弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

会社での私用メールを理由とした懲戒解雇の有効性の判断とは?

従業員に対する懲戒解雇を、理由無く行う事はできません。懲戒事由が存在する場合に、その悪質性などに基づく適正な懲戒を行う事はできる、というのが、法の基本的な建付です。

では、就業中の私用メールを理由とした懲戒解雇は、どの程度認められているのでしょうか?結論から言うと、これは、単にメールの数だけを問題とするものではなく、様々な要素を総合的に考慮した上での判断となります。また、例えば

  • 私用メールを禁止する職務規程などが存在し、それに文言上違反していれば解雇は有効
  • そうした職務規程などが存在しない場合には、解雇は無効

といった判断でもありません。過去の裁判例で、従業員の私用メールを理由とした懲戒解雇の有効性が問題となった事案について紹介します。

私用メールの監視はプライバシー侵害にならないか

なお、この問題について考える上では、まず前提として、そもそも従業員が私用メールを行っていることを、使用者が監視することが法的に問題ないのか、という問題があります。行き過ぎた監視は従業員のプライバシーとの関係で問題となるからです。この点に関しては別記事にて詳細に紹介しています。

5年間で約1600通のやり取りの場合

以下、私用メールを原因とした懲戒解雇の有効性が問題となった裁判について紹介します。

まず、専門学校の教師が、勤務中に職場のパソコンを利用していわゆる出会い系サイトに登録し、大量のメールのやり取りを続けていたなどとして懲戒解雇され、その懲戒解雇の有効性が問題になった事例があります。

被控訴人が、控訴人学校から貸与された業務用パソコン及び同学校のメールアドレスを使用して出会い系サイトに登録し、同サイトで知り合った女性らとの間で大量のメールを送受信したこと(平成10年9月頃から平成15年9月頃までの送受信記録がそれぞれ約800件で、その半数程度が勤務時間内に受送信されていた)を理由として、懲戒解雇されたことに対し、懲戒解雇は解雇権の濫用であって無効であるなどとして、学校に対し雇用契約上の地位の確認、未払賃金及び未払賞与の支払いを求めました。

原審では、被控訴人の一連の行為は職務専念義務や職場の規律維持に反するだけでなく、教職員としての適格性に疑問を生じさせ、控訴人学校の名誉信用にも係るものであり懲戒解雇事由に該当するとしながら、授業等の事務を疎かにはしていないし、学校業務に著しい支障を生じさせてはいないとして、懲戒解雇をもって臨むのは過酷にすぎ、懲戒解雇は解雇権の濫用であり無効であるとして、未払給与及び未払賞与の支払請求を認めました。

これに対し学校が提起した控訴審では、裁判所は、

被控訴人は、控訴人学校のものであることを推知し得る本件アドレスを用いてSMの相手を求める旨の内容のメールを送信していたものであり、かかるメールが第三者に閲覧可能な状態におかれただけで控訴人学校の名誉等を傷つけ得るものであって、このことは、上記メールを通じて被控訴人が現実に交際をしたか否かとは関わりのないところであるし、控訴人との雇用契約に基づき、被控訴人は勤務時間中、控訴人学校の職務に専念すべき義務を負っていたものと認められるにもかかわらず、被控訴人は、前記のとおり、長期間にわたり、膨大な量の私用メールを勤務時間中に送受信していたものであり、その分の時間と労力を本来の職務に充てれば、より一層の成果が得られたはずであって、かかる職務専念義務を軽視し得ないほどに怠っておきながら、事務を疎かにしなかったなどということはできない。   

福岡高等裁判所2005年9月14日判決

とし、職務専念義務違反であるとして、懲戒解雇は相当であるとしました。

この学校にはパーソナルコンピュータに関する使用規程はなく、他の職員もこれを少なからず私的に利用していたのですが、判決文では、「学校がパーソナルコンピュータの使用規程を設けていたか否かによって、その背信性の程度を異にするものということはできないし、被控訴人以外の控訴人学校の職員の中に、少なくとも、被控訴人に匹敵するほどに私用メールを繰り返していた者がいたことを推認させる証拠はない」としています。

「使用規定にないから」といって、勤務先のコンピュータを乱用し、膨大な量の私用メールのやり取りをすることが許されるわけではありません。特に、本件の場合には、勤務先の名誉を傷つけるようなメールの内容であり、厳しい対応もやむを得ないと言えるでしょう。

6か月間で約1700通のやり取りの場合

一方、6か月間、就業時間中に1700通の私的メールをやり取りしていた社員に対する、会社が行った解雇を無効として、この社員が会社を訴えた事例があります。情報処理会社で課長待遇のシステムエンジニアとしてコンピュータシステム設計の業務に従事していた原告に対し、システムエンジニアとしての十分な能力、プロジェクトにおけるマネージメント能力、営業能力のいずれも有していないばかりか、仕事への意欲も乏しく、明らかに能力不足のために勤務成績が不良であったと評価した被告会社が退職を勧め、この話し合いの中で、原告のメールの問題が取り上げられました。

被告会社は、勤務時間にパソコンでのチャットに熱中してパソコンを取り上げられたことがあったにもかかわらず、その後もNTTドコモのIPメッセンジャーを用いて私用メールを6か月間で約1700通送信していたものであり、その内容は、飲みに行くことの勧誘や、女性に対するセクハラまがいのもの、送別会の開催の呼びかけなど多岐にわたるものであって、このような送信行為は、原告の職務専念義務に反するばかりか、これを受けた同僚の業務をも妨害するものであるとし、重大な職務規律違反、著しい職務専念義務違反があったと主張しました。

これに対し、裁判所は、回数や内容について被告会社の主張を認め、「このように就業時間中に私的なやりとりをすることは、服務規律に反し、職務専念義務に反するものであり、しかも、原告がNTTドコモにおいて利用したコンピュータ等の機器類は、顧客から業務上の利用のために限定して使用を許されたものであることからすると、その行為には重大な問題を含むものであることは明らかである」として、服務規律違反職務専念義務違反を認めた上で、

しかしながら、職場環境を良好なものとするためには、ある程度私的な会話等を交わすことが有益であることは経験上も明らかであること、コンピュータ等の情報機器の利用に当たって、一定の限度において私的な利用を行うことは通常黙認されていることからすると、原告による上記私的利用は、その頻度や内容において、通常の限度をいささか超えるものとみられないではないものの、他方、これが極めて異常な職務専念義務違反であれば、これを受けた多くの相手方従業員から被告の管理者に申告があり、たちどころに問題視され、原告に対して何らかの注意や処分がされてしかるべきであるのに、何ら問題とされずに本訴に至ってはじめて被告が指摘することとなったものである

東京地方裁判所2007年6月22日判決

としました。それまで問題視されてこなかったこと、他に同種の行為を理由として懲戒処分が行われた形跡もないこと、本件で取引先等と何らかの問題が生じたわけでもないことなども考慮され、地位確認請求が認められ、未払い給与の支払いが命じられました。上の2つの例からは、私的メールは、その数だけで判断されるわけではないと言っていいでしょう。

13か月間で32通のやり取りの場合

就業時間内に1か月あたり2~3通の私的メールを送ったことを就業規則違反として解雇された会社員が、解雇権の乱用として会社を訴えた事例があります。

この会社には、

  • 会社内において業務以外の目的でコンピュータを使用しないこと
  • 会社内において私用メールの配信および受信を行わないこと
  • 会社内において業務以外の目的でインターネット接続を行わないこと

等の就業規則があったのですが、原告は、勤務時間中であるにもかかわらず、他の社員との間で、他の社員の誹謗中傷や業務と関係のないメールの送受信を多数繰り返し、他の知人との間でも多数の私用メールの送受信を行ったことを、就業規則違反とされたのです。

裁判所は、就業時間内の被告のメールのうち私用メールにあたるものがあるとしつつ、

就業時間内に世間話、同僚の批判やうわさ話、懇親会の打ち合わせといった業務と直接的に関係のない会話等をするといったことは世間で一般的に行われていることであるし、これらが業務上の円滑な人間関係の形成、維持のために必要となる側面も否定できないことからすれば、これらの行為があったからといって、これを全て職務専念義務違反に問うことが許されるものではない。そして、被告就業規則が私用メールのやり取りを禁止しているのも、主に従業員が就業時間中に私用メールのやり取りをすることにより職務を懈怠することを防ぐことに重点をおいてのものと解されることからすれば、原告の前記私用メールのやり取りも、これが、社会通念上許容される範囲を超え、職務に支障が生じさせる程度のものであったかどうかが問題とされるべきであって、これが肯定される場合に、初めて就業規則違反を問えると解される。   

2007年9月18日判決

と、これまでの裁判例と同様の判断をしつつ、

問題とされた平成16年4月5日から平成17年4月21日までの約13か月の間、原告が送信した私用メールは、証拠上32通であり(①ないし③)、その頻度は、1か月に2通から3通というものにすぎない。また、その内容も、中には、取引先の関係者からの世間話に応じたもの、母校の後輩からの就職相談に答えたもの、社員との懇親会の打ち合わせといったやむを得ないものや、その必要性をあながち否定しがたいものも含まれているし、証拠上、その作成に長時間を要し、業務に具体的支障を生じさせたと解されるメールも存在しない。   

同上

とし、「原告がした私用メールが社会通念上許容される範囲を超えるものであったとは認めがたく、これを就業規則違反に問うことはできないというほかない」として、解雇を無効としました。どのような就業規則があったにせよ、この程度のメール数を問題にすることには、やはり無理があります。

7か月間で28回のやり取りの場合

健康保険組合の職員であるX1とX2が、YのX1に対する降任処分及び減給処分、X2に対する減給処分について、処分事由が不存在ないし懲戒権の濫用であり無効であるとして、各処分の無効確認、減給された賃金控除分の支払と、X1は処分前の課長の地位にあることの確認、処分前後の手当差額分の支払等を求めた事例があります。

X1に対する懲戒処分の対象となった行為は、以下の通りでした。

  • 課員が就業時間内に私的なメール交信を行っていることを知りながら上司に報告せず、課員に注意しなかったこと
  • 自らも課員と私的なメール交信を行ったことであり、X2に対する懲戒処分の対象となった行為は、パソコンに許可なくヤフーメッセンジャーをインストールし、他の職員にこれを利用した会話に参加するように勧誘したこと
  • チャットを利用して勤務時間中に外部の者と私的連絡や会話を行ったこと
  • パソコンを使用して就業時間中に職員間で私的なメール交信を行ったこと

これらの行為が組合の職員服務規程「職員は物品を浪費し又は私用のために用いてはならない」との規定ないし「職員は執務時間中みだりに所定の勤務場所を離れてはならない」との規定に違反するか、また違反するとしても、その処分が懲戒権の濫用に当たらないかが主たる争点となりました。

パソコンの私的利用を巡る処分(第1次処分)について、Xらが行った私的なメール交信は組合の備品であるパソコンを私用のために用いたものであるから、規程(物品の私用禁止)に違反することは明らかであるとした上で、懲戒権の濫用にあたるか否かについて検討し、Xらの私的メール交信は頻度が多いとはいえないこと、組合では業務用パソコンの取扱規則等の定めがない上、各職員のパソコンの私的利用に対して注意や警告がなかったこと、交信記録の調査方法の公平性に疑問があることなどに加え、減給処分が労働基準法91条の「減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」との規定に違反していることから、Xらに対する減給処分は社会通念上重すぎて相当性を欠き、懲戒権の濫用として無効であると判示しました。(札幌地方裁判所2005年5月26日判決)

頻度に関しては、例えばX1の場合は約7か月間で28回にすぎないとしましたが、この点につき組合は、原告らが交信記録を削除したとして多数回の私的利用があったと推測できると主張しましたが、裁判所は、「懲戒処分は一種の刑罰であるから、証拠に基づかないで単なる推測・憶測に基づく処分は許されるべきではない」と、これを戒めました。

まとめ

本記事の冒頭で、私的メールがどの程度の数になると問題視されるのか、としましたが、問題とされるのは、私的メールの場合、その数だけではありません。
どのような条件下で、どのような環境で、どのような頻度で、どのような私的メールがやり取りされているかが問われます。職場等において私的メールが問題視されたら、あまりこじれないうちに、経験豊かな弁護士に相談されるとよいでしょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る