弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

トリップアドバイザーにおける風評被害対策とは?

風評被害対策

トリップアドバイザーにおける風評被害対策とは?

旅行を計画したとき、以前は旅行代理店を通して代理店の店頭で宿泊施設や航空券の予約を取ることが主流でした。しかし、現在ではWEBサイトで口コミを調べて自分で直接宿泊施設や航空券の予約をとることが増えています。宿泊施設等に関する口コミサイトは、世界的に展開されている大規模なものも複数あります。その中でもトリップアドバイザーについては、宿泊施設や観光地について検索すると上位に表示されやすく、利用したことのある人も多いと思われます。このような利用者の多いサイトの口コミが宿泊施設等に与える影響は極めて大きいものがあります。そこで、トリップアドバイザーに誹謗中傷の口コミが投稿された場合における風評被害対策について解説します。

トリップアドバイザーに関する解説

トリップアドバイザーは、アメリカ合衆国マサチューセッツ州に本社のあるTripAdvisor LLCが「世界最大の旅行プラットフォーム」と称して運営しているWEBサイトです。トリップアドバイザーでは、世界中の宿泊施設、観光地、レストラン、航空会社、クルーズなどについての口コミが投稿されているほか、WEBサイトを通じて宿泊施設やツアーの予約を取ることもできます。トリップアドバイザーは、アメリカから始まったWEBサービスですが、2020年2月時点で世界49の国と地域、28言語でサービスが展開されています。日本においても日本語サイトが開設されており、2008年には日本法人であるトリップアドバイザー株式会社も設立されています。2020年2月現在、トリップアドバイザーの利用者は毎月4億6000万人、掲載されている宿泊施設等は860万件、口コミ数は8億3000万件と極めて大規模なサイトです。昨今では海外からの観光客が来日する機会も多いため、世界中の旅行客に大きな影響力を持つトリップアドバイザーにおける口コミは宿泊施設等の売上を大きく左右することになります。

トリップアドバイザーではどのような風評被害があるのか

トリップアドバイザーにおけるネガティブな口コミ例を挙げていきます。

トリップアドバイザーにおけるネガティブな口コミとしては、「宿泊施設やレストランの接客対応が悪かった」といった従業員の対応に関するものや、「隣の部屋の音がして眠れなかった」、「Wi-Fiの電波が悪くて仕事にならなかった」等の施設面に関するものが目立ちます。施設側は口コミに対して個別にコメントを書き込むことができるため、投稿された口コミの内容が事実であれば真摯に謝罪するコメントを投稿することでかえって閲覧者に良い印象を与えることもできます。もっとも、外国人への差別感情に基づく「従業員に外国人が多く不安を感じた」といったものや、不正確な憶測に基づく「レストランで使用されている米は国産ではないらしい」といった問題のある口コミが投稿される可能性もあります。このような口コミは、閲覧者にマイナスイメージを与えることになります。また、トリップアドバイザーでは、口コミと同時に☆の数で評価を付ける機能があるところ、マイナスの口コミが投稿されると同時に最低評価を付けられれば施設等の全体的な評価にも影響します。旅行者が利用する宿泊施設等を検討する場合、☆の数による全体評価をまず確認する傾向にあり、全体評価の低い施設はそもそも詳細内容すら見ることなく検討から外されることが多いため、経営への影響はより甚大です。

利用規約違反で削除請求する方法

トリップアドバイザーにおいて風評被害につながる口コミが投稿された場合にまず検討するのは、トリップアドバイザーが定める口コミ投稿に関するルールに違反した口コミであるとして直接サイト運営者に口コミの削除を依頼する方法です。

トリップアドバイザーの利用規約

トリップアドバイザーにおいて、口コミの投稿に関するルールはいくつかのWEBページに散逸して記載されており少々複雑です。まとめると、以下のとおりです。まず、トリップアドバイザーは、投稿された口コミが削除の対象となり得る場合として、以下の3つを挙げています。

否定的な口コミがあった場合の 3 つの対策

そして、口コミガイドラインでは、口コミを投稿する際のルールとしてトリップアドバイザーのコンテンツポリシーおよび以下の7項目を順守するよう求めています。(参照)https://www.tripadvisorsupport.com/hc/ja/articles/200614797

  • 最新の情報であること
  • 営利的でないこと
  • 関連性があること
  • 偏りがないこと
  • 実際の体験に基づいていること
  • 読みやすいこと
  • トリップアドバイザーに掲載されていること

さらに、コンテンツポリシーでは上記7項目と重複するものを除外すると以下の3項目が口コミを投稿する際に順守されるべき事項として定められています。(参照)https://www.tripadvisorsupport.com/hc/ja/articles/360008133913

  • 未成年に有害な内容でないこと
  • オリジナルの内容であること
  • プライバシーを尊重していること

したがって、トリップアドバイザーの利用規約違反に基づいて口コミの削除を求める場合には上で挙げた項目のいずれかに違反していると主張する必要があります。項目をまとめると次のとおりです。

  • 間違った施設に投稿された場合
  • トリップアドバイザーの口コミガイドラインに違反している場合
  • 不正が疑われる場合
  • 最新の情報であること
  • 営利的でないこと 関連性があること
  • 偏りがないこと
  • 実際の体験に基づいていること
  • 読みやすいこと
  • トリップアドバイザーに掲載されていること
  • 未成年に有害な内容でないこと
  • オリジナルの内容であること
  • プライバシーを尊重していること

トリップアドバイザーへの問い合せ方法

口コミの削除を求めるのが施設側である場合には、まずオーナー登録をする必要があります。オーナー登録が完了したら、施設管理ページの「口コミ」のタブから「口コミを報告」を選択します。このようにして表示される問い合わせフォームに削除を求める口コミが何であるかを示したうえで、削除すべきと考える理由をコンテンツポリシー等にあてはめて説明します。トリップアドバイザーは、削除までには最長2営業日かかるとしています。

口コミの削除に関するトリップアドバイザーの姿勢

トリップアドバイザーは口コミの削除に積極的ではありません。トリップアドバイザーは旅行代理店などの営利目的を排除した旅行者の生の声を掲載することをポリシーとして開設されたサイトであるためです。実際に「コンテンツの公正性に関するポリシー」と題するウェブページ内でも以下のように表明しています。

トリップアドバイザーは個人の体験をよりよいものとすることを望んでいるため、サイトから口コミを安易に削除することはしません。検閲を導入し、施設のオーナーが同意できない口コミを削除する方が簡単かもしれません。しかしそれは、誠実なお客様に経験を語っていただきたいという弊社の信念に反することです。

トリップアドバイザー|コンテンツの公正性に関するポリシー

また、トリップアドバイザーは以前、ある旅行者がメキシコのホテルで警備員から性的暴行を受けたとの口コミを投稿したにもかかわらずこれを削除したことでメディアから批判を受けたことがあります。このため、口コミの削除については今後より一層慎重に対応することになるでしょう。したがって、利用規約違反に基づき直接トリップアドバイザーに直接口コミの削除を求めたとしても、明らかな事実誤認や違法性がある場合でない限り受け入れられる可能性は低いと考えておいた方が良いといえます。

従業員に外国人が多く不安を感じたとの口コミ

口コミガイドラインおよびコンテンツポリシーでは口コミの投稿に「関連性があること」を求めています。これは、口コミを閲覧した旅行者にとって参考となるよう、宿泊施設等のサービス内容に直接関係のない政治、倫理、宗教、社会問題などの個人的な意見を排除するための順守事項です。したがって、例えば「従業員に外国人が多く不安を感じた」という口コミに関しては、外国人が多いことと宿泊施設等で提供されるサービスとが直ちに関連するものとはいえません。このような口コミは外国人に対する偏見や差別感情に基づくものであるため、「関連性」がないとして削除を要求することになります。

レストランで使用されている米が国産ではないらしいという口コミ

口コミガイドラインは投稿された口コミが「実際の体験に基づいていること」を求めています。これは、風評やうわさによる不確実な口コミを排除する目的によるものです。したがって、例えば「友人からこのレストランで使用されている米が国産ではないらしいと聞いた」という口コミについては、単に友人からのうわさを投稿しているに過ぎません。投稿者本人がレストランに行って確認した内容でもない限り、このような口コミは「実際の体験」に基づかない口コミであるとして削除を求めることになります。

違法だとして削除請求する場合の例

利用規約に違反している書き込みに対してはどのような対策があるでしょうか。

誹謗中傷の書き込みは単に利用規約に違反するというだけでなく、違法行為と評価されることがあります。典型的な例は名誉毀損が成立する場合です。名誉毀損は、原則として人の社会的評価を低下させる事実が書き込まれた場合に成立します。ただし、投稿された事実が真実である場合または真実であると信じるべき正当な理由・根拠がある場合には名誉毀損は成立しません。名誉毀損の成立要件に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

例えば、実際にトリップアドバイザーで問題となった「ホテルAの警備員が利用客に性的暴行をした」という口コミについては、犯罪行為に関するものでありホテルや従業員の社会的評価を低下させる事実と評価できます。したがって、この口コミの内容が事実無根である場合には名誉毀損が成立する可能性があります。

仮処分による削除

上でも説明したように、トリップアドバイザーの口コミについては直接削除依頼しても応じてもらえないことが多いでしょう。このような場合には、裁判所に簡略な裁判手続である仮処分申立てをする必要があります。投稿の削除を求める仮処分に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

仮処分による投稿者特定

トリップアドバイザーへの口コミによって現実に損害が発生した場合や口コミが悪質と思われる場合には、損害賠償(慰謝料)請求や刑事告訴も視野に入れることになります。そのためには投稿者を特定する必要があります。投稿者を特定するための手続を発信者情報開示請求といいます。
発信者情報開示請求においては、まずサイト運営者から問題の口コミに対応するIPアドレスおよびタイムスタンプを開示してもらい、これを手掛かりに投稿に利用されたインターネットサービスプロバイダを特定します。そして、インターネットサービスプロバイダに対して投稿者の個人情報の開示を請求する流れになります。口コミの削除とは異なり、投稿者の特定においては個人情報という秘匿性の高い情報の開示につながるものであることから直接問い合わせても応じてもらえません。したがって、発信者情報開示請求においては最初から裁判手続を利用することが一般的です。発信者情報開示請求に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

国際裁判管轄

トリップアドバイザーは「日本において事業を行う者」であるため日本の裁判所に訴訟を提起することが可能ですが、本社があるアメリカから資格証明書を取得する手続きを英語で行う必要があります。

トリップアドバイザーに対する裁判手続を行う際に注意すべきこととして国際裁判管轄という問題があります。これは、WEBサイトを運営するTripAdvisor LLCが外国の企業であるため、日本国内の裁判所にTripAdvisor LLCを相手方とする訴訟を提起できるかという問題です。結論としては、トリップアドバイザーの場合は少なくとも日本在住者向けに日本語サイトが存在しています。したがって、「日本において事業を行う者」といえ、以下に引用する民訴法3条の3第5号に基づき日本の裁判所に訴訟を提起することができると考えられます。

民事訴訟法第3条3
次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。
(略)
五 日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)に対する訴え 
当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるとき。

ただし、日本の裁判所に訴訟提起するためには、TripAdvisor LLCの本社があるアメリカ合衆国マサチューセッツ州から日本の商業登記に準じた資格証明書を取得するなどといった手続を英語で行う必要があり、日本国内の企業を相手に訴訟を行う場合よりも手間と時間がかかります。 投稿者の特定については、インターネットサービスプロバイダがログを保存している期間が短いため、もともと時間制約が厳しいという事情があります。したがって、トリップアドバイザーに対して投稿者の特定を検討している場合には、より迅速に手続に着手する必要があります。国際裁判管轄に関しては、下記記事にて詳細に解説しています。

まとめ

トリップアドバイザーは世界的な規模で展開されるWEBサービスであるため、観光業界における影響力は甚大です。そこで、問題のある投稿があれば直ちに裁判手続も含めて対処方法を検討する必要があります。加えて、トリップアドバイザーのように外国にある企業が運営するWEBサイトに関しては英語でのやり取りも必要となるため特に高い専門性が求められます。このため、ネット上の誹謗中傷対策について経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る