手段で対抗することが可能となっています。
ドメインの移転請求には、二つのルートがあります。
- 紛争処理
- JPドメイン名については、JPNIC(一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)が定める「JPドメイン名紛争処理方針」に基づき、JPNICの認定紛争処理機関に紛争処理を求めることができます。申立人は登録者のドメイン名登録の取消請求又は当該ドメイン名登録の申立人への移転請求をすることが可能です。
- 一般ドメイン名については、ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)が定める「統一ドメイン名紛争処理方針」に基づきICANNの認定紛争処理機関へ紛争処理を求めることができます。申立人は登録者のドメイン名登録の取消請求又は当該ドメイン名登録の申立人への移転請求をすることが可能です。
- 訴訟
- 裁判所に提起し、不正競争防止法に基づき、処理してもらいます。
裁判所に提起し、不正競争防止法に基づき、処理してもらいます。
紛争処理は簡易で時間もかかりません(最大でも57日)が法的拘束力はありません。また、紛争処理で裁定結果に不服のある当事者は管轄裁判所へ出訴することが可能となっており、最終決定ではありません。 この紛争処理については、当サイトの別記事「ドメイン名の取消または移転について弁護士が解説」で、解説しています
ドメイン名の不正取得行為と不正競争
ドメイン名の不正取得等の行為は不正競争防止法において、不正競争のひとつとされています
第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
不正競争防止法 第2条
19 不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為
つまり、①不正の利益を得る目的又は他人に損害を加える目的で、②他人の特定商品等表示と同一もしくは類似の、③ドメイン名を使用する権利を取得し、もしくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為は「不正競争」にあたるとされています。
なお、末尾が「.jp」となっている日本の国コードドメイン名だけでなく、諸外国の国コードドメイン名(例えば「.uk」、「.kr」、「.de」等)や末尾が国コードとなっていない一般ドメイン名(例えば「.com」、「.net」、「.org」、「.info」等)のいずれも、不正競争防止法の対象と なります。
ドメイン名の不正取得等の行為は、この不正競争防止法に基づき、裁判所に提起して処理してもらうことが可能であり、これが上にあげた「訴訟」というルートになります。
不正競争防止法の効果
不正競争によって営業上の利益や信用を侵害された人(会社)は、①ドメイン名の使用差止(不正競争防止法第3条)、②損害賠償(同法第4条、第5条)、③信用回復措置(同法第7条)を請求することができます。
経済産業省の「ドメイン名の不正取得等:電子商取引及び情報財取引等に関する準則」によれば、これまでの裁判例や民間の紛争処理事例には、①ドメイン名の取得や使用が不正の目的等と認められたケースと、②ドメイン名が他人の商品や商標等と同一又は類似であると認められたケースがあるとされています。
ドメイン名の取得や使用が不正の目的等と認められたケース
これまでに、上の①である「ドメイン名の取得や使用が不正の目的等と認められたケース」としては、以下の例があげてあります。
- 著名な事業者の商標等と同一又は類似のドメイン名を取得し、事業者の信用や顧客吸引力を利用し、商品販売を行うケース
- 著名な事業者の商標等と同一又は類似のドメイン名を取得、使用し、当該ウェブサイト上で事業者を誹謗・中傷する内容の表示を行い、信用毀損を図るケース
- 著名な事業者の商標等と同一又は類似のドメイン名を使用し、ポルノグラフィカルなウェブサイトを開設するケース
- 著名な事業者の商標等と同一又は類似のドメイン名を使用し、当該ドメイン名を自己のウェブサイトへの転送を目的として利用しているケース
- 著名な事業者の商標等と同一又は類似のドメイン名を取得し、事業者がウェブサイトを開設し事業を行うことの妨害を目的として、当該ドメイン名を保有し続けるケース
- 著名な事業者の商標等と同一又は類似のドメイン名を登録し、当該ドメイン名の移転について不当な対価を要求するなど、ドメイン名の転売が目的と考えられるケース
これらのようなケースは不正競争防止法上、不正競争に該当する可能性が高いといえます。
他人の商品や商標等と同一又は類似であると認められたケース
これまでに、上の②である「ドメイン名が他人の商品や商標等と同一又は類似であると認められたケース」としては、以下の例があげてあります。
- 「jaccs.co.jp」と JACCS
- 「j-phone.co.jp」と J-PHONE
- 「sunkist.co.jp」と SUNKIST、Sunkist
- 「sonybank.co.jp」と SONY
- 「itoyokado.co.jp」と Ito Yokado
- 「goo.co.jp」と goo
やはり、これらのようなケースは不正競争防止法上、不正競争に該当する可能性が高いといえます。
ドメインの移転請求が認められる条件
どちらのルートを用いるにせよ、「処理に用いられるルール」はほぼ同じであり、おおむね、
- 自社にはそのドメインを使う正当な利益等がある
- 相手にはそのドメインを使う正当な利益等がない
上記の2条件を満たせばドメインの移転請求が認められる、というものです。
ただ、上記の「正当な利益等」を主張するには、基本的には商標権が必要です。つまり例えば、単に「自分の会社は『モノリスビール』というビールを発売しているのだから『monolith.com』ドメインを使う正当な利益等がある」と言うだけでは十分でない可能性があり、「自分の会社は『モノリスビール』の商標権を持っている」と主張する方が確実です。
相手が同じ名称の商標権を持っている場合
さて、では例えば、自社が「モノリスビール」という商標権を持っている場合、「monolith.com」ドメインを持っている相手には「正当な利益等」がない、と言えるのでしょうか。 ここが、重要なポイントです。
商標権は、
- 日本全国の他の企業に対して
- 自分と同一又は類似する分野(区分)での
- 自分と同一又は類似する名称(標章)の利用
を禁止する権利です。ということは、自社が商標権を取得したとしても、他の分野(区分)に自分と同じ名称の商標権を持っている企業があるかもしれません。
そして、ドメインは「分野(区分)」と関係なく、世界に一つです(さらに、一つの会社が「.com」「.net」「.jp」全てを取得することなども可能です)。同じ名称の商標を持っている企業同士では、完全な「早い者勝ち」になってしまうのです。
まとめ
ネット時代においては、商標権とドメインは、どちらもビジネスにとって非常に重要です。
企業名や商品名決定のために理解しておくべき、商標とドメインの基本と、それらの関係を理解しておく必要があるでしょう。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務